[写真]立憲民主党の野田佳彦・安定的な皇位継承に関する検討委員会委員長、5年前の2019年、議員会館で、宮崎信行撮影。
立憲民主党はきょう令和6年2024年3月12日(水)「安定的な皇位継承に関する検討委員会 論点整理」を党の考え方として決定しました。通例はNC次の内閣の権限ですが、重要なので常任幹事会が扱うと決定されており、きょう正式に全文が決まりました。
野田佳彦委員長(元首相)がまとめた論点整理では、令和4年1月12日の政府の有識者会議報告は「安定的な皇位継承という先延ばしできない課題を先延ばし」「女性宮家の創設等についての明確な結論も示さ」ないと論評しました。そのうえで「近々、女性皇族が婚姻により皇室を離れることは十分想定され、とりわけ緊急的な課題として議論を急ぐ必要がある」とせかしました。
敬宮愛子内親王殿下(22歳)と秋篠宮佳子内親王殿下(29歳)を念頭に置いているとみられます。
野田内閣の平成24年10月5日の有識者ヒアリング2案のうち、「女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持することを可能とし」かつ「配偶者及び子に皇族としての身分を付与する案」を採用することを、額賀福志郎・衆議院議長のもとに設置される予定の各党協議会に臨む姿勢を示しました。
また、共産党(志位議長・田村智子委員長)に配慮してか「天皇は憲法上の存在であり、憲法が定める日本国の象徴、日本国民統合の象徴」とし法改正が「立憲主義の観点から、憲法違反の疑いが指摘されるようなことがあってはならない。国会においても、憲法との整合性を持った制度構築を議論しなければならない」との文言も加えました。
以下、全文(初投稿時点ではPDFからのコピぺ)
令和6年3月12日
安定的な皇位継承に関する検討委員会 論点整理
はじめに
平成28年8月8日、上皇陛下が国民に「象徴としてのお務め」について間
いかけられたことをきっかけとして、天皇の退位等に関する皇室典範特例法
(以下、退位特例法)が制定され、生前退位が実現した。しかし、この法律
は、安定的な皇位継承の確保という大きな課題に答えるものではなかった。上
皇陛下がおことばの中で「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に
続いていくことをひとえに念じ」と述べられているように、天皇陛下の次の世
代の皇位継承資格者が悠仁様お一人しかおられない状況の中で、安定的な皇位
継承を確保するための議論は、避けては通れない議論である。
退位特例法に対する附帯決議は「安定的な皇位継承を確保するための諸課
題、女性宮家の創設等」につき、「皇族方の御年齢からしても先延ばしするこ
とはできない重要な課題であることに鑑み、本法施行後速やかに、皇族方の御
事情等を踏まえ、全体として整合性が取れるよう検討を行い、その結果を、速
やかに国会に報告すること」と謳つた。
これを受け、令和3年3月16日に政府に設置された「「天皇の退位等に関す
る皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議」(以下、有識者
会議)は、同年12月22日に報告書をまとめた。衆参両議院正副議長は、岸田
総理から、令和4年1月12日、政府における検討結果の報告を受けた。そし
て同月18日に、両院の正副議長と各党各会派代表者が政府から説明を聴取し
たが、その際、両院議長から、「政府の検討結果について、各党各会派におい
て御議論いただきたい」との要請があった。その後、議論は停滞とノていたが、
令和5年12月19日、額賀衆院議長、海江田衆院副議長より、通常国会で落ち
着いた環境になっていることを前提に、立法府としての協議を行うべく、各党
内の議論を深めていただきたい旨の要請があった。
立憲民主党は、令和3年12月以降、泉健太代表のもと党内に「安定的な皇
位継承に関する検討委員会」(野田佳彦委員長)を設置して、幅広い範囲にわ
たる有識者の助言や指導を仰ぎながら、真摯に検討を進めてきた。
3
以下、附帯決議で明示的に要請されていた「安定的な皇位継承を確保するた
めの諸課題、女性宮家の創設等」について、広く国民に理解と関心を深めてい
ただき、特定の結論に誘導することにつながらないよう留意しつつ、想定され
る様々な方策や憲法上の課題点を示すことを中心に、今後の議論に供するため
の論点整理を行ったので、公表する。
1 有識者会議報告書に対する評価と対応
退位特例法の附帯決議が政府に検討を要請したのは、「安定的な皇位継承を
確保するための諸課題、女性宮家の創設等」である。しかし、有識者会議報告
書では、「悠仁親王殿下の次代以降の皇位の継承について具体的に議論するに
は現状は機が熟しておらず、かえつて皇位継承を不安定化させるとも考えられ
