文豪夏目漱石の同名の小説の映画化である。明治の時代に道ならぬ恋(?)に身を焦がす主人公とその恋人の物語である。監督(森田芳光)の力量やキャスト(松田優作、藤谷美和子など)の好演によって、上質の映画に仕上がった作品と映った。
昨日(6月25日)午後、北海道生涯学習協会が主催する「懐かしのフイルム上映会」の6月編が開催された。
今回取り上げられたフイルムは、夏目漱石原作、森田芳光監督の「それから」だった。
時代は明治後期のである。映画は、学歴はありながらも定職には就かず、本家の援助を受けながら裕福な生活を送る永井大助(松田優作)が友人の平岡常次郎(小林薫)の妻である美千代(藤谷美和子)とともに生きる決意をするまでを描いたものである。
明治の時代の良家のゆったりと流れる生活の様子を若き日の松田優作(当時35~6歳)が好演している。淡々と流れる映画の前半はむしろ私には退屈にさえ思えたが、後半になってにわかに緊張した流れとなっている。
それは若き日のころ、相思相愛だった大助と美千代だったが、さまざまな葛藤の末に大助は友人の常次郎に美千代を譲ったのだった。しかし、さまざまな事情の末に再会したとき、大助は悩み苦しんだ末に美千代と生きる決意をして、美千代に打ち明けたところ、美千代の同意を得たのだったが…。
時代は明治である。しかも良家にあっては許されるはずのない大助の決断だった…。映画はここで終わるのだが、はたして「それから」はどうなったのだろうか?
これが現代の話だったらどうだろうか? たとえ現代であっても一般的には許される話ではないと思う。それが道徳や倫理により厳しい明治の時代にあって、二人の行く末は茨の道だと想像される。映画を観た人たちは二人の悲しい結末を予想したのではないだろうか?
そんな予想をたてたくなるほど、主演の松田優作の静の中に含まれた狂気と諦念の演技は素晴らしい。また、明治の時代の哀しい女を演じた藤谷美和子も美しさと哀しさを見事に表現していたと思った。
1985(昭和60)年、森田芳光監督と、松田優作のコンビが素晴らしい映画を世に出していたことを今ごろになって知った…。