◆火山爆発指数3以上の噴火
アイスランド火山活動に伴う被害は、幸い人的被害は出ていないものの航空航路への火山灰の影響がかなり大きくなっています。
欧州では二百年ぶりの規模の噴火と言う事なので、今回の空中浮遊物による航空航路への影響と言うのは前代未聞の事案となるのですけれども、この際ですから、二つの問題について、例えば日本側からイニシアティヴをとってでも国際政治の議論対象とするべきではないか、という問題提起を行いたいと思います。中国海軍の動向に関して産経新聞と防衛大臣の記者会見で内容が異なる話や、徳之島米海兵隊ヘリ部隊移転案反対運動など気になる面も多々あるのですけれども、前者は情報が錯綜していますし、後者については改めて、という事で、本日は火山について。
航空航路への影響ですが、日本も世界有数の火山国で、非常に危険なVEI6クラスの噴火を過去に引き起こした事のある火山が、日本国土には幾つかあります。今回のアイスランドでの噴火災害は現時点でVEI3からVEI4の規模ということなのですけれども、アイスランド国内にはラキ火山のようにより大きな火山活動を起こす火山が複数あるわけですから、空前の規模で航空航路に影響を与えているのですが、これが絶後ではないということだけは確かですし、今後こうした状況になった場合には、どのようにして影響を最小限にとどめるかを考えなければなりません。
第一に考えるべきは、今回のような航空航路への影響が及ぶ位置での火山活動があった場合に、旅客機運用に関する政府間パネルを構築しなくては、北米東海岸や西海岸、欧州空域、東南アジア、日本周辺などの地域において将来的に再度大きな火山活動に見舞われ、航空航路への影響が生じた場合において、旅行客や商用、航空貨物の移動に大きな影響が及ぶことは目に見えています。そこで、緊急時を想定して、余裕のある航空機発着施設を予めピックアップしておき、被害のない規模の大きな空港を拠点空港として航空会社の旅客機や貨物機の発着を切り替えることが迅速に出来るよう、枠組みを構築しておく必要があると考える訳です。
エイヤフィヤットヨークトル氷河火山活動では、現時点で地中海沿岸諸国やスペイン国内の空港が火山灰の影響を受けていないという事から、イギリスなどは北米、アジア地域からイギリス国内へ帰る事が出来なくなった自国民をスペイン国内に集結させ、空母アークロイアルを含めたイギリス海軍艦艇、報道ではアルビオン級ドック型揚陸艦も出動していたようですが、艦艇派遣し、イギリス国内へ移動する、という手法が採られており、この為にイギリス政府はスペイン政府との間で合意を結んでいます。火山灰のように被害が広域化する災害に加えて、地震津波災害のような局地的な被害が空港などの発着機能に及ぼす影響も含め、必要に応じて航空航路の柔軟な変更と各国の空港施設の拠点機能の提供を迅速に可能とする国際協定を次の噴火に備えて締結しておく必要があるでしょう。
もうひとつは穀物先物取引市場高騰に備えての予防措置です。VEI3~4という規模ではありますが、影響については未知数です。このなかで火山灰が高空に漂う事で太陽光が遮断され、穀物生産に影響が及ぶ事は容易に想定できます。これがどれくらいの規模となるのかはスーパーコンピュータによる演算と世界各国での大気観測に依拠するほかはありませんが、フランスという欧州の農業大国にも火山灰の影響が及ぶ可能性はあります。先物取引価格が高騰すれば、途上国を中心に食糧不足を契機とする混乱が生じる可能性があり、生産数に影響していなくとも先物取引市場が高騰することにより、結局混乱が生じます。
自由市場に権力が介入することでの弊害というものは当然留意するべきなのですけれども、火山災害という緊急事態に際しての食料安定供給は、安全保障という面から取り組むべき命題です。価格高騰という状況に陥るまでに具体的な措置が取れず状況が悪化すれば、各国政府が穀物の国外輸出禁止措置など、非常に影響の大きな決断を執ることも予想され、そうした一定以上の価格高騰に陥らないためにも、先物取引市場の異常高騰に対しては、各国の協調した足並みのもとでの一時的な非常措置を執ることにより、輸出市場への政府直接介入と言う次の状況に展開する事を抑制するという意味からも重要です。
航空貨物による精密部品の安定した輸送と供給は日本経済にも重要な部分を占める命題ですし、欧州や北米地域などへの移動に国民は航空機を多用し、現実問題として欧州地域には12000名の邦人観光客が帰国できないという現状がある訳ですから、日本としては火山災害における航空輸送へのダメージコントロールについて、主体的に各国に提案する必要はある訳です。もうひとつは穀物価格高騰に続く食糧の生産国への囲い込みという状況が起これば日本は影響を受けるのですし、途上国にはそれ以上の大きな影響を及ぼし、安全保障上の問題に展開する可能性も含んでいます。次の災害に備えて、日本政府はこうしたことへ主体的な取り組みと各国への働き掛けを行っても良いのではないか、そう考えます次第。
HARUNA
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