ます」と記載され、安定的な皇位継承という先延ばしできない課題を先延ばし
し、皇族数の確保についての方策を示すにとどまっており、また「女性宮家の
創設等」についての明確な結論も示さず、附帯決議の要請に十分に応えている
とは言えない。
よって、有識者会議報告書で検討された皇族数確保のための具体的方策を参
考としつつも、附帯決議が国会に要請した「安定的な皇位継承を確保するため
の方策」を正面から検討し、「立法府の総意」として一定の結論をまとめるこ
とが必要である。その際、憲法上、天皇の地位が国民の総意に基づくことか
ら、国民世論も踏まえた丁寧な議論が必要ではあるが、皇族数の減少が続く
中、先送りできない課題として、一定の期限を区切つて結論を示すことが求め
られる。
2 議論の視点
安定的な皇位継承の確保の議論を進める上では、以下の4つの視点からの議
論が必要であると考える。
ア 退位特例法に対する附帯決議の要請の遵守
退位特例法に対する附帯決議は、「安定的な皇位継承を確保するための諸課
題、女性宮家の創設等」について政府に検討を要請し、国会に対しては政府の
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報告を受けて、「安定的な皇位継承を確保するための方策について、「立法府の
総意」が取りまとめられるよう検討を行う」ことを要請している。国会での議
論も、当然、この要請に真正面から応える形で進められなければならない。
イ 憲法適合性の検討
天皇は憲法上の存在であり、憲法が定める日本国の象徴、日本国民統合の象
徴であって、主権の存する国民の総意に基づく天皇並びに皇室をめぐる制度
は、立憲主義の観点から、憲法違反の疑いが指摘されるようなことがあつては
ならない。国会においても、憲法との整合性を持った制度構築を議論しなけれ
ばならない。
ウ 立法府としての責務
附帯決議は、「国会は、安定的な皇位継承を確保するための方策について、
「立法府の総意」が取りまとめられるよう検討を行うものとすること」と要請
しており、今後は国会での議論が必要となる。政府答弁によると、有識者会議
報告書は、「国会で御議論をいただくに当たって、それに資するようにという
趣旨」で提出したものであり、立法府での議論によって総意をとりまとめ制度
設計が図られるべきである。単に報告書に記載された案を追認するのではな
く、国会としての主体的な議論の提示と合意が必要である。
工 歴史と伝統の尊重
天皇・皇室はわが国古来から紡がれてきた固有の存在であって、先人の智恵
と労苦により皇位が継承されてきた事実がある。よって、その制度を議論する
にあたっては、長い歴史と伝統を尊重することが求められる。
3 女性宮家の創設等について
「女性宮家の創設等」の課題については、附帯決議が政府に検討を要請して
いるにもかかわらず、有識者会議報告書では明確な言及がない。近々、女性皇
族が婚姻により皇室を離れることは十分想定され、とりわけ緊急的な課題とし
て議論を急ぐ必要がある。
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(1)女性皇族婚姻後の配偶者と子の地位
「女性宮家」に関しては、野田内閣の下で、女性皇族の婚姻後の身分と皇室
の御活動の維持に関しての議論が行われ、平成24年10月5日に「皇室制度に
関する有識者ヒアジングを踏まえた論点整理」が発表されている。この論点整
理では、
(I)「女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持することを可能とする案」
(II)「女性皇族に皇籍離脱後も皇室の御活動を支援していただくことを可能
とする案」が示され、
さらに、(I)については配偶者や子に皇族としての身分を与えるか否かとい
う観点から、
(I― A)案として「配偶者及び子に皇族としての身分を付与する案」
(I一B)案として「配偶者及び子に皇族としての身分を付与しない案」
が示された。
岸田内閣下の有識者会議報告書では、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持
することが皇位継承資格を女系に拡大することにつながるのではないかという
主張が紹介され、野田内閣下の論点整理における(I一B)案のみが示されてい
るが、両案についてその是非が詳細に検討されているわけではない。それぞれ
の主張を比較し、(I一A)案を合めた検討が必要である。以下、主だった両案
への賛否の理由を挙げる。これらの主張を踏まえた詳細な比較検討が必要であ
る。
なお、(II)案は、「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創
