◆式典と競技支援から警備まで、オリンピック支援
防衛省は本日、防衛省本省A棟第一省議室において第1回防衛省自衛隊2020年東京オリンピックパラリンピック競技大会特別行動委員会を実施しました。
第1回防衛省自衛隊2020年東京オリンピックパラリンピック競技大会特別行動委員会は委員長を防衛大臣、委員長代理を防衛副大臣、副委員長を防衛大臣政務官とし、委員に防衛大臣補佐官、事務次官、大臣官房長、衛生監、技術監、報道官、統幕長、陸幕長、海幕長、空幕長、情報本部長が務める会議として開始されました。
自衛隊の支援と言いますと、駅伝やマラソン支援の車両などが思い浮かぶところですが、その他にもさまざまな分野で協力を行います。自衛隊のオリンピック支援、最初に思い浮かぶのは武装集団としての能力を活かした競技会場の警備でしょうが、しかし、その他にも、自衛隊でなければ実施できない支援は幾つもあります。
第一に、オリンピック開会式、オリンピックの開会式と言えば、1964年東京オリンピックの開会式ではブルーインパルスが五輪を上空に描きました、カラースモークが今日では使えず、新しい国立競技場は空が見えにくそうなのは少々気になるところですが、このほかにも。
開会式こそオリンピックの第一というところですが、開会式そのものよりもその前、その輸送支援に陸上自衛隊が当たります。輸送支援であれば、例えばハイヤー等の手配で民間でも対応できるものと錯覚しがちですが、オリンピック開会式となりますと各国より国家元首級の要人が専用機で来日されますので、空港から会場までの空輸支援が必要となります。
VIP空輸任務は、絶対に間違いの許されない飛行であり、陸上自衛隊は要人輸送ヘリコプターを保有していますが、このほか、1989年には各国の要人輸送に第一ヘリコプター団のV-107輸送ヘリコプターが全面支援した事例があり、今回も第一ヘリコプター団のCH-47J/JAが羽田空港や成田空港と場合によっては横田基地からの要人輸送に協力することとなるでしょう。
また、国賓の来日に対しては、礼砲の発射も民間には礼砲に用いる事の出来る榴弾砲が無いため、自衛隊の欠かせない支援で、第1特科隊臨時礼砲中隊により、国家元首は21発、副大統領および首相は19発、閣僚と特命全権大使と大将には17発、などなど“自衛隊の礼式に関する訓令”に基づき、国際儀礼上の責務を果たさねばなりません。
1964年東京五輪では開会式の旗手は全て防衛大学校学生隊が務めましたが、長野冬季五輪では会場設営にも協力、オリンピックの始まりである開会式には今のところ輸送支援と警備支援が考えられるのですが、このほかにも支援は要請されれば最大限対応するものと考えられます。
競技支援ですが、マラソンなどでの車両支援は大会側にも大会側車両で十分対応できるものと考えられますが、資材輸送では輸送能力が足りなくなることも考えられ、日本通運といた民間企業とともに、自衛隊の車両も輸送支援に当たることは考えられます。しかし、その他にもヨット競技支援などに掃海艇を派遣した事例もあり、今回も実施されるかもしれません。
更に救急搬送支援、万一の負傷者の発生事案や、熱中症を含めた緊急時には、自衛隊が東京消防庁に協力し広域搬送体制を構築することも考えられるところ。自衛隊には知られている以上に様々な用途の装備がありますので、民生支援に用いることが出来るものは多いため、活用されるでしょう。
会場警備ですが、既に綜合警備保障などが株価に好影響を示しており、勿論警察庁と海上保安庁も特別警備体制が採られることは間違いありません。しかし、自衛隊が行う警備は、警察や海上保安庁、綜合警備保障には絶対対応できない分野において実施され、そしてその責任は大きい。
自衛隊が行う会場警備は、洞爺湖サミットや九州沖縄サミットなどで実施されましたが、会場へ不審航空機の接近に備える事です。同時多発テロのような旅客航空機、それでなくとも小型機を用いた自爆攻撃をテロリストが計画する可能性は充分あり、海上自衛隊はサミット警備へイージス艦を派遣しました。
イージス艦であれば、航空管制に従わない航空機を、多数のVIP輸送航空機や、それ以上に膨大な報道航空機から識別することが可能で、また最悪の場合、イージス艦の防空能力は会場に万一の事態が生じる前に必要な手段を即座に遂行することも可能です。
このほか、航空自衛隊のペトリオットミサイルも待機態勢に入り、場合によっては、ロンドン五輪ではロンドン市内の民間ビル屋上にレイピア地対空ミサイルなどが配置され、不測の事態に備えていました。首都圏のビルの屋上に81式短距離地対空誘導弾、ということはさすがに無いとは思いますが。
警備とはいえやり過ぎではないか、と思われる方も多いかもしれませんが、国家的行事であるオリンピックは、現在の国際公序、自由公正と機会均等を目指す諸国の協調へ暴力を以て反論する過激派の一部には最大の標的となり得るもので、このため、ロンドン五輪では前述のような警戒態勢が採られました。
このほか、広範囲の航空機を同時にその動向を把握し管制する早期警戒機による会場上空の警戒要請への待機は考えられ、実際、東日本大震災でも航空管制に出動しています。加えて万一への戦闘機などの待機も、通常の対領空侵犯措置任務に重ねて実施されることでしょう。
日本の警察の警備能力や民間警備会社の警備能力の高さは様々な行事において実証されていますが、航空攻撃に対し万全かと言われれば、流石に打つ手なしで、要撃と防空の両面で航空自衛隊、そして陸上自衛隊にしかできない任務となり、この重要性は改めて強調したいところです。
万一の開催中のテロに対しては、警視庁SATや銃器対策部隊とともに、陸上自衛隊も特殊作戦群等を待機態勢に置くことが考えられます。1988年のソウル五輪では海上保安庁の特殊部隊が創設され、2002年日韓ワールドカップでは都道府県警察の銃器対策部隊が装備と人員面で大きく強化されており、自衛隊も特殊作戦群のほか、臨時の待機部隊を編成する可能性もあるでしょう。
首都圏には第1師団のほか、中央即応集団の特殊作戦群、第1空挺団、中央即応連隊など、多くの部隊が駐屯しています。雑踏警備などは駐屯地祭や航空祭のような経験のみですので、警察と民間警備会社に分がありますが、それ以外の事態へは頼るところが大きいというわけです。
更に、会場警備には、オリンピック選手村などが臨海地区に配置されるため、1972年のミュンヘン五輪におけるテロ攻撃事案のような状況を阻止する観点から、海上保安庁とその虎の子特殊部隊SSTとともに海上自衛隊の特殊警備隊も警備支援に当たることが考えられ、平和の祭典への暴力の持ち込みを毅然として拒否します。
また、オリンピック期間中における防衛力の偏りを生じさせないよう、調整を行う必要性は言うまでもありませんが、本日、2020年の東京五輪にむけた、防衛省の準備の第一歩は始まりました。七年は長いようで、やはり長いですが、準備はこれから着実に進めてゆかねばなりません。
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