北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

155mm榴弾砲-2022年の動向【1】長くなる砲身-ラインメタル60口径砲と39口径砲活躍するウクライナ最前線

2022-11-26 20:01:31 | 先端軍事テクノロジー
■射程100km時代も視野に
 自衛隊では冷遇されている火砲という印象なのですが世界を見れば日本が下を向いているうちに順調に日本が必要とする火力体系を担えるまで発展を続けているのが、榴弾砲です。

 155mm野砲は52口径の時代ですが、装輪自走砲については遠くない将来に60口径の時代が見え始めています、ドイツのラインメタルが開発しているMAN-HX-3シリーズトラック転用の装輪自走砲です、60口径となれば射程は80kmから最終的には100kmの大台も見えているという。そこで今回は100kmという現実となる野砲の射程を考えてみましょう。

 60口径野砲、発想の転換です。何故なら装軌式車両では60口径の砲身を積むととてつもなく大きく肥大化してしまい、これを戦略輸送するさいに輸送車に搭載することは現実的ではありません、アメリカはM-109車体に58口径155mm榴弾砲を搭載する試験を行っていますが、その様子は恰も第二時大戦中の無理をしすぎた重戦車と重なる印象を受けた。

 装輪式車両に搭載するという60口径野砲は、いわば、52口径155mm自走榴弾砲を搭載した装軌式自走砲を輸送できる輸送車に直接砲塔を積むならば、より長い砲身を積載できる、との発想の逆転が生んだものです。艦砲のような62口径というものも、現実となるのかもしれません。ただ、100kmに達する砲弾だけならば、実は既に開発されているのですね。

 WS-35砲弾、実は中国が既に射程100kmを実現させる砲弾を国際市場に供給しています、2017年に既に開発されていますのでもう五年ということになる。中国は輸出用に高性能なものを提示し、採用国の実績次第で自国も採用するという、大胆だが慎重な開発を進めてきました、そしてWS-35砲弾は人民解放軍にも採用されているのですが、若干相違が。

 人民解放軍で運用されるWS-35は射程が70kmといいまして、十分すごいものだが100kmというインパクトは少ない、そこで情報を精査しますと、WS-35砲弾は輸出用と自国向けがあり、100kmの射程は輸出用しか実現していないという、更に情報を集めますと、どうも輸出用WS-35は有翼滑空弾方式を採用している、無理或る設計ということなのですね。

 有翼滑空弾、要するに155mm砲弾ですが射撃しますと一定高度で翼を展開し滑空するという、なにかアメリカのJDAM-GPS誘導爆弾の滑空を思い出させる方式を用いています、逆に行うならば100km先に届くものの、翼ある砲弾だけに、精度にはかなり限界があるか、飛翔時間の実用性という問題など、人民解放軍に採用できない背景があるのかもしれない。

 ラインメタルの60口径に論点を戻しましょう、技術的には155mmではなく127mm艦砲であれば62口径はふつうです、自衛隊も護衛艦あたご型、あきづき型、あさひ型、もがみ型と62口径127mm艦砲を採用している、しかし陸上の野砲となりますと、60口径でしかも155mm砲というのは、かなり砲身精製一つとって高い技術を要しているものとなる。

 日本製鋼、艦砲や野砲に戦車砲などは室蘭で製造していますが、技術的には52口径砲を国産化していますので、技術的には60口径野砲も可能だとは考えます。また、52口径砲に対して腔圧がどの程度確保できるかにもよりますが、52口径砲が以前の39口径砲に対して発揮した射程の優位性を考えれば、所謂100kmの射程、というものは現実的となります。

 難しいのは、現在のウクライナ戦争の戦訓です。ウクライナ軍は52口径のカエサル自走榴弾砲、供与された8両を駆使していますが、同時に39口径のM-777,アメリカが供与した90門のM-777も相当な威力を発揮しており、39口径砲の時代は終わったと考えられた、欧州における52口径榴弾砲の趨勢は、正しいのか、という素朴な疑問とできましょう。

 日本の立場をここで論点に加えますと、FH-70榴弾砲の後継として今後19式装輪自走榴弾砲の配備が本格化します、これはまさに39口径砲から52口径砲への転換であり、将来陸上自衛隊にも誘導砲弾などが導入されるならば、19式装輪自走榴弾砲の射程は飛躍的に延伸します。そしてこれは装備とともに自走砲へ運用の転換点も同時に迎えているのですね。

