今年も別所小学校の元気な5年生達が田植えにやってきました。かつては4クラスもの生徒がいて、2日に分けて田植えをしていました。しかしながら、団地世代が多い地域のためか急激に生徒数が減って、数年前から3クラス、そして今年からは2クラスになりました。
今回24日は晴れた良い天気でしたが、汗ばむような蒸し暑さもなく梅雨の時期にしては過ごしやすい一日だったように思います。しかし、到着したばかりの子供達の顔は紅潮して汗ばんでいました。学校から約一時間かけて徒歩でやって来たためです。
簡単に挨拶してさっそく田植えの開始です。毎年のことですが、最初に保護者の方に植え方を教えた上で作業分担してもらいました。私から保護者に植え方を教え、保護者から子供達へ伝える方法で田植えをします。保護者の作業分担が決まると、いよいよ田植えの開始です。まず、子供たちに田んぼの泥の感触を知ってもらうため、田んぼを歩いてもらいました。
初田んぼに戸惑う5年1組の子達 少しは泥の感触に慣れたかな
子供たちの生活環境には自然と言えるものがほとんどありません。小学校の周りにはマンションやスーパー、飲食店ばかりです。自然と言えるのは、コンクリートの隙間に生えた雑草や人間が作った公園ぐらいではないでしょうか。または、少し離れたところにある神社ぐらいではないでしょうか。
多摩ニュータウンの一角のこの地域には、森や林,草原、ましてや田畑はほとんどありません。一時間歩いてやって来たこの場所にようやく広い林や田畑があります。初めてやって来た子供たちは最初どう思ったでしょうか。
田んぼ内の歩き方,苗の持ち方,植え方を丁寧に教える
最初、私が一列になった子供達を前にして、苗の持ち方や植え方などを教えました。そして、その見本をお母さん達に見てもらい交代しました。お母さん達には大きく三つの作業を分担してもらいました。一つは子供達の前に立って植え方を教えたり全体の進行を見て後ずさりの号令をかける役目です。二つ目は子供達の前に引っ張られた田植え紐をずらしたりささえる役目です。三つ目は苗が足りなくなった子供に苗を供給する役目です。参加したお母さんにとっては、子供達の学校生活を知るよい機会でもあると思いました。
田植えの指示をするお母さんと5年1組の子供達
田んぼの感触に戸惑っていた子供達もだんだん慣れて、田植えにチャレンジです。まずは苗の持ち方を教えました。ほとんどの子は苗の持ち方を知らないためです。切花しか手に持ったことがないためか、ほとんどの子は最初は葉の下部(茎とおぼしき部分)を持ちます。しかし、その葉の下部を持ったまま植えると、苗が曲がって植えられ根が浮いてしまい活着しません。根の部分を指で摘んだまま泥に差込むようにして植えるのが正解です。
青空の下、隣の子を見よう見まねで田植えにチャレンジ
次に苗の植え方(移植)を教えました。田んぼは子供達がいるため濁っています。その濁った田んぼの泥上への植え方です。泥に上手に差し込まないと植えられません。泥を汚ながっている子はたいてい苗を置くようにします。すると、ちょっとした波ですぐに苗が浮いてきます。根ごとちゃんと泥の中に差し込んで、根の周りを泥で包むようにします。
だんだん上手になりました そして、早く植えられるように
1クラスは35人ぐらいです。一度に全員は田植えできません。半分田植えが終わると次のグループと交代して田植えしました。交代すると初めと同じように苗の持ち方や植え方を教えながら田植えを続行しました。
後ずさりしながら田植え紐にあわせて苗を丁寧に移植
2クラスがそれぞれ隣同士の田んぼで平行して田植えしました。高い所から田んぼを見下ろしました。すると、田植えの号令をかけたり,田植え紐をささえたり,苗を供給したりするお母さんの働く姿がよく見えました。田植えは子供達とお母さんの合作作業といったところでしょう。できうればお父さんの姿もあればよかったと思います。しかし、平日のためお父さんの姿は残念ながらありませんでした。
小高いところから田植えを見下ろす
隣の田んぼでは5年2組が田植えです。ここの田んぼはやや水深があります。初めて田んぼに入る子供にとっては驚きの体験のようでした。毎年のことですが、男の子は田んぼに比較的ずかずか入り、女の子はためらいがちに入ります。概して、勇気のある男の子と慎重な女の子。また女の子は手をつないで田んぼに入ることが多いです。生まれつきのためなのかこれまでの生活習慣のためなのか分かりませんが、こんなところにちょっとした性差が表れます。
ずかずかと入る5年2組の子 先生と手をつないで慎重に
苗を植える場所には一本の紐が引いてあります。その紐の前まで行って苗を受け取ります。毎年植える一株分の苗は2,3本です。しかし、今年は苗作りがうまくいかず、さらに高校生や小学校に苗を贈ったこともあり苗の数が足りません。数年前に一株一本にしてそれほど減収しなかった経験があるため、今年は一株一本にしました。
田植え紐の一列になり、お母さん達から苗を受け取る5年2組
