凍てつく寒さの中、馬たちの白い息や、身体から沸き立つ湯気などが朝焼けの逆光の中に浮かび上がる幻想的で美しいシーンを見ることができただけでもこの映画を観た価値があると思った。
6月15日(土)午後、北の映像ミュージアムが主催する「北のシネマ塾」の6月例会が開催された。今回取り上げられた作品は根岸吉太郎監督作品で輓馬を題材として取り上げた「雪に願うこと」だった。
帯広で開催されているばんえい競馬の厩舎がその舞台であり、人生に挫折した主人公(伊勢谷友介)が廃馬寸前だったウンリュウの姿に自分が重なり、その調教を始めた。再起しようと励むウンリュウの姿に刺激を受け主人公は再び人生を歩もうと決心する、という映画である。
私がこの映画を観るのは2度目なのだが、1度目を観終えてピンとこなかったことを憶えている。
それはまず題名の「雪に願うこと」という意味がよく分からなかったことだ。確かに映画の中では、病気の馬の回復を願った場面、主人公がウンリュウの勝利を願った場面で、雪だるまを屋根の載せるところを象徴的に描いてはいるが…、映画全体の中で何を願っていたのだろうか、と…。ばんえい競馬の繁栄なのか? 主人公・学の再起なのか? それとも…。
二つ目に、なぜこのストーリーにばんえい競馬が舞台として最適と考えたのだろうか?
ばんえい競馬の描写、厩舎の生活を描く際のディテールのこだわりなどは素晴らしいのだが、その舞台で描かれる廃馬寸前の馬と主人公の交流にリアル感をあまり感ずることができなかったのだ。私などはむしろよりドキュメンタリータッチでばんえい競馬を描くことで、北海道の一地方でしか実施されていないマイナーなばんえい競馬を多くの人に興味を抱いてもらえるキッカケになったのではないかと思ったりするのだが…。
今回、再び観賞してみてそのあたりのこだわりが解消したわけではなかったが、主演の伊勢谷友介はそれなりに好演していたし、それ以上に佐藤浩一をはじめとする小泉今日子、香川照之、山崎努などの存在感のある演技がこの映画を引き締めていることの気づいた。
シネマ塾では、映画鑑賞の後、北の映像ミュージアムの理事の和田由美さんが解説してくれた。それによると、鳴海章さんの小説「輓馬」を故・相米慎二監督が映画化を企図したがそれが果たせず、その遺志を継いで相米監督の親友・根岸吉太郎監督が映画化したということだ。また、この映画には彼女自身もエキストラで参加したと語った。
私の抱いた感想とは反対に、映画は業界からは好評だったようで、2005年の東京映画祭ではグランプリをはじめ4冠に輝いた作品だというから、私の映画を観る目もまだまだ節穴だということなのかもしれない。