すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

バイバイ,ブラックバードか

2013年03月20日 | 読書
 仕事上のことでかなりばたばたした期間になったが,それにもめげず(泣),先週末から読み始めて読了した本の感想メモを残しておく。

 
 『石巻市立湊小学校避難所』(藤川佳三 竹書房新書)

 著者は同名のドキュメンタリー映画を撮影,制作した。映画の中味ということではなく,映画の背景や収めきれなかった(または,収めることが無理だった)話が載っている。
 十章からなる構成だが,時系列ではないので,少し読みにくさを感ずる点もあった。ただ本としての散漫な印象そのものが,避難所及びそこに関わった人たち(この中には著者も入るだろう)の姿や心情の複雑さを表してもいるようだ。

 被災者の気持ちが一通りではないことを頭では理解していたが,私たちの想像を越えて幅広いことがわかる。
 人が苦しい状況を生き抜くために,どんな心持ちが「有利」に働くのか,自分が脱け出したことをズルいと認めつつ,石巻に残る人をある面で非難した「工藤さん」の生き方には考えさせられた。


 『バイバイ,ブラックバード』(伊坂幸太郎 双葉文庫) 

 また途轍もないキャラクターが登場する。
 「繭美」…金髪,ハーフを自称,体格はアブドラ・ザ・ブッチャー。主人公の星野哲彦を引きずりまわし,暴言罵倒の連続。
 世間にある善意的な言葉を塗りつぶした辞書を持つ。
 この人物の魅力で物語が引っ張られていると言っても過言ではない。

 そして,第5話で言い放つ繭美の一言は,まさに作者の小説の大きな魅力そのままだ。

 「言ってやれ。言ってやれ。名言吐いてやれ。こいつが泣いちゃうような,厳しい台詞をぶちかませ」

 題名は,「バイ・バイ・ブラックバード」という古い歌の曲名ということで,同じく第5話に言葉として登場する。
 ブラックバードとは,不幸や不運を表す意味があるというのも,実にオシャレというか,伊坂らしい。

 さて,巻末の解説やインタビューで初めて知ったのが,この作品が太宰治の『グッド・バイ』という未完の絶筆のオマージュだということ。
 そちらの素養がないので全く気付かなかったが,この組み合わせは意外であったし,また少し見方が広がった気にさせられる。