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豪州原潜導入決定【5】ヴァージニア級原潜早ければ2040年配備開始,初期艦リースも視野

2021-10-21 20:20:44 | 国際・政治
■そうりゅう型にしていれば
 オーストラリア海軍のコリンズ級後継艦への原潜導入とアタック級潜水艦建造中止は漸く混乱が一段落しましたが、最初から日本製を導入していればと思わないでもありません。

 早ければ2040年にも。オーストラリア海軍はアメリカ製ヴァージニア級攻撃型原潜を導入する方針を事実上固め、早ければ2040年にも一番艦の導入を見込むと発表しています。これは2054年戦力かがみこまれ中止となったアタック級潜水艦よりは14年前倒しとなっていますが、しかし言い換えれば、早くとも19年後、というのは悠長な話に思えます。

 オーストラリアの国防計画、日本に無関係なのではないか、と思われるかもしれませんが、QUAD日米豪印安全保障枠組として北東アジア地域と東南アジア地域における重要なステイクホルダーであるオーストラリア、そのオーストラリア海軍は海上自衛隊との重要なパートナーでもあります。その装備体系が機能するものであるかは、重要な関心事なのです。

 ヴァージニア級攻撃型原潜。オーストラリアが導入を目指す潜水艦は2004年に一番艦が建造されたアメリカ製原潜で、2040年代には一番艦竣工から36年、次世代潜水艦の竣工が始っているのではないかとも考えますが、オーストラリア海軍は一番艦をリースにより手早く取得し、オーストラリア国内での建造に先立って戦力化を見込んでいるとのこと。

 海軍としてはまともな潜水艦が必要である、それはヴァージニア級攻撃型原潜が最適解であるのかは議論の余地が残りますが、オーストラリア海軍による周辺警備方式、広大な航続距離を有する潜水艦が平時には浮上航行し、必要な襲撃運動や警戒監視に際して潜航する、この運用方式は、2020年代にはオーストラリア周辺で成り立ちにくくなっています。

 カルロベルガミーニ級ミサイルフリゲイト。イタリアのフィンカンティエリ社が建造している6000t級の多目的フリゲイトですが、インドネシア海軍がその6隻の導入を決定しました。もがみ型護衛艦など各国のフリゲイトを選定した結果のカルロベルガミーニ級決定ですが、オーストラリア周辺国の水上戦闘艦戦力は著しく強化されはじめているのですね。

 そうりゅう型であれ、コリンズ級であれ、214型潜水艦であれ、悠長に浮上航行して警戒監視し、必要に応じて潜航する運用では、一旦捕捉された潜水艦が逃げられるほど現代のASW対潜戦闘は簡単ではありません、すると、そうりゅう型のような航続距離の大きな潜水艦よりも、オーストラリア海軍潜水艦運用そのものを変革せねばならなくなるのは、必至だ。

 水中航行能力の高い潜水艦でなければ、大陸沿岸海域全般を警戒監視できない、という考えなのかもしれません。もっとも、これはオーストラリア海軍の潜水艦運用体系がまだ転換期を見越した次世代運用研究まで至っていないことの裏返しでもあり、2040年までの19年間、これまででも二転三転した潜水艦計画を一貫して継続できるのか、疑問でもあるが。

 ヴァージニア級攻撃型原潜であれば、これまで浮上航行し警戒監視を実施していた任務をすべて潜航して実施する事は可能となります。一方でヴァージニア級攻撃型原潜にとり不利であるのは、オーストラリア海軍は周辺海域の警戒監視を行うと共に、中国との軍事対立を背景に、南シナ海での任務を重視する方針です。すると海域の特性が随分とちがう。

 南シナ海は北部には深海を含む水深の深い海域が広がりますが、オーストラリアに隣接する南シナ海の南部と中部は水深が浅く、原子炉を稼働させる以上熱交換装置と減速ギアという、水中放音の宿命を抱えた原子力潜水艦よりも、充電した電池による完全無音潜航が可能な通常動力潜水艦の方が有利な海底地形ともなっており、運用環境と合致するのか。

