北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ミサイル防衛専用艦,ひゅうが型設計応用案【1】陸上配備イージスシステムの海上配備

2022-09-01 20:00:34 | 防衛・安全保障
■ひゅうが型護衛艦の原点回帰
 陸上配備イージスシステムの海上配備という、なぜ最初からイージス艦としてイージス艦用のレーダーを搭載しなかったのかの無理が試されようとしています。

 新しいイージス艦は過去にない巨大な護衛艦とならざるをえない、こういうのはSPY-7レーダーをそのまま搭載するという政府方針からです。SPY-7は陸上配備型であり、海上配備用とするような重量軽量化の制約がない中で設計されています。このため、まや型護衛艦にSPY-7をそのまま搭載した場合、重心に重大な影響が及ぶ可能性は否定できません。

 SPY-7搭載のイージス艦は、こんごう型護衛艦の後継ではなく完全に別枠として建造されることとなり、こんごう型後継護衛艦はおそらくSPY-6を搭載した護衛艦まや型の改良型、となるのでしょう。しかし、まや型にSPY-7を搭載した場合復元性は大丈夫か、結果的に陸上配備型のシステムを無理に艦上搭載、積載する調整に追われることとなるでしょう。

 来年度予算に17億円の予算が設計費用へ盛り込まれることとなっていますが、実際のところ、護衛艦の建造計画において意外なほどに大きな部分を占めるのは設計費です、例えば護衛艦あさひ型までは、むらさめ型設計の延長線上で建造されました、あきづき型などは当初の19DDと呼ばれた時代に相当踏み込んだステルス設計を考えていたものでしたが。

 イージス艦。設計費用を抑えるには、いや具体的には護衛艦の建造費用全般を圧縮するには既存艦の設計を応用するのが一番なのですが、こうしますと、SPY-1やSPY-6よりも重量のある、具体的には軽量化を求められない陸上型として設計されたSPY-7を搭載するには、既存の護衛艦のどうのような部分を応用すべきなのでしょうか。すると思い当たるは。

 ひゅうが型護衛艦の設計を応用するべきではないか。具体的には、ひゅうが型の船体及び機関部の設計を利用し、全通飛行甲板の中央部に艦橋を移動し、その艦橋はじめ上部構造物へSPY-7を搭載するのです。ひゅうが型満載排水量は19000t、まや型の10500tよりも遙かに余裕があり、また幅も広いため、SPY-7であっても、充分搭載し得るでしょう。

 サンアントニオ級輸送揚陸艦。実は大型艦艇にイージスシステムを搭載しミサイル防衛専用艦にする構想は、既にアメリカにてノースロップグラマン社が、サンアントニオ級輸送揚陸艦の船体を応用し、SPY-6レーダーを搭載のミサイル防衛専用艦を提案しています。SPY-6は大型、中型、小型レーダーがありますが、この専用艦は大型レーダーを想定する。

 ブルーリッジ。ひゅうが型護衛艦の全通飛行甲板を潰して巨大な上部構造物を置くなど非常識、とおもわれるかもしれませんが、わたしたちはそういった設計の艦船を常に見ています、それは第七艦隊の指揮艦ブルーリッジ、横須賀基地などでも停泊している様子をごらんになるでしょう、ブルーリッジこそが全通飛行甲板の一つの方向性といえるのですね。

 イオージマ級強襲揚陸艦というアメリカ海軍第一世代の強襲揚陸艦がありましたが、ブリーリッジ級はこのイオージマ級船体設計を応用し、飛行甲板部分の中央に艦橋を配置するとともに無数の通信用アンテナをも飛行甲板に並べ、膨大な大規模上陸作戦や艦隊指揮に際しての通信量に対応できるよう設計、格納庫も指揮中枢や通信関連区画へ転換している。

 16DDH、ひゅうが型護衛艦がまだ16DDHとして設計段階であった頃には、実は中央部に巨大な航空機格納庫と艦橋を一体化させ、船体前部と後部に飛行甲板を置くという、無茶苦茶な形状が一応検討されていました、おそらく政治的に空母を避けたい思惑があったのでしょうか、このSPY-7搭載案は、一種この16DDHイメージ図への先祖返りといえる原点回帰だ。