保護者に田植えの方法を教えた後ずっと、私は全体の進捗を見るため全体を歩き回りました。そして、子供達やお母さん方を見守りました。植え方が悪くて浮いてしまった苗を植えなおしたり、上手くできない子供をその場で個別に教えました。
紐を引っ張るお母さん 進行を見守るお母さん
小学生とは言え子供たちは小さな大人です。最初はお母さん方に教えてもらいながらも、お互いに教えたり教えあったりしながら田植えをしていました。また、苗が足りなくなった子供同士で苗を融通する姿もありました。田植えをすることは小さな社会活動です。お互いに助け合わなければ全体が進行しません。古くから日本人が続けてきた米作りは日本人の社会規範の原点ではないかと思います。
隣同士で田植えの方法を教えあったり確認しあう子供達
田んぼと言うと、コシヒカリなどの産地である新潟県などを思いおこします。しかし、自給率1パーセントのこの東京にも田んぼがありそれなりの米作りがあります。東京の農協でも米作りに必要な種籾を売っています。
今回田植えしたお米の品種はキヌヒカリです。コシヒカリより背が低くて倒れにくい品種です。私はこの田んぼでコシヒカリを作ったことがありますが、台風で全部倒れてしまい稲刈りに往生したことがあります。それ以来キヌヒカリを作っています。販売を度外視すれば、その土地の風土に合ったお米が一番作りやすいですね。
遠くに多摩テック遊園地の観覧車を見ながらの田植え
田植えが終わるとみんな手足が泥だらけです。これでは学校に帰ることができません。泥を落とすために田んぼの脇を流れる小川に行って手足を洗い落としました。その小川はちょっとした滑り台のような滝があります。子供達はもうおおはしゃぎでした。
滝を水と一緒の滑り落ちたり,水をかけあったり,石をはいでカニなどの小動物を探してみたり。子供達の好奇心がどっと湧き出したようです。
滑り台のような小さな滝を滑り落ちたり、水溜りで手足を洗う
この小川での一番人気は、滑り台のような滝を水と一緒に滑り落ちることです。滝の右端に誰がくりぬいたのか小さな足がかりがあります。その足がかりを登って、滝の上から滑り落ちます。最初は男の子だけでしたが、そのうち女の子も滑るようになりました。水しぶきをあげて、さながら遊園地のウォータースライダーです。
水しぶきをあげて楽しいウォータースライダー
この小川は滝だけではありません。小川に沿っていろいろな小動物が生息していまし。一番多く目に付くのはカニです。そして、カワニナなどの巻貝やカゲロウの幼虫などの昆虫です。どの子も田植えなど忘れて小川の探検です。先生達やお母さん方は、子供達が怪我しないかどうか,羽目をはずさないかどうかなど注意深く見守っていました。
自然の小川に親しむ子供達 小川の小動物を探す
時間が来ると先生のホイッスルが鳴りました。残念ながら今日の田植えは終了です。子供たちは学校に帰らなければなりません。田植えしたばかりの田んぼの畦を通って、荷物が置いてある畑に戻りました。
田植えしたばかりの田んぼの畦を通って荷物置き場に戻る
学校に帰る前に私の方から挨拶をしました。今後行う夏の雑草取り,田植え,そして収穫祭などについて話をしました。いつものことながら、明るい子供達を見ていると何か元気をもらったような気持ちがします。
暗いニュースが飛び交うこの頃ですが、額に汗するさわやかなこの子達を見ていると日本もまだまだ捨てたものではない思います。
元気で明るい5年1組の生徒達
さわやかで活発な5年2組の生徒達
元気な子供たちの喧騒が遠ざかると急に静かになりました。今年の田植えがすべて終わってほっとしました。あとは、子供たちが植えた苗を育てる作業が待っています。また、スズメなどの害鳥が来ないように網を張る作業も待っています。
ところで、田植えと平行して雑誌「東京人」のインタビューもありました。カメラマン1人と記者2人が来ました。私達へのインタビュー以外にも今回田植えした学校の先生,保護者,子供達へのインタビューもあったようです。
田植えが終わった頃はすでにお昼。記者の方々と一緒に昼食をとりました。昼食と言っても付近にレストランはありません。春に植えたジャガイモを掘って、そのまま調理して食べました。白,赤,黒のジャガイモを掘り、さっきまで子供たちが水遊びしていた小川でそのジャガイモを洗いました。
雑誌記者の方々と一緒に昼食の食材のジャガイモ掘り
食事をしながらも、食料自給率など昨今の食糧事情などの世間話をしました。私はかつてはテクニカルライターをしていたので、昔の手書きによる紙面作りなどの話もしました。またミャンマーの話など、いろいろなニュースを話題にしながら、ほかほかジャガイモなどの即席料理を楽しみました。
掘りたてのジャガイモを味見しながら世間話を楽しむ
これからますます暑い季節になります。田植えは米作りの次の始まりです。これから、水深の管理,害鳥避け網張り,雑草取りなどの作業が待っています。今日来た子供達とのお付き合いは来年まで続きます。子供達からこぼれるような笑顔をもらった以上、今後も農作業しなければと思います。