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四月一日防衛論集:宇宙空間の無防備と曖昧な所掌官庁-ウクライナ戦争契機に注目の宇宙戦争や認知領域戦

2023-04-01 20:22:00 | 北大路機関特別企画
■四月一日特集
 四月一日という事で誰も真剣に見ないであろう分野を少し踏み込み過ぎた視点で考える。

 宇宙分野の防衛予算をもう少し検討し、少なくとも宇宙での作戦を防衛作戦の重要な要素として考える必要はないか。これは2023年年始の新年防衛論集では、航空自衛隊の航空宇宙自衛隊への改称に対して、能力が実態に見合っていないとして懐疑的な視点を示しましたが、逆に宇宙での戦闘は、特に宇宙にアクセスできる国家との間では不可避でもある。

 所掌を防衛省とするのか、総務省に別の部局を立ち上げるのかで視点は変ってくるのでしょうが、現在の日本の宇宙戦略は有事というものを想定していない空白状態です、特に通信衛星を破壊され、その上で海底通信ケーブルなどを破壊された場合は日本は有事の際、異空間に放り出されたような情報空白地域となりかねません、この点は全く無防備なのだ。

 通信途絶、これは単に軍事上の情報通信が途絶した場合と限らず、考えて欲しいのは昨年七月に発生したauの大規模通信障害のような状況が組織的な攻撃で発生し、固定回線を含め全インターネットが途絶し、通信通話はもちろんテレビ放送などもジャミングが掛けられる状況となった場合、必然的に鉄道や高速道路料金システムなども影響を受けます。

 金融なども通信システムに依存する部分が大きく、社会は影響を受けるだけではなく存続についても影響する状況となる。auの通信障害は事故でしたが、故意に情報通信遮断を攻撃手段として用いられた場合、通信衛星等を防衛する手段が、その危険性自体を想定外とする事は余りに無理があります。この対策としては、攻撃手段からの防衛しかありません。

 スターリンク衛星、中国はロシアウクライナ戦争においてロシアによるウクライナ通信システム破壊を試みた際、ウクライナ政府が頼りました民間通信システムであるスターリンク衛星により、あらゆる通信が維持され、無人機管制は勿論、携帯電話通信網が維持された事でロシア軍残虐行為の多くが世界に中継され、認知領域戦での優位を確保しました。

 スターリンク衛星の撃墜を中国は検討しているとされる。幾つかの研究機関が指摘するのは、台湾有事などにおいて通信遮断を行うには従来の通信中枢を破壊するだけでは事足りず、スターリンク衛星そのものを撃墜する研究を進めているというものです。スターリンク衛星は一度の発射で多数を打ち上げる為、一機当たりの打ち上げ費用が極めてやすい。

 衛星迎撃能力は存在します、これはアメリカもASAT衛星迎撃ミサイルの実験を1970年代にF-15戦闘機からすでに成功させています、しかしスターリンク衛星の場合は一機当たりの打ち上げ費用が安く、数十機を一度に軌道上へ投入する為に従来の対衛星兵器では費用対効果の面で割に合わないのが利点です、ただここには“従来の”という但し書きがつく。

 キラー衛星をスターリンクのように一度に多数を打ち上げる宇宙スウォームや即席コンステレーションという対抗策がありえますし、小型ですので迎撃には機銃でも十分すぎるものであり、冷戦時代にソ連が衛星に23mm機関砲を搭載し遠隔操作実験を行ったような対抗策も考え得る、対策を死活的重要性と認識するならば、それは不可能ではありません。

 ASAT対応のAASAT,対衛星迎撃ミサイルのような、例えば衛星迎撃兵器の大気圏内からの上昇を防止するシステムを構築する選択肢がありえるかもしれませんし、若しくは宇宙条約の範囲内でのキラー衛星を無力化するシステムを構築する、宇宙について手の届かないというものや、情報とPCでのやりとりではなく、進出する必要は今後迫られるでしょう。

 種子島宇宙センター、日本が独自に有事の際の暫定的な衛星打ち上げ能力を確保する、特に南西有事の際には種子島宇宙センターは想定戦域から非常に近く、その域内に含まれる可能性があります、すると例えばイージス艦のVLSからスタンダードSM-3と同程度の大きさのロケットを開発し、弾頭ではなく人工衛星を搭載するという選択肢が考えられる。