 方面特科連隊、自衛隊は師団特科連隊や旅団特科隊を廃止し、方面特科連隊に集約するという運用を進めています、既に編成中ですが西部方面特科連隊が西部方面特科隊とは別に創設され、中部方面特科連隊が松山に、東北方面特科連隊が岩手に、というように改編が進められています。これは野砲の師団旅団より上の上級部隊への集約にほかなりません。

 射程が70kmや80kmとなり遠くない将来に100km前後が見えてくるならば、旅団の交戦範囲を越えるために方面隊にて集中運用という概念が、有る意味妥当に見えてくるでしょう、ただ、野砲はほんとうに100km前後で撃ち合う対砲兵戦が基本になるのか、と、これはウクライナの戦訓が見せつけているのですね、特にM-777やFH-70のポテンシャルです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【京都幕間旅情】金閣寺/鹿苑寺,楼閣建築舎利殿の謎-昭和期三層のみの金装は室町時代どう栄華を伝えたのか

2022-11-26 14:44:53 | 写真
■北山文化の栄華伝える
 豪華絢爛といいますか煌びやかな北山文化の象徴がこの建物なのでしょう。

 舎利殿、金閣ともよばれまして鹿苑寺が金閣寺と親しまれる所以という建物ですが、この舎利殿というものも、知っているようで知らない部分が多いのです。そもそもそのはじまりは昭和の1950年7月2日、あの有名な金閣寺放火事件からはじまるのかもしれない。

 三島由紀夫はじめ多くの文化人がその事件の背景と内心に迫ろうと世界観を織開いたのですが、明治の廃仏毀釈以降、権力と宗教に明確な一線が敷かれた時代にあって文化財を継承するか棄却するかの論点の土台が違うようみえるのですが、今回は建物を中心に添える。

 焼失前の金閣は三層のみに金箔が張られていた。つまり再建された金閣は別物なのではないか、という難しい問いです。難しいというのは銀閣寺こと慈照寺の観音殿、所謂銀閣に銀が貼られていなかったと科学的に確証がついたのは平成時代の解析技術であったため。

 金箔張りはどこまでであったのか、記録が余りに残っていないのです、室町時代の建築物故に記録に残すにも限度があるのですが、焼失前のように三層だけであったのか、全層にわたり金箔が張られていたのか。再建は三層に加え二層が金箔という分析に基づくという。

 楼閣建築の金閣は木造3階建、再建された金閣二層と三層の外面に全面金箔張りとなっています、焼失前の金閣は三層のみに金箔、では何故再建事故唸ったのか、明治の大修理の際に一部破損し新調された二層の隅木、元々の部材に金箔が張られていた為、根拠となる。

 明治の大修理というものは日露戦争の最中である1904年から1906年にかけて行われた解体修理で、日露戦争と云う国運を左右する総力戦の最中によく余裕あったものだと妙に感心する一方、その解体修理では綿密な図面も改めて引かれ、この資料が再建に役立った。

 二層の隅木に金箔が張られていたのだから二層全体がそうなのだろう、という事に依るのですが、十二世住職貫宗承一は1894年に拝観料を徴取して一般公開を始めるまで、ここは極限られた人々にのみ公開されていたというもので、寺は応仁の乱でも被害を受けている。

 応仁の乱では、此処も可と思われるかもしれませんが鹿苑寺そのものが西軍の陣となり建築物の多くが焼失しています、が金閣だけは焼失を免れたという。一方、金閣そのものは焼かれずとも被害には遭っているようで季瓊真蘂や蔭凉軒主が記した公用日記に記録が。

 蔭涼軒日録という公用日記なのですが室町幕府の政治経済基盤や禅寺の概況と将軍公用などを記したもの、ここに第8代将軍足利義政が拝観に鹿苑寺を訪れた際の鹿苑寺被害概況が明示され、庭園も伽藍も伐採され焼損し、金閣についても掠奪の概況が記されている。

 二層に安置されていた観音像は略奪被害に遭い行方不明、三層の阿弥陀如来と二十五菩薩像は白雲だけを残し略奪被害に遭い行方不明、と。すると金閣の取り外せる壁材などで金箔をはったものはどの程度略奪被害に遭っていたのか、被害に遭った可能性もあります。

