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小松-装輪装甲車(改)の再評価【3】MRAPの様に運用できないか?安価である事は利点

2022-09-29 20:10:46 | 先端軍事テクノロジー
■有限な予算と安価な装備
 自衛隊の近接戦闘部隊の規模を考えますと現在の装甲車定数は人命軽視と云わざるを得ず、装甲車の数が必要です。

 装輪装甲車(改)。あの試作車が報道公開された際には、NBC偵察車を無理矢理車体流用して、難しい要求仕様を数字だけ帳尻合わせました印象がありまして、酷い出来の車輛だなあ、と嘆息したものですが、なにしろ、道路運送車両法に対応する車幅を2.5m以内に抑える、IED簡易爆発物に対応できるよう最低地上高を高く採る、全高努めて低姿勢、という。

 NBC偵察車が初公開された際には、車体がかなり大きくなっていた為に目立つなあとは思いましたが、全体として均衡が取れている形状であるとともに車内容積が確実に大きな車体配置が採用され、そして操縦装置は96式装輪装甲車と異なり82式指揮通信車や化学防護車のような運転台と車長席が並ぶ乗用車の配置と重なり、操縦しやすそうにみえました。

 化学学校祭にていろいろお教えいただいた際には、車内には様々な検知装置や分析装置がある為に広々とは言えないものですが、なにしろ搭載している機材が膨大であるだけに元々の車内容積は余裕があり、だからこそ大型トラックに搭載した生物偵察車の器材を装甲車の車内に搭載する事が出来た、と説明されたものでした。車内容積は汎用性に繋がる。

 装輪装甲車(改)に限らずNBC偵察車の小改造型を装甲車として用いる場合、先ず利点は繰り返すようですが安価である点です。安価といっても、パトリアAMVやピラーニャLAVと比べれば数段性能は劣る、といわれるかもしれません。しかし、現状数が必要なのです。防衛予算が無制限にあるならばAMVやLAVを揃えたいところですが、現実的でない。

 輸送防護車。装輪装甲車(改)の取得費用は四輪駆動のオーストラリア製ブッシュマスター耐爆車両より若干高い程度に費用を抑えています。だからこそ、汎用装甲車として揃えられる。もっとも96式装輪装甲車の時点で北海道一部以外の普通科連隊には整備負担が大き過ぎるとのお話しもありまして、第一線部隊では輸送防護車の方が良いのかもしれませんが。

 試作車の第一印象に、難しい要求仕様を数字だけ帳尻合わせました印象がありまして、酷い出来の車輛だなあ、と印象を受けたのは前述の通りですが、要求仕様に無かった、将来発展性に砲塔搭載不能というものはメーカーの小松製作所としても寝耳に水でしょう。もっとも輸送防護車的に補助的に用いるならば、機関砲の砲塔搭載は必須ではありません。

 RWS,武装として考えられるのは12.7mm重機関銃を有する遠隔操作銃塔を搭載することです、もちろんRWSを搭載しますとこれ自体が相応の費用を要しますので車体価格を押し上げることともなりますが、単なる輸送車ではなく、ある程度の近接戦闘に威力を発揮する装甲車両として第一線運用にも寄与するでしょう。考え得るもう一つの要素について。

 普通科連隊の本部管理中隊に装甲輸送小隊を配置し、即応機動連隊以外の普通科部隊装甲化に、寄与する案と考えます。10両程度配備できれば、暫定的に一個中隊を装甲中隊として運用することもできますし、第一線への対戦車ミサイルなどの強行補給にも用いうるでしょう。取得費用は安価ですのでMRAPのように広範に配備できれば理想ですが。

 重迫撃砲中隊の迫撃砲牽引車として。考えられるのは現在高機動車派生の重迫牽引車により機動する120mmRT重迫撃砲を装甲車により牽引することです、これは曳火射撃などの弾幕下でも中隊の生存性を高めることとなります。間接照準火器ですのでそれほど装甲防御は必要ありませんが弾薬を積む容積は必要でNBC偵察車派生は最適な用途といえます。