 スタンダードSM-3を例に挙げましたが、防衛省が今後整備する射程2000km規模の反撃能力、という名のミサイルについて、発射装置を応用し、ここから人工衛星、情報収集衛星や通信衛星そのもの、もしくは対キラー衛星用の各種装備たASAT迎撃用ミサイルを運用する、という選択肢もあるのかもしれません。ただし、実現には課題が非常に多い。

 航空宇宙自衛隊、とはいうものの政府は自衛隊へロケット打ち上げ能力を付与させる計画は無いようです、これは今のところ長期計画でも衛星打ち上げ能力が含まれないばかりか、防衛省は独自の人工衛星を有していません、特に偵察衛星の機能を有する情報収集衛星の運用は内閣府であり、なぜ軌道上の確認だけを航空自衛隊が行うのかは不明確なまま。

 宇宙作戦能力は必須、特に相手は宇宙領域の優位性を持っているのだから、この部分での優位を利用しないと考えるのは、相手国が日本と戦争をする際に、陸上自衛隊が地対艦ミサイルを撃たないのではとか、海上自衛隊が潜水艦を使わないのではないか、と期待する程無理があることです。ただ、能力は必要であるものの、どれも必要となる費用は莫大だ。

 空軍を持てない小国のような状況、宇宙分野での防衛力はたとえるならば将来、20世紀序盤に空軍を持てない国が一方的に空からの攻撃に曝される状況と似た状況を生むのかもしれません。これは宇宙での戦闘という安易な区分に留まらず、宇宙にある人工衛星網を守れない事で生じる問題であるため、通信衛星や放送衛星に依存する以上必要な能力です。

 防衛予算は、しかし有限であると共に、宇宙分野を航空自衛隊が担う場合は、それこそリソースの内の少なくない規模を割く必要があり、輸送機や戦闘機や早期警戒機などの調達数に更なる影響が及ぶでしょう。すると、もう一つの命題として、宇宙作戦能力は絶対必要なのだが、自衛隊の所掌か、となる。特に宇宙作戦を自衛隊が行えば海外派遣となる。

 所掌の問題と予算の問題から、防衛省ではなく総務省に宇宙保安庁を設置する選択肢もある。もっとも、ミサイル等を運用する場合は共同運用の形で海上自衛隊や陸上自衛隊との協力が必要となるのでしょうが。ただ、これはサイバー攻撃への所管と同じ様に、防衛とはいっても防衛と名のつく任務が全て自衛隊の所管ではない、という視点にも繋がります。

 認知領域。そしてもう一つ、防衛として考えなければならないのは認知領域の戦いです、これはフェイクニュースの流布対策や、有事の際の我が国主張正統性の宣伝戦なども含まれるのですが。もちろん、これを余り防衛省が中心になり展開しますと、世論作戦や検閲国家という批判を招く可能性があります、しかし防衛省以外の国家機関として、どうか。

 認知戦は実弾の飛ばない戦場ですが、ウクライナにおける通信維持によるSNSでの戦場映像などの世界への個々人による配信は、認知戦の勝利の実例といえます。逆にフェイクニュースにより真逆の情報が流布されていたならば、現在の戦況は大きく悪い方向に代わっていた可能性があります、それは例えば欧米からの武器支援の有無に繋がるためです。

 偽計業務妨害や風説の流布など幾つかの応用可能な法体系は存在する為、制度としての認知戦を行う事は現実的ではあるのですが、この領域に国が主体的に関与する方策も無ければ、フェイクニュースなどを検証する民間の中立的機関に充分な解析規模を有するものがありません。一方、仕掛ける側としては権威主義国家など、事実を国が定義づけられる。

 安全保障上放置できない問題であり防衛にもおおいに関わる領域でありながら、安易に自衛隊や国家が乗り出す事により不充分な、若しくは真逆の結果を生む懸念がある領域が存在します。防衛を考える場合は、こうした部分もふくめてみて行かなければなりません。しかし見るだけでは、相応に負担が生じる事を忌避しがちであり、このことから問題は根深いのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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