 金箔は高熱で溶解しますし焼損します、が、昭和時代の分析技術ではいつごろの金箔、創建当初の足利義満の時代のものか、別の時代の金箔精製技法が用いられていたかは不明でしょうから、金閣の果たしてどこまでが金箔であったのか、今となっては分析できません。

 落慶法要から十年ほどで紫外線による金箔剥落が進み黒漆が露呈してしまった故、修理したという記録もあります。応仁の乱の市街戦以外に紫外線という劣化要素もあるために、果たして創建当初の金閣は全て金色だったのか、違うのか、永遠の謎という鹿苑寺でした。

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ノルドストリーム破損は人為的爆破-スウェーデン捜査当局爆発物痕跡確認,バルト海の海底ガスパイプライン

2022-11-26 07:01:44 | 防衛・安全保障
■臨時情報-北海爆破
 エネルギー危機というものは日本では中東情勢により生じるかシーレーン防衛の問題と考えられていましたが、この冬は別の要因からリスクを突き付けられる。

 スウェーデンの検察当局は20日、バルト海の海底ガスパイプラインノルドストリームにおいて発生した大規模破損事案について、現場から爆発物を示す化合物が確認され、これが破壊工作であった明白な証拠が確認されたと発表、CNNなどが報道しています。これによりノルドストリーム破損は破損事故から破壊工作による破壊事件へ大きく転換しました。

 欧州ではロシア経済制裁の報復としての天然ガス供給制限が指摘された今年春頃から天然ガスの欧州域内備蓄を続けています、こうした中で今年9月にノルドストリーム1で二カ所、ノルドストリーム2でやはり二カ所、大規模な破損が発生しており、現場がスウェーデンとデンマークのEEZ排他的経済水域内であったことから捜査が行われていましたが。

 天然ガス、特にロシア産天然ガスはこの二十年間欧州が新エネルギーとして依存度を特に高めており、ロシアからの供給遮断は死活的な問題となります。これには欧州固有の背景があるのです。欧州では環境保護運動が世界でもっとも盛んな地域となっています、これは気候変動の影響をもっとも顕著に受ける、欧州での近現代史過去の歴史に起因しますが。

 環境運動、欧州は過去火山噴火などによる気候変動の影響をたびたび受けており、これはフランス革命やナポレオン戦争と第一次世界大戦など、気候変動による食糧不足が戦争として多大な影響をおよぼしてきたという歴史の教訓が背景にあります。そして近年は火山噴火よりも経済活動による温室効果ガスの影響が特に問題視されています。故に敏感に。

 天然ガスは、こうした厳しい視点にあって地球環境に配慮したエネルギーとして、仮に大規模な使用をおこなったとしても企業へ不買運動などの影響が及ばないエネルギーとして、転換が進んでいます。天然ガスの主成分であるメタンガス、燃やせば確かに二酸化炭素が発生しますが、そのまま大気中に放出するよりは、という言い分で活用されているのです。

 メタンガスは短期的に二酸化炭素の84倍という温室効果を及ぼすとされ、天然ガスが地表に1t自然放出された場合、石油などを80t燃焼させた場合よりも温室効果が高く地球環境に影響する、若干分かりやすく説明しますとこうなります、水圧破砕などを行わずとも天然ガスは自然放出されるため、使うほど環境によいエネルギーとなる、そういう言い分だ。

 自然放出でなく掘削しているではないか、という環境保護運動の視点からの反論はありますが、このほかのエネルギーは不安定な再生可能エネルギーか、原子力発電、地熱発電、水力発電となります。原子力発電に対しては過度な依存へは別の市民運動からの反対に多く、天然ガスは欧州からみた場合非常に安価で安定しており、依存度が高まったかたち。

 ノルドストリームでの事案は欧州からウクライナ情勢で譲歩を引き出したい勢力の人為的関与が指摘されていましたが、物的証拠が必要であるとされ、このために慎重に調査が行われていました。なお、このほかのノルウェー海上ガスプラントなど有志連合方式での欧州域内ガスプラントでは同様の攻撃を警戒し艦艇や航空機による警戒が強化されています。

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