 NBC偵察車の車体派生型を例えば一例としまして120mmRT重迫撃砲の牽引車に。贅沢を言えば自動迫撃砲システムをそのまま車内に搭載し自走迫撃砲、としたいところではありますが、この場合は製造費用が跳ね上がります。そのまま牽引するのであれば、変な話ですが車両さえ完成するならば、砲はそのまま今からでも牽引させることはできるでしょう。

 VAB軽装甲車。フランス軍が兎に角大量配備しました四輪駆動の傑作軽装甲車ですが、こちらも120mmRTの牽引に活躍しています、120mmRT重迫撃砲はフランスのトムソン社製、歩兵旅団ではVLRA野戦機動車でも牽引されるのですが機械化歩兵部隊ではVAB軽装甲車を牽引に用いていまして、機械化部隊の機動力と防御力にあわせた運用といえます。

 高機動車派生の重迫牽引車と比較し、NBC偵察車派生の車両は防御力は高いのですが、更に車体そのものの発電能力も高いため、特科射撃指揮装置との連接に必要な通信端末を搭載することも可能ですし、RWS遠隔操作銃塔を搭載するならば行軍中に待ち伏せを受けても反撃し撃破できますし、小型無人機による位置暴露を撃墜し阻止可能、有用なのですね。

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2 コメント

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「有限な予算」であればこそ (ドナルド)
2022-10-01 00:58:13
であればこそ、装輪装甲車(改)は、廃止されたのだろうと思います。

この車体は、IFVなどへの発展性はあり得ないので、あくまでブッシュマスターの補填・代替を狙うしかないわけです。であれば、やるなら4輪(2WS-4WD)、せめて6輪(2WS-6WD)バージョンを新たに開発し、足回りのメンテナンスを省略するなどの工夫が必要だったと思います。まさにVABに倣うわけです。

が、車体構造を見ると、4輪でも6輪でも、いずれにせよ相当の新規開発を必要としただろうと思います。どうせ新規開発なら、先のコメントでは、8輪(4WS-8WD)のまま1.5-2m延長して、18人乗り(乗員2名を除けば2個分隊搭乗可能)にする案も提示してみました(この場合は、必要数を半減することで、メンテナンスを楽にする案)。

あともう一つ感じることは、V型車体だからといって、その床下が無闇に高いことです。タイヤの軸よりもかなり上から、V字部の床が始まっている。これ、せめて車軸のちょっと上まで、あと20cmほど落とすべきでした。そうすれば、重心は大きく改善されたでしょうね。装甲の穴は、(私の推測では)着脱式のモジュールであることをやめて溶接してしまえばよかったのだと思います。

それでもまあ、2.5m幅では所詮発展性はないわけで、廃止でよかったと思います。路外機動力を求めるなら、16式やMAV、パトリアAMVのように2.8-3m級の幅が必要でしょうし、路上用のVAB/ブッシュマスターのような装甲車も求めるなら2.5m幅でよいわけです。おっしゃるとおり両方必要なわけですが、こうなったら後者は軽装甲機動車後継のファミリーの中で、ロングシャーシバージョンを調達するのが良いかと思います。8-9m になっても良いのではないでしょうか(装甲バス、ですね)
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第四回 (はるな)
2022-10-06 08:22:19
ドナルド 様 おはようございます

一応、全4回となっていまして

ただ、これは元々"何があった時用に書き溜めた記事"が何も無かったので延々と公開延期させていたものなのですが、ウクライナにて、薄くとも装甲車でなければ砲兵に撃たれる状況で機動できない、という概況から、まず数を揃えるには安価なもの、として提示しました

特に232両製造した指揮通信車の後継など、数が必要な装備もこれから増えますので、戦場で機動するのではなく戦場まで、機動する装甲車として、改ではなく元々の設計の車両には有用性があると考えています

もっとも、パトリアAMVを年間100両200両調達するくらいの予算があれば別ですが、それくらいの予算が認可されてもおかしくは無い、とも思うのですが、ね
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