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桜と絵本と豆乳と

信頼できるヤギを探す

2013年03月24日 | 読書
 『視点をずらす思考術』(森達也 講談社現代新書)

 著者は私にとって気になる存在の一人だ。
 数は少ないが他の著書も手に取っている。同世代が共有できる感覚があるからだろうか,と思ったりする。

 この本に書かれてあることも,諸手で賛同できるほどの知識や問題意識は自分には足りないが,概ね納得できる。またちょっと違う部分についても理解できる。

 内容は,数年前に新聞や雑誌などに掲載されたものがまとめられている。ただ大幅な加筆があったようで,まとまっていて読みやすかった。

 6章からなる本文以上に「前口上」が特に心に残った。

 日本人は羊度が強い。

 この文章はグサリときた。

 「ヨウド」なんて読み方はないから,「ヒツジド」と読ませるのだろう。
 意味は…。

 モンゴルの放牧民の羊の飼い方を例に,「周囲の動きに従う傾向が強すぎる羊」を示している。放牧民はそこに「同調圧力に従