設等」を解決するものではないので、今回の検討には合めるべきではないと考
える。
(I― A)案に賛成する理由
○一家全体として、皇族としての処遇を受けることとなり、皇室の御活動にお
いても、当主である女性皇族単独の御活動に加え、御夫妻としての活動も可
能となり、皇室の御活動を円滑かつ幅広く分担していただくことができる。
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○世帯内で身分に違いが生じることがないから、制度としても簡明なものとな
り、家庭生活を送る上での支障が生じるおそれも少ない。
○現行の制度では、皇室典範第1条で「皇位は、皇統に属する男系の男子が、
これを継承する。」と明文化されており、その条文を改正しない限り、女性
皇族の子について、皇族の身分を付与しても、皇位継承資格は生じない。
○内親王。女王が婚姻後も皇族の身分を有するのは、その方自身の血統に着目
しているためであり、その系統にあたる子を皇族とすることは当然で、配偶
者も皇族とすることが適当である。
O内親王。女王に皇位継承資格を認めるのであれば、配偶者。子も皇族とする
のが適当である。
(I― A)案に反対する理由
○配偶者や子に皇族の身分を付与することは、将来の女系天皇につながるおそ
れがあり、男系で126代継承してきた皇室の伝統を破壊するものである。
○歴史的に見て、宮家の役割とは、皇位継承資格者を確保し、皇位継承の危機
に備えるものであつて、皇位継承資格を有しない女性皇族を当主とする宮家
には意義がない。
①婚姻に関して、皇室典範も民法も家制度を採用しておらず、婚姻によって皇
族たる妻が宮家を創設してそこに夫を迎えるという効果を生じる根拠はな
彰ヽ
。
(I一B)案に賛成する理由
○江戸時代までは女性皇族は皇室以外の者に嫁いでも皇族の身分を失わないの
が通例であったことなどから、比較的受け入れられやすい。
○配偶者や子については皇族費が支給されないことから、国庫の負担も相対的
に軽減される。
①配偶者の身分を一般国民とする方が、女性皇族の配偶者の婚姻に対する負担
感、不安感を軽減できる。
(I― B)案に反対する理由
○皇室活動の分担は、女性皇族が単独で行うことになる。
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○一つの世帯内で、妻が皇族、夫や子が一般国民という異なる身分となるた
め、様々な法律・制度の適用に当たり混乱が生じることが懸念される。
○配偶者や子の職業選択の自由等の諸権利については、その身分を一般国民と
する以上、法的な制限の対象となるものではないが、その行動が女性皇族の
皇族としての品位や政治的中立性に重大な影響を及ぼすような場合には、当
該女性皇族の皇籍離脱の要否の問題にまで派生するおそれがある。
(2)憲法上の諸課題
(I一B)案については、憲法上の諸課題が指摘されており、
(ア)「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有するこ
とを基本」とすると規定する憲法第24条第1項との整合性
(イ)配偶者や子を皇族としない場合、政治活動の自由など、基本的人権を制約
できるのか。制約できないとすると不都合が生じないか。また、家族の財産
関係はどうなるのか
(ウ)一般女性が男性皇族と婚姻した場合、皇族の地位を得ることになることと
の整合性(憲法第14条第1項の平等原則「すべて国民は、法の下に平等」と
の整合性)
等の議論が必要である。
4 1日11宮家男系男子から養子を迎える案について
有識者会議報告書では、阜族教確保のため、現在皇族には認められていない
養子縁組を可能とし、昭和22年10月に皇籍を離脱した旧H宮家の皇族男子
の子孫である男系の男子の方々に養子に入つていただく案が示された。
(1)対象者の調査と意思確認
この案については、まず、現実的に養子の対象となり得る方がおられるの
かを、その方の意思とともに、慎重に確認した上で、制度設計の議論に移ら
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なければならないと考える。対象者の存在が不明なまま、具体的な制度を設
計することはできないからである。その上で、具体的な養子制度をどのよう
に設計するのかを、憲法上の規定と整合性を持つかどうかを含めて検討すべ
きである。
(2)憲法上の諸課題
十日H宮家男系男子養子案については、有識者会議のヒアリングにおい
て、憲法学者から提起された憲法上の諸課題をクリアにする必要がある。す
なわち、
(ア)議論の前提として、憲法第2条が要請する皇位の「世襲」(「皇位は、世襲
のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継
