宮崎信行の夕刊フジ

元日本経済新聞記者の政治ジャーナリスト宮崎信行が衆参両院と提出予定法案を網羅して書いています。業界内で圧倒的ナンバー1。

【法案】「特商法及び預託法改正案」2021年通常国会に提出のはこびも「ジャパンライフ」マルチ商法「原則禁止」にとどまり議論ひっしか

2020年09月22日 18時40分00秒 | 第204通常国会令和3年2021年
[写真]消費者庁の前に立つ筆者、きょねん2019年。

 「特商法及び預託法などの改正案」(204閣法 号)が2021年の通常国会に提出されるはこびとなりました。

 ジャパンライフの倒産をきっかけとした、消費者庁の作業の結果、「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」が令和2年8月19日に「報告書」をまとめました。

 その後に、安倍晋三首相が突然の辞意を示し、内閣総辞職。その週に、警視庁など8県警が、ジャパンライフ社長の山口隆祥容疑者を、通算何度目かの逮捕をしました。きょねん4月に押収した捜査資料を読みこんだ結果この時期になったとの報道で、スケジュールに関しては、諸々考えると妥当といえるでしょう。

 広告塔に使われた、安倍晋三さんや加藤勝信さんは現段階で、名誉棄損などの民事訴訟をおこしていないようです。山口さんは直前まで役員報酬を月300万円程度受け取っているとの報道もあり、資力はなくはないはずです。

 報告書は「販売代金の支払いという形式で消費者から事実上の金銭の出えんを十分な認識のないままに元本保証と誤解させた状況で行わせ」、「売買の対象となる物品が存在しない」ことから「消費者に甚大な財産被害を及ぼすおそれが高い反社会性のある行為だ」と分析しました。

 そのうえで、報告書は「販売を伴う預託等取引契約はについては、本質的に反社会的な性質を有し、行為それ自体が無価値(反価値、"Unwert")である」ことから「預託法において、原則禁止とすべきである」としました。

 勇ましくも感じますが、報告書は「原則禁止とする前提で禁止の対象となる範囲の明確化を実務的に検討すべきである」と定義・対象規定を絞るよう求めて、罰則については「当該禁止に違反する事業者に対し、十分な抑止力を持った法定刑を設けるとともに、締結された契約については民事上無効とすることが必要である」としました。

 相当骨抜きな内容です。民事上無効であるとしても、出資に伴う現物が存在しないことに気づくまでにはかなりの時間がかかります。法務省・警察庁の所管になりますが、知能犯・経済犯罪である以上、法定刑として身体を半永久的に拘束することが極めて難しい。また、代理店を使った抜け道もありえます。

 これまでの国会審議では、消費者庁取引対策課長が行政処分をためらったり、積極的だった課長の後任者が急に弱腰になるなど、なんらかの圧力があったのではないかと実名で審議されています。消費者庁の定員は360名で、「局長」「部長」はおらず、課長が9名いるだけの組織です。大規模なマルチになると、消費者庁よりも、都道府県警察の組織犯罪対策課の方が頼りになることになります。しかし、それまでに財産を失えば、被疑者に対して全額補償を求めることは生涯無理です。

 安倍晋三前首相主催の「桜を見る会」の首相枠60番台で参加し、広告に使っていた、山口隆祥被疑者。

 先週の東京のAMラジオ局番組ではニュースセンター長の社員記者が「警視庁は財産詐欺に対する警戒が強く、被害者は地方の自民党支持者が多い」と被害者取材の成果を話していました。

 社会全体の高齢化で、豊田商事事件のように「騙された方が悪い」との世論は下火になったように感じますが、現在も、日本アムウェイのような組織的犯罪マルチ商法が続いています。家族と財産の情報を匿いがちな日本の家庭では、国土交通省主導の住宅ローンなどの財産をめぐる見解の相違が、社会に出ずに、家庭内で情報がとまりがちです。日本社会の陰湿さ、閉鎖性を悪用した財産侵害が少しでもないようにしてもらいたいものです。

 自民党政務調査会の事前審査での骨抜きの動向にも注目したいところです。

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インターネット版官報

Ⓒ2020年、宮崎信行 Miyazaki Nobuyuki

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