北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】エアバスA-400M輸送機,消防航空機改良キットと空中無人機母機やSAF代替燃料試験と異機種協同

2022-11-29 20:11:41 | 航空自衛隊 装備名鑑
■世界の防衛最新論点
 先日C-2輸送機のライバルであるKC-390を特集しましたが今回はもう一つのライバルであるA-400Mの最新情報です。

 フランスのエアバス社はA-400M輸送機を消防航空機とする特殊器材試験を実施しました。欧州地域では乾燥した時期に頻発している大規模な山林火災を背景に消防航空機の需要が高まっています、しかし水上飛行機や小型機など消防用航空機にも散られる機体は概して小型であり、輸送ヘリコプターと比較しても、その空中放水能力は限られていました。

 A-400M輸送機からの放水試験は時速210km/hの低速で20tの放水を10秒間で行うというもので、この試験にはスペイン空軍第43航空隊とEU欧州連合MITECOなどが支援に当っています。消火システムは機内内蔵方式を採用しており、この消防用水槽は既存のA-400M輸送機すべてに追加式で装着でき、取り外しなども迅速に行えるとのことです。

 消防航空機としては、貨物室に固定タンクを搭載し、貨物扉に延長させた二つのパイプから導水する方式を採ります、これは一挙に貨物室から短時間で放水した場合に重心へ影響する為と考えられます。A-400M輸送機は元々空挺作戦用に低空飛行能力を高く設計されており、これによりおおよそ600mの区域にわたって大量の放水を行う事が可能となります。
■ウェットシルク演習
 A-400M輸送機とC-130J輸送機の共同訓練が行われましてなにか2020年の空挺降下訓練始めを思い出します。

 アメリカ陸軍第173空挺旅団は7月29日、ドイツ連邦軍第26降下猟兵旅団とのウェットシルク演習を実施しました、なお、この演習はアメリカ空軍のC-130J輸送機とドイツ空軍のA-400M輸送機が参加し、二機種の輸送機が同じ空挺作戦を同時に実施できるという能力の確認にもあたっています。この訓練の特色はその演習降下地域が挙げられます。

 ウェットシルク演習はその名の通り、ウェットなドイツのコンスタンツ湖、ボーデン湖において実施され、湖に空挺降下させるという演習です。アメリカ陸軍第173空挺旅団から2機のC-130J輸送機に分乗した75名、そしてドイツ連邦軍はA-400M輸送機1機に搭乗した第26降下猟兵旅団からは75名が参加しました。A-400M輸送機の輸送力の大きさだ。

 A-400M輸送機とC-130J輸送機は、しかし演習当日が悪天候に見舞われ、降下できたのはアメリカ陸軍が68名、ドイツ連邦軍が10名のみとなっています。NATOでは水上効果能力の強化を進めており、水上への硬化と着水、降下直後に落下傘から離隔を採るべく25mを急いで泳ぎ、そのまま10分間ボートまたは湖岸に向かって泳ぐ三段階から構成されます。
■A-400M無人機母機
 小型無人航空機の空中空母に輸送機と云うものの輸送能力は有用な選択肢となります。

 フランスのエアバス社はA-400M輸送機からのDo-DT25無人機による空中無人機発進試験を成功させました。これは2022年に入り実施されたもので、将来航空戦闘システムの要諦となるMUM-T有人無人協同運用に関する重要な一歩です、今回はドイツ北部上空において発進試験を実施し、その後無人機は発進直後に落下傘により地上に着陸しています。

 A-400M輸送機を用いたMUM-T有人無人協同運用とは、将来の戦闘で高密度の地対空ミサイル等で防衛された地域での作戦にいきなり第五世代戦闘機や第六世代戦闘機を導入しての損耗を回避する為、先ず戦闘機部隊後方から無人機を展開させ、戦闘機部隊を超越前進し情報収集や必要ならば囮として有人戦闘機を損耗から守る運用などが考えられている。

 Do-DT25無人機は今回、発進直後に落下傘を開き飛行時間は限られていましたが、地上までの間にデータ伝送実験に成功しています。またこのDo-DT25無人機は2021年にドイツ空軍が実施したティンバーエクスプレス演習においてユーロファイター戦闘機への情報伝送実験に成功、更にエアバスはDo-DT25を5機同時管制する試験にも、成功しています。
■SAF代替燃料
 SAF代替燃料は民間航空機等で進められている温室効果ガス排出抑制対策です。