承する」)とは、皇統に属する男系男子による世襲を意味するのか
(イ)養子たり得る資格を一般国民のうち皇統に属する男系男子に限定すること
が門地差別を禁じた憲法第14条第1頂(「すべて国民は、法の下に平等であ
つて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は
社会的関係において、差別されない」)に反しないか
(ウ)十日H宮家の男系男子に限定して養子を選ぶことは、皇統に属する男系男
子間で平等原則に反しないか
等の議論が必要である。
なお、有識者会議報告書では、皇統に属する男系男子を法律により直接皇族
とする案も示されているが、 ・般国民である対象者の同意も無しに参政権など
基本的人権をはく奪することにつながり、養子案と比べてもさらに憲法上のハ
ードルが高いと考える。
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5 今後の議論の進め方
先の退位特例法の制定の際には、衆参両院議長の下、与野党が協議を重ね、
「立法府の総意」を取りまとめる画期的な立法プロセスが採られた。今後の皇
位の継承に関わるこのたびの立法においては、よりいつそう与野党が真摯な議
論を行い、一致点を模索していかなければならない。また、退位特例法制定の
際は、議論のプロセスが国民に十分に開示されなかつたとの指摘がある。「国
民の総意に基く」という天皇の憲法上の地位の性質から、静ひつな環境で議論
を行うとともに、議論の経過を国民に提示し、世論の動向も踏まえて「立法府
の総意」をつくり上げていかなければならない。
その際、有識者会議報告書は、あくまで国会での議論に資するためのもので
あり、それをもつてただちに結論とすべきではなく、安定的な皇位継承確保の
ために考えうる様々な方策を合めて、「国権の最高機関」である国会が主体的
に論点を整理し、建設的な議論を尽くさなければならない。
わが党は、この論点整理を基に更なる検討を行うとともに、決して政争の具
にすることなく、憲法の基本原理と立憲主義を尊重する立場から、安定的な皇
位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について、「全国民を代表
する」立法府の一員として、国民各層の議論の尊重、国民の合意形成を図りつ
つ、引き続き、最大限の努力を重ねていく。
立憲民主党はきょう令和6年2024年3月12日(水)「安定的な皇位継承に関する検討委員会 論点整理」を党の考え方として決定しました。通例はNC次の内閣の権限ですが、重要なので常任幹事会が扱うと決定されており、きょう正式に全文が決まりました。
野田佳彦委員長(元首相)がまとめた論点整理では、令和4年1月12日の政府の有識者会議報告は「安定的な皇位継承という先延ばしできない課題を先延ばし」「女性宮家の創設等についての明確な結論も示さ」ないと論評しました。そのうえで「近々、女性皇族が婚姻により皇室を離れることは十分想定され、とりわけ緊急的な課題として議論を急ぐ必要がある」とせかしました。
敬宮愛子内親王殿下(22歳)と秋篠宮佳子内親王殿下(29歳)を念頭に置いているとみられます。
野田内閣の平成24年10月5日の有識者ヒアリング2案のうち、「女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持することを可能とし」かつ「配偶者及び子に皇族としての身分を付与する案」を採用することを、額賀福志郎・衆議院議長のもとに設置される予定の各党協議会に臨む姿勢を示しました。
また、共産党(志位議長・田村智子委員長)に配慮してか「天皇は憲法上の存在であり、憲法が定める日本国の象徴、日本国民統合の象徴」とし法改正が「立憲主義の観点から、憲法違反の疑いが指摘されるようなことがあってはならない。国会においても、憲法との整合性を持った制度構築を議論しなければならない」との文言も加えました。
以下、全文(初投稿時点ではPDFからのコピぺ)
令和6年3月12日
安定的な皇位継承に関する検討委員会 論点整理
はじめに
平成28年8月8日、上皇陛下が国民に「象徴としてのお務め」について間
いかけられたことをきっかけとして、天皇の退位等に関する皇室典範特例法
(以下、退位特例法)が制定され、生前退位が実現した。しかし、この法律
は、安定的な皇位継承の確保という大きな課題に答えるものではなかった。上
皇陛下がおことばの中で「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に
続いていくことをひとえに念じ」と述べられているように、天皇陛下の次の世
代の皇位継承資格者が悠仁様お一人しかおられない状況の中で、安定的な皇位
継承を確保するための議論は、避けては通れない議論である。
