以下の文は超幾何関数についての数学エッセイを書こうと思って以前に書いた「私と超幾何関数との接触」の経緯である。
数学エッセイの方は一向に出来上がりそうにないし、この個人的な歴史は数学エッセイにはあまりふさわしくない。それでここで紹介をさせてもらう。
超幾何関数という用語に出会ったのは
Schiff ``Quantum Mechanics"(McGraw-Hill) 2nd ed.
の116ページであった(この本は大学4年生のとき研究室でのセミナーで読んだ)。
これは量子力学にでてきた微分方程式の解を示すのに用いられていた。確か合流型超幾何関数(confluent hypergeometric function)といった。超幾何関数だけでも難しそうなのにその上に合流型という形容詞がついている代物であった。
その後、何十年かしてSturm-Liouville型微分方程式の固有値をMilneの方法を使って数値的に求めることを数年間自分の研究のテーマとした。
固有値の相対誤差とか計算時間を数値計算工学的に議論したときに, その固有値が解析的に求められる例として量子力学に現れるいろいろなポテンシャルでの固有値を求めた。
これらは量子力学の演習書でてくるものであるが、そのときにまた超幾何関数に出会った。普通に初等関数が解でないときでも、微分方程式の解は大抵、何らかの超幾何関数で与えられることを知った。
最近になってまたソーヤー著の『数学へのプレリュ-ド』(みすず書房)を読み返していたら、超幾何関数のことが書いてあった。これは数学の「統合化について」というテーマで語られていることの一部としてである。
ソーヤーによれば、「学校で習う関数のほかに技術者や物理学者が利用する多くの関数があるが、(中略)それらは超幾何関数の特殊な場合である。事実、こんにち多くの大学の物理学科の学生や工科の学生, ときには数学科の学生でさえもが学ぶ関数の100パーセントとはいわないまでも95パーセントが, このF(a, b, c; x)というただ一つの記号でカバーされるというのが実状である」という。
因みに幾何級数とは1+x+x^{2}+x^{3}+x^{4}+----のことをいう。超幾何関数は無限級数の形に表されるが、これが幾何級数とは違った形であることから来た名称らしい。
(2014.7.30 付記) 私のもっている疑問はつぎのようなことである。
ソーヤーが「大学の物理学科の学生や工科の学生, ときには数学科の学生でさえもが学ぶ関数の100パーセントとはいわないまでも95パーセントが, このF(a, b, c; x)というただ一つの記号でカバーされる」というとき残りの5パーセントの関数はどんなものか。
それを書き下すこともそんなに難しくはないとソーヤーは書いているが、残念ながらそれらを書き下してはくれなかった。
それはどのような関数なのだろうかという疑問である。最近古書で日本語で書かれた超幾何関数の書を数冊購入した。そのいずれかの著者に手紙を出して、私のつまらない疑問の答えを知りたいと思っている。
(2019.11.11付記)
超幾何関数で表せない初等的な関数は、矩形波を表す関数とかy=|x|とかも候補になるのではないかと思う。しかし、それが本当の答えかどうかはまだわからない。