 フランスのエアバス社は2022年夏よりA-400M輸送機についてSAF代替燃料による評価試験を開始しました、SAF代替燃料とは従来の化石燃料に代わる再生可能エネルギーであり、バイオエタノールなど生成に際し光合成過程を通じて二酸化炭素を吸収した原料を用いる、全体として温室効果ガスを排出しない環境負荷を考慮した次世代燃料を示します。

 グリズリー 4、今回の試験は四基あるエンジンの内一基をSAF代替燃料により稼働させる事となり、食用油や廃棄野菜廃棄脂肪分などから精製した燃料で作動させました。廃棄食用油燃料は第三回気候変動枠組み条約締約国会議が京都で開かれた頃から京都市バスなどでも用いられていますが、SAF燃料は航空燃料と同じ特性を持ちそのまま利用できます。

 A-400M輸送機による試験では、一基のみSAF燃料を用いている為、全体で見れば25%をSAF燃料で飛行させたことになります、そして同時にエンジン停止リスクにも対応すると共に他の通常航空燃料によるエンジンとの比較も実施できたとのことです。SAF燃料は気候変動対策と航空輸送を両立させる切り札であり、エアバスはこの点を強調していました。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ウクライナ襲う4700発のミサイル-我が国本土防空の迎撃ミサイル備蓄目安と難しい”反撃能力”のミサイル威力

2022-11-29 07:00:36 | 国際・政治
■臨時情報-ウクライナ情勢
 ロシア軍ウクライナ侵攻に伴いロシア軍の今年度国防治安支出は邦貨換算で21兆円規模になるとのこと。

 ウクライナへ撃ち込まれたロシア軍ミサイルは4700発に上るとのこと、ただ、イスカンデル弾道ミサイルにしてもカリブル巡航ミサイルについてもジルコン空対地弾道ミサイルにしても、徐々に枯渇しておりロシア軍はイランからのミサイル調達に乗り出しています。ここで重要なのは自衛隊が保有するべき地対空ミサイルの数が見えたという一点でしょう。

 ペトリオットミサイルと03式中距離地対空誘導弾、基地防空地対空誘導弾や11式短距離地対空誘導弾など、ロシア軍が相手ならば4700発を迎撃できる程度の備蓄があれば少なくとも半年以上は戦闘を継続できる、ということです。これで先は見えた、とはいえるのですが、ミサイルがねらう目標は様々、しかし、ミサイル備蓄に一定の目処は見えたのです。

 目処というのは、要するに防衛省が財務省へ予算要求する際の目安です。もちろん4700発来るので4700発準備すればよい、というものではありません、例えば新潟や福井の原発を破壊すると日本海縦貫線の輸送網を核汚染で完全に停止させられますが、こうした地域ばかり重視しますと国家石油備蓄基地や大都市の通信中枢などが狙われる危険もあるのです。

 ただ、大国であっても巡航ミサイルや短距離弾道弾の備蓄はこれが限界だ、手は届く、ということです。一方で、4700発のミサイル攻撃という問題はもう一つの側面を示しているのかもしれません、それは4700発のミサイル攻撃にさらされても、ウクライナは国家崩壊に至っていない、世論の多くはロシアに憤慨し領土奪還を支持しているという事実です。

 反撃能力という、ここまでは日本をミサイル攻撃から防衛するための弾薬所要という視点で示しましたが、今度は日本がミサイル攻撃を受けた場合に行うとして政府が構想する反撃能力についてです。自衛隊の地対艦誘導弾の射程を遠心する、またこの実現までの繋ぎとしてトマホークミサイルの導入が検討されているのですが、この視点についてみてみる。

 日本へミサイルを撃ち込む可能性が高い国の多くは専制主義国家であり、民主主義国家ではありません。その上で、考えてみますといまの自衛隊の地対艦ミサイルと空対艦ミサイルに艦対艦ミサイルの合計がおおむね数千、反撃により攻撃の意志を喪失させるには、発射機を正確に破壊しなければ4700発撃っても無駄、こうした現実も突きつけています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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