退位特例法に対する附帯決議は「安定的な皇位継承を確保するための諸課
題、女性宮家の創設等」につき、「皇族方の御年齢からしても先延ばしするこ
とはできない重要な課題であることに鑑み、本法施行後速やかに、皇族方の御
事情等を踏まえ、全体として整合性が取れるよう検討を行い、その結果を、速
やかに国会に報告すること」と謳つた。
これを受け、令和3年3月16日に政府に設置された「「天皇の退位等に関す
る皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議」(以下、有識者
会議)は、同年12月22日に報告書をまとめた。衆参両議院正副議長は、岸田
総理から、令和4年1月12日、政府における検討結果の報告を受けた。そし
て同月18日に、両院の正副議長と各党各会派代表者が政府から説明を聴取し
たが、その際、両院議長から、「政府の検討結果について、各党各会派におい
て御議論いただきたい」との要請があった。その後、議論は停滞とノていたが、
令和5年12月19日、額賀衆院議長、海江田衆院副議長より、通常国会で落ち
着いた環境になっていることを前提に、立法府としての協議を行うべく、各党
内の議論を深めていただきたい旨の要請があった。
立憲民主党は、令和3年12月以降、泉健太代表のもと党内に「安定的な皇
位継承に関する検討委員会」(野田佳彦委員長)を設置して、幅広い範囲にわ
たる有識者の助言や指導を仰ぎながら、真摯に検討を進めてきた。
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以下、附帯決議で明示的に要請されていた「安定的な皇位継承を確保するた
めの諸課題、女性宮家の創設等」について、広く国民に理解と関心を深めてい
ただき、特定の結論に誘導することにつながらないよう留意しつつ、想定され
る様々な方策や憲法上の課題点を示すことを中心に、今後の議論に供するため
の論点整理を行ったので、公表する。
1 有識者会議報告書に対する評価と対応
退位特例法の附帯決議が政府に検討を要請したのは、「安定的な皇位継承を
確保するための諸課題、女性宮家の創設等」である。しかし、有識者会議報告
書では、「悠仁親王殿下の次代以降の皇位の継承について具体的に議論するに
は現状は機が熟しておらず、かえつて皇位継承を不安定化させるとも考えられ
ます」と記載され、安定的な皇位継承という先延ばしできない課題を先延ばし
し、皇族数の確保についての方策を示すにとどまっており、また「女性宮家の
創設等」についての明確な結論も示さず、附帯決議の要請に十分に応えている
とは言えない。
よって、有識者会議報告書で検討された皇族数確保のための具体的方策を参
考としつつも、附帯決議が国会に要請した「安定的な皇位継承を確保するため
の方策」を正面から検討し、「立法府の総意」として一定の結論をまとめるこ
とが必要である。その際、憲法上、天皇の地位が国民の総意に基づくことか
ら、国民世論も踏まえた丁寧な議論が必要ではあるが、皇族数の減少が続く
中、先送りできない課題として、一定の期限を区切つて結論を示すことが求め
られる。
2 議論の視点
安定的な皇位継承の確保の議論を進める上では、以下の4つの視点からの議
論が必要であると考える。
ア 退位特例法に対する附帯決議の要請の遵守
退位特例法に対する附帯決議は、「安定的な皇位継承を確保するための諸課
題、女性宮家の創設等」について政府に検討を要請し、国会に対しては政府の
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報告を受けて、「安定的な皇位継承を確保するための方策について、「立法府の
総意」が取りまとめられるよう検討を行う」ことを要請している。国会での議
論も、当然、この要請に真正面から応える形で進められなければならない。
イ 憲法適合性の検討
天皇は憲法上の存在であり、憲法が定める日本国の象徴、日本国民統合の象
徴であって、主権の存する国民の総意に基づく天皇並びに皇室をめぐる制度
は、立憲主義の観点から、憲法違反の疑いが指摘されるようなことがあつては
ならない。国会においても、憲法との整合性を持った制度構築を議論しなけれ
ばならない。
ウ 立法府としての責務
附帯決議は、「国会は、安定的な皇位継承を確保するための方策について、
「立法府の総意」が取りまとめられるよう検討を行うものとすること」と要請
しており、今後は国会での議論が必要となる。政府答弁によると、有識者会議
報告書は、「国会で御議論をいただくに当たって、それに資するようにという
趣旨」で提出したものであり、立法府での議論によって総意をとりまとめ制度
設計が図られるべきである。単に報告書に記載された案を追認するのではな
