大江健三郎氏が逝去された。日本でノーベル文学賞を受賞した二人目の文学者である。松山の出身ではないが、松山東高校の卒業生であるから、松山とは縁が深い。
残念ながら、大江さんの小説は一冊も読んだことがない。ただ、岩波新書で出版された『広島ノート』と「沖縄ノート」は読んだと思う。特に『広島ノート』はベストセラーになったという。
文章が難しいし、講演は少なくとも1度は聞いたことがあるが、講演の上手な人ではなかったと思う。ただ、最近どなたかの文章だったかで読んだのでは、大江さんはなかなかユーモアのある人で文章から判断されるような気難しい人ではなかったし、会って話をするのは楽しかったとか書かれていた。
九条の会もその発起人だった人たちが次々と亡くなっていく。加藤周一さん、井上やすしさん、鶴見俊輔さんにつづいての死去である。
彼らが身をもって九条の大切さを示してくれていたが、その大切さをわからない人が多くなっている。
松山東高校の卒業生であるので、彼が高校に在学中に見知っていたという人もおられるとかで、グランドとの境の木の下で一人で本を読んでいるのを見かけたという老齢のご婦人がおられて、妻はその人の話を聞いたことがあるという。あの人はどうなったかなと気にかけておられたら、それが大江健三郎さんだったとのことであった。
高校の時の同級生で大江さんの本をすべて購入して持っていて、読みたいという人の貸していたという人もおられた。もっともこの人に大江さんは批判的であったらしいのだが。この方はもうかなり前に亡くなれている。この方の持たれていた大江さんの著書はすべて松山東高に寄贈されたのではないかと思うが、詳しいことは知らない。この方の妹さんとは私たちは親しかったのだが。
(2023.3.15付記) 今朝妻と大江さんのことでブログを書いたと話したら、こういう話をしてくれた。これは私などもいつも感じていることではあるのだが。
本の印税は普通8%であり、もしか定価が1,000円の本であったら、1冊に付き80円しか著者に入らない。それだと10冊売れたら800円、100冊売れたら、8,000円しか入らない。1,000冊売れたらようやく80,000円の収入となる。2,000冊売れたとしてようやく160,000円の収入となる。それくらいしか印税は入らないのである。
大江さんぐらいの作家にもなれば、10,000冊以上はどの本でも売れるだろうが、それで定価がもし1,000円だとすれば、10,000冊売れたしてようやく800,000円しか収入がないのである。華やかに見えるが、なかなか実情は厳しいものである。というようなことを話してくれたのである。
私も本を出版したことがあるが、定価2,000円であり、8%の印税だったかどうかは忘れたが、そんなものである。いくらか初版が出たときに、印税をもらったが、出版部数は2,000部であり、高々160,000円くらい、実状はこの2倍であったかもしれないが、高々そんなものである。
そして、その2,000部の初版が売れるのに8年から9年かかっている。昨年の11月に再版されたが、この分は全部売れないと印税は入らない。そして多分再版部数は500部である。
私などまだそれでも再版がされたからまだいいのだが、ひょっとすると初版で絶版の憂き目にあう本など五万とあろうか。作家として生活ができるなどという人はごく少数にしかすぎない。