テーラー展開に関係して「数学・物理通信」の編集者である S さんが編集後記に書いていた。はじめてテーラー展開を学んだときに
「不思議な式があるものだと思いました。なぜなら、この展開式を使うと、任意関数の x=0 近傍だけの振る舞いが分れば、他のすべての x での振る舞いがわかってしまうからです」
と書かれていた。頭のいい人の一つの反応としておもしろかった。
実は、この S さんのテーラー展開についての感想を読む前にこのテーラ展開を学んだときの感想を別に読んでいたからである。それはもう故人の広田良吾さんのものであり、これは『差分学入門』(培風館)p.31にある。
「この表現式は不思議な式である。左辺のf(x)が右辺に現れている。自分を定義するのに自分自身を使っている。自己矛盾に陥らないのかなぁー」---初めてこの式を見たときの著者の感想。
「x を時間と思う。x>0 のときの f(x) の(将来の自分)は x=0 における f の微分係数(現在の自分の動向)によって決定される」---現在の著者の感じ
とある。
私などはそういうことも考えたこともなかった。なんだか難しい式だなというくらいである。
その後知ったことは
f(x) =f(0)x+f'(0)x+f''(0)x^{2}/2!
で f(x) の値をx=0の近くでは近似的に計算できるとか、または
f(x)=a_{0}+a_{1}x+a_{2}x^{2]+・・・
と何回でも微分可能な任意の関数 f(x) をxのべき乗 x^{n} (n=0, 1,2, ・・・)で展開できるとかということだった。
そして未定係数の
a_{0}, a_{1}, a_{2}, ・・・
を微分を用いて決めた式がテーラー展開だということだった。そしてこのことを知ってようやくテーラー展開を理解できたと思うようになった。
もちろん剰余項の問題はまだ残っているのだけれども。テーラー展開の理論だって剰余項の問題が解決したのはLagrangeによってであると、数学の本には書かれている。
こういう考えを知るとフリーエ展開もそれほど違和感がなくなった。
ただし、フリーエ展開ではその展開の係数を求めるときには微分によってではなく、積分によって決めるところがちがうのだが。