く、国会としての主体的な議論の提示と合意が必要である。
工 歴史と伝統の尊重
天皇・皇室はわが国古来から紡がれてきた固有の存在であって、先人の智恵
と労苦により皇位が継承されてきた事実がある。よって、その制度を議論する
にあたっては、長い歴史と伝統を尊重することが求められる。
3 女性宮家の創設等について
「女性宮家の創設等」の課題については、附帯決議が政府に検討を要請して
いるにもかかわらず、有識者会議報告書では明確な言及がない。近々、女性皇
族が婚姻により皇室を離れることは十分想定され、とりわけ緊急的な課題とし
て議論を急ぐ必要がある。
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(1)女性皇族婚姻後の配偶者と子の地位
「女性宮家」に関しては、野田内閣の下で、女性皇族の婚姻後の身分と皇室
の御活動の維持に関しての議論が行われ、平成24年10月5日に「皇室制度に
関する有識者ヒアジングを踏まえた論点整理」が発表されている。この論点整
理では、
(I)「女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持することを可能とする案」
(II)「女性皇族に皇籍離脱後も皇室の御活動を支援していただくことを可能
とする案」が示され、
さらに、(I)については配偶者や子に皇族としての身分を与えるか否かとい
う観点から、
(I― A)案として「配偶者及び子に皇族としての身分を付与する案」
(I一B)案として「配偶者及び子に皇族としての身分を付与しない案」
が示された。
岸田内閣下の有識者会議報告書では、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持
することが皇位継承資格を女系に拡大することにつながるのではないかという
主張が紹介され、野田内閣下の論点整理における(I一B)案のみが示されてい
るが、両案についてその是非が詳細に検討されているわけではない。それぞれ
の主張を比較し、(I一A)案を合めた検討が必要である。以下、主だった両案
への賛否の理由を挙げる。これらの主張を踏まえた詳細な比較検討が必要であ
る。
なお、(II)案は、「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創
設等」を解決するものではないので、今回の検討には合めるべきではないと考
える。
(I― A)案に賛成する理由
○一家全体として、皇族としての処遇を受けることとなり、皇室の御活動にお
いても、当主である女性皇族単独の御活動に加え、御夫妻としての活動も可
能となり、皇室の御活動を円滑かつ幅広く分担していただくことができる。
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○世帯内で身分に違いが生じることがないから、制度としても簡明なものとな
り、家庭生活を送る上での支障が生じるおそれも少ない。
○現行の制度では、皇室典範第1条で「皇位は、皇統に属する男系の男子が、
これを継承する。」と明文化されており、その条文を改正しない限り、女性
皇族の子について、皇族の身分を付与しても、皇位継承資格は生じない。
○内親王。女王が婚姻後も皇族の身分を有するのは、その方自身の血統に着目
しているためであり、その系統にあたる子を皇族とすることは当然で、配偶
者も皇族とすることが適当である。
O内親王。女王に皇位継承資格を認めるのであれば、配偶者。子も皇族とする
のが適当である。
(I― A)案に反対する理由
○配偶者や子に皇族の身分を付与することは、将来の女系天皇につながるおそ
れがあり、男系で126代継承してきた皇室の伝統を破壊するものである。
○歴史的に見て、宮家の役割とは、皇位継承資格者を確保し、皇位継承の危機
に備えるものであつて、皇位継承資格を有しない女性皇族を当主とする宮家
には意義がない。
①婚姻に関して、皇室典範も民法も家制度を採用しておらず、婚姻によって皇
族たる妻が宮家を創設してそこに夫を迎えるという効果を生じる根拠はな
彰ヽ
。
(I一B)案に賛成する理由
○江戸時代までは女性皇族は皇室以外の者に嫁いでも皇族の身分を失わないの
が通例であったことなどから、比較的受け入れられやすい。
○配偶者や子については皇族費が支給されないことから、国庫の負担も相対的
に軽減される。
①配偶者の身分を一般国民とする方が、女性皇族の配偶者の婚姻に対する負担
感、不安感を軽減できる。
(I― B)案に反対する理由
○皇室活動の分担は、女性皇族が単独で行うことになる。
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○一つの世帯内で、妻が皇族、夫や子が一般国民という異なる身分となるた