 ひゅうが型船体ならば充分設計に余裕があるとともに、実は建造費もそれほど大きくありません、実際、19000tひゅうが型、27000tいずも型の建造費は同程度でして、これも世界屈指の造船量を誇る日本の造船能力、というところでしょうか。ひゅうが型にVLSはMk.41が16セルあるだけですが、これも航空機格納庫を転用し幾らでも増強できましょう。

 ながと型ミサイル護衛艦、こんなところでしょうか。山口県と秋田県に建設予定であったイージスアショア代替なのですから、山口は旧国名長門、秋田は陸奥、です。長門型戦艦の名を堂々と継承できる規模といえるでしょう、SPY-7の搭載で満載排水量は20000t規模となり、間違いなく現在配備されるイージス艦としては世界最大となるのですから、ね。

 新しい護衛艦の設計を行う、これが現在の政府の方針です。恐らくイージスアショアは事項要求であり、予算を度外視する為に全く新しい設計図を引くのでしょう。しかし、現在の財政状況を考えますと、既に護衛艦ひゅうが型という建造実績のある大型艦があるのですから、この設計を応用し、その建造費を少しでも抑える必要があるように、思うのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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検証:防衛予算-令和五年概算要求【1】8月31日公開-事項要求と過去最大となる5兆5947億円の要求額

2022-09-01 07:00:17 | 国際・政治
■速報-概算要求公表
 防衛省は8月31日、過去最大となる5兆5947億円の要求額を盛り込んだ来年度予算案の概算要求を公開しました。

 概算要求は年末にかけて財務省との予算折衝を経て年度末までの閣議決定を経て国会において予算、という法律として成立させられるものです。ただ、ロシアのウクライナ侵攻、そしてロシアへの経済制裁の実施と、経済制裁に反発しての核兵器による世界への恫喝という文字通りの非常事態を受け、近年の防衛予算と比較し幾つかの特異な点があります。

 事項要求。防衛予算では総額で兆円単位でありながら従来は万円単位まで細分化された個々の要求が積算し防衛予算概算要求を形成していました。しかし、来年度予算では事項要求として防衛事業を明示し、しかしその防衛事業の具現化に関わる予算については多年度で集成する事業であるとして個々の明確な予算ではなく方針を示すものが盛り込まれた。

 スタンドオフ防衛力、総合ミサイル防衛力。無人アセット防衛能力、領域横断作戦能力、指揮統制情報関連機能、機動展開能力、持続性強靭性、こうしたものが今後五年間で抜本的に強化する防衛力、以上が事項要求として示される事となりました。スタンドオフ防衛能力とは射程が長く近年射程延伸が進む敵防空システムの圏外から叩ける能力を示す。

 無人機の大量取得等が示された無人アセット防衛能力や、陸上配備型ミサイル防衛システムの代替となるミサイル防衛専用艦の概括など盛り込まれています。ただ、注目すべき点には無人機など正面装備もさることながら、持続性強靭性、装備品の稼働率や予備部品の維持、そしておそらくは国内防衛産業の維持という側面が装備稼働率を通じ示されたもの。

 過去最大。しかし忘れてはならないのは、過去最大の予算であっても、2000年代初頭から棚上げされ続けた防衛事業、例えば練習機の問題やヘリコプターの問題、そして防衛産業が持続できないまま少数生産を延々と継続し、少なくなった装備を補う為に別の代替装備を調達するべく種類だけが多様化し一つ一つの量産数が更に圧縮、悪循環は続いている。

 ミサイル防衛や島嶼部防衛など新しい防衛事業を防衛予算の総額そのままに20年以上継続した為にしわ寄せは防衛破綻という様相を帯びており、事項要求という方策を用いつつも、しかししわ寄せを、防衛政策の見直しにより例えば災害派遣等の任務を別組織に移管するというような決断でもおこなわない限り、厳しい状況は続きます。要求を概観した上でこのように感じました。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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