 オーストラリア海軍はオーストラリア周辺海域に留まらず、水深の深い南シナ海北部の中国近海までを作戦海域とする為に原子力潜水艦を必要としている、こう考えるならば必要性は理解できます。例えば、コリンズ級潜水艦後継計画にオーストラリア軍は特殊部隊支援能力を要求しており、中国沿岸部での特殊作戦実施に当てはめるならば納得は行きます。

 QUAD日米豪印安全保障枠組ではなく、AUKUS,アメリカイギリスオーストラリア防衛協力枠組、今回の原子力潜水艦導入計画はAUKUSの一環として提示されましたが、AUKUS参加国では、アメリカとイギリスが原子力潜水艦を保有しています。しかし、イギリスは本国から距離が大き過ぎ、現状ではアメリカ海軍一国に一部任務負担の荷重がのしかかる。

 AUKUS枠組の視点から考えるのであれば、アメリカ海軍が南シナ海とその周辺海域での原子力潜水艦でなければ任務達成が難しいと考えられる海域での任務に、アメリカ海軍に加えてオーストラリア海軍が原子力潜水艦を保有するならば、負担の軽減に繋がる、こう考えるのかもしれません。もっとも、このアメリカの視点に些かの疑問符も付くのですが。

 同床異夢があるのではないか。アメリカ海軍が最後に運用した通常動力潜水艦は実験潜水艦やDSRV深海潜水艦救難艦等を除けばバーベル級潜水艦、自衛隊の潜水艦うずしお型に影響を与えた潜水艦であり、アメリカ海軍として通常動力潜水艦のポテンシャルを把握しているかについては疑問符が残ります。実際、アメリカも同様の認識は或るとされます。

 ゴトランド級潜水艦、アメリカ海軍は2004年から2007年に掛け、スウェーデン海軍の潜水艦を借用し、通常動力潜水艦の運用研究を実施しています。これは南シナ海を航行中のアメリカ海軍艦艇が中国海軍が運用する通常動力潜水艦による接触追尾を幾度も受け、対潜水艦戦闘を研究する為にスウェーデン製潜水艦の貸与を受け研究したものです。ただ。

 アメリカ海軍がゴトランド級貸与を受け実施したのは対潜水艦戦闘の研究であり、アメリカ海軍では通常動力潜水艦取得の研究は今世紀に入り幾度かはありましたが装備計画には至っていません、この為に通常動力潜水艦の運用能力を正確に把握しているとは考え難く、オーストラリア海軍へ原子力潜水艦取得を提示した背景には思い込みがあるように考える。

 原子力潜水艦が有れば何でもできる、こうした思い込みがオーストラリア海軍の視点からもあるのではないか、手元にはコリンズ級潜水艦しかありませんし、兎に角運用が潜水艦としては特殊過ぎる事から無理を通した計画の潜水艦は2054年完成という無理な長期間を突き付けられた、ならばいっそのことAUKUS枠組を通じて、と考えたのかもしれません。

 2054年まで掛かるアタック級潜水艦、オーストラリア海軍が待てない、という視点は充分理解できます、その頃には自衛隊そうりゅう型潜水艦は退役している頃ですし、次の最新たいげい型潜水艦さえ退役を迎えている頃でしょう、しかし、ヴァージニア級潜水艦にしても早ければリースで2040年という計画は、傍目にも難しすぎる計画に見えなくもない。

 コリンズ級潜水艦後継計画、一番艦竣工が1996年ですので2040年というのは相当な延命計画が必要であるようにも思えます、もちろん大規模な近代化改修と延命を行うのでしょうが、当初日本が提示した潜水艦そうりゅう型であれば現地生産分は別として日本で建造していたならば既に引き渡しが開始されている頃合い、大丈夫なのかと不安になるのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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