め、様々な法律・制度の適用に当たり混乱が生じることが懸念される。
○配偶者や子の職業選択の自由等の諸権利については、その身分を一般国民と
する以上、法的な制限の対象となるものではないが、その行動が女性皇族の
皇族としての品位や政治的中立性に重大な影響を及ぼすような場合には、当
該女性皇族の皇籍離脱の要否の問題にまで派生するおそれがある。
(2)憲法上の諸課題
(I一B)案については、憲法上の諸課題が指摘されており、
(ア)「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有するこ
とを基本」とすると規定する憲法第24条第1項との整合性
(イ)配偶者や子を皇族としない場合、政治活動の自由など、基本的人権を制約
できるのか。制約できないとすると不都合が生じないか。また、家族の財産
関係はどうなるのか
(ウ)一般女性が男性皇族と婚姻した場合、皇族の地位を得ることになることと
の整合性(憲法第14条第1項の平等原則「すべて国民は、法の下に平等」と
の整合性)
等の議論が必要である。
4 1日11宮家男系男子から養子を迎える案について
有識者会議報告書では、阜族教確保のため、現在皇族には認められていない
養子縁組を可能とし、昭和22年10月に皇籍を離脱した旧H宮家の皇族男子
の子孫である男系の男子の方々に養子に入つていただく案が示された。
(1)対象者の調査と意思確認
この案については、まず、現実的に養子の対象となり得る方がおられるの
かを、その方の意思とともに、慎重に確認した上で、制度設計の議論に移ら
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なければならないと考える。対象者の存在が不明なまま、具体的な制度を設
計することはできないからである。その上で、具体的な養子制度をどのよう
に設計するのかを、憲法上の規定と整合性を持つかどうかを含めて検討すべ
きである。
(2)憲法上の諸課題
十日H宮家男系男子養子案については、有識者会議のヒアリングにおい
て、憲法学者から提起された憲法上の諸課題をクリアにする必要がある。す
なわち、
(ア)議論の前提として、憲法第2条が要請する皇位の「世襲」(「皇位は、世襲
のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継
承する」)とは、皇統に属する男系男子による世襲を意味するのか
(イ)養子たり得る資格を一般国民のうち皇統に属する男系男子に限定すること
が門地差別を禁じた憲法第14条第1頂(「すべて国民は、法の下に平等であ
つて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は
社会的関係において、差別されない」)に反しないか
(ウ)十日H宮家の男系男子に限定して養子を選ぶことは、皇統に属する男系男
子間で平等原則に反しないか
等の議論が必要である。
なお、有識者会議報告書では、皇統に属する男系男子を法律により直接皇族
とする案も示されているが、 ・般国民である対象者の同意も無しに参政権など
基本的人権をはく奪することにつながり、養子案と比べてもさらに憲法上のハ
ードルが高いと考える。
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5 今後の議論の進め方
先の退位特例法の制定の際には、衆参両院議長の下、与野党が協議を重ね、
「立法府の総意」を取りまとめる画期的な立法プロセスが採られた。今後の皇
位の継承に関わるこのたびの立法においては、よりいつそう与野党が真摯な議
論を行い、一致点を模索していかなければならない。また、退位特例法制定の
際は、議論のプロセスが国民に十分に開示されなかつたとの指摘がある。「国
民の総意に基く」という天皇の憲法上の地位の性質から、静ひつな環境で議論
を行うとともに、議論の経過を国民に提示し、世論の動向も踏まえて「立法府
の総意」をつくり上げていかなければならない。
その際、有識者会議報告書は、あくまで国会での議論に資するためのもので
あり、それをもつてただちに結論とすべきではなく、安定的な皇位継承確保の
ために考えうる様々な方策を合めて、「国権の最高機関」である国会が主体的
に論点を整理し、建設的な議論を尽くさなければならない。
わが党は、この論点整理を基に更なる検討を行うとともに、決して政争の具
にすることなく、憲法の基本原理と立憲主義を尊重する立場から、安定的な皇
位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について、「全国民を代表
する」立法府の一員として、国民各層の議論の尊重、国民の合意形成を図りつ
つ、引き続き、最大限の努力を重ねていく。