『天と地の守り人』(第1部・ロタ王国編、第2部・カンバル王国編、第3部・新ヨゴ皇国編)

上橋菜穂子、2007、『天と地の守り人』(第1部・ロタ王国編、第2部・カンバル王国編、第3部・新ヨゴ皇国編)、偕成社
主人公バルサとチャグムの物語「守り人」および「旅人」シリーズの完結編(3巻)。
4月20日に読了した『精霊の守り人』にはじまり、合計10巻、ようやく読み通した。読み通してわかったこと、いくつか記しておくことにしたい。「旅人」シリーズもふくめ、「守り人」と呼ぶことにする。
ひとつは、「守り人」シリーズは何を目指したかという点である。
はじめ、「守り人」シリーズは『ゲド戦記』のような、ゲドの成長の物語、個人にとっての世界の物語のようにチャグムやバルサが成長する物語であるのかとみえた。もちろん、チャグムは子供から生年へと成長し、北の大陸と南の大陸での遍歴を重ねながら、第二皇子から皇太子を経て最後は「帝」になるのだが、シリーズの目的としては、成長の物語はサイドストーリーのひとつにすぎないように思える。
また、バルサは、たびたび登場して活躍するのだが、シリーズを通してみるとこれまた、メインキャストとは言いがたいようだ。チャグムが主人公と見える物語もあり、バルサがそれと見える物語もある。ほかに、バルサの幼なじみのタンダや星読み博士のシュガ、そして、呪術師のトロガイといった登場人物も重要な役回りを果たす。最後の3巻『天と地の守り人』とその前の『蒼路の旅人』で重要な役回りを演ずるタルシュ帝国の密偵ヒュウゴ(新ヨゴ皇国の発祥地であるヨゴ枝国の出身)もまた重要な人物である。こうした作中人物が織りなす物語ではある。
しかし、同時に、物語を通じて、上橋の世界観が垣間見える。これまでも何度か指摘したが、二項対立的な世界観である。分立してきた南の大陸はタルシュ帝国の覇権が確立し、帝国は、北の大陸に触手を伸ばす。タルシュ帝国にも、支配者と被支配者、帝国観の異なるラウル王子とハザール王子といった二項対立の構図もまた、そのひとつであろう。
くわえて、おそらく上橋、「世界」を描こうとしたのだろう。ナユグの精霊たちのまぐわいによって北の大陸は温暖化が進み、そのことを見越したかのように、南の大陸のタルシュ帝国は豊かに変化しようという北の大陸の変化を見越して北進する。両大陸にに存在するヨゴ人の国と両大陸を遍歴するチャグムは二つの大陸を結び、同時に、人々が生きるサグともうひとつの世界ナユグを媒介する。こうした両大陸の構図の提示そのものが、著者が目指した物語であったのではなかったか。
その意味で、指輪物語にも似ているといえる。ナユグとサグの交錯する世界、神話、呪術、独自に作り出した用語の数々、これらの仕組みはまさに指輪物語であろう。指輪物語がヨーロッパ世界の神話的世界の物語的展開であったということからすると、「守り人」シリーズは、それとは違う神話的世界をふまえたものであるとよかったとも思えるのだが、神話的世界は、普遍的であったということか。どうであろう。
主人公バルサとチャグムの物語「守り人」および「旅人」シリーズの完結編(3巻)。
4月20日に読了した『精霊の守り人』にはじまり、合計10巻、ようやく読み通した。読み通してわかったこと、いくつか記しておくことにしたい。「旅人」シリーズもふくめ、「守り人」と呼ぶことにする。
ひとつは、「守り人」シリーズは何を目指したかという点である。
はじめ、「守り人」シリーズは『ゲド戦記』のような、ゲドの成長の物語、個人にとっての世界の物語のようにチャグムやバルサが成長する物語であるのかとみえた。もちろん、チャグムは子供から生年へと成長し、北の大陸と南の大陸での遍歴を重ねながら、第二皇子から皇太子を経て最後は「帝」になるのだが、シリーズの目的としては、成長の物語はサイドストーリーのひとつにすぎないように思える。
また、バルサは、たびたび登場して活躍するのだが、シリーズを通してみるとこれまた、メインキャストとは言いがたいようだ。チャグムが主人公と見える物語もあり、バルサがそれと見える物語もある。ほかに、バルサの幼なじみのタンダや星読み博士のシュガ、そして、呪術師のトロガイといった登場人物も重要な役回りを果たす。最後の3巻『天と地の守り人』とその前の『蒼路の旅人』で重要な役回りを演ずるタルシュ帝国の密偵ヒュウゴ(新ヨゴ皇国の発祥地であるヨゴ枝国の出身)もまた重要な人物である。こうした作中人物が織りなす物語ではある。
しかし、同時に、物語を通じて、上橋の世界観が垣間見える。これまでも何度か指摘したが、二項対立的な世界観である。分立してきた南の大陸はタルシュ帝国の覇権が確立し、帝国は、北の大陸に触手を伸ばす。タルシュ帝国にも、支配者と被支配者、帝国観の異なるラウル王子とハザール王子といった二項対立の構図もまた、そのひとつであろう。
くわえて、おそらく上橋、「世界」を描こうとしたのだろう。ナユグの精霊たちのまぐわいによって北の大陸は温暖化が進み、そのことを見越したかのように、南の大陸のタルシュ帝国は豊かに変化しようという北の大陸の変化を見越して北進する。両大陸にに存在するヨゴ人の国と両大陸を遍歴するチャグムは二つの大陸を結び、同時に、人々が生きるサグともうひとつの世界ナユグを媒介する。こうした両大陸の構図の提示そのものが、著者が目指した物語であったのではなかったか。
その意味で、指輪物語にも似ているといえる。ナユグとサグの交錯する世界、神話、呪術、独自に作り出した用語の数々、これらの仕組みはまさに指輪物語であろう。指輪物語がヨーロッパ世界の神話的世界の物語的展開であったということからすると、「守り人」シリーズは、それとは違う神話的世界をふまえたものであるとよかったとも思えるのだが、神話的世界は、普遍的であったということか。どうであろう。
![]() | 天と地の守り人 第1部・ロタ王国編偕成社詳細を見る | ![]() | 天と地の守り人 第2部・カンバル王国編偕成社詳細を見る | ![]() | 天と地の守り人 第3部・新ヨゴ皇国編偕成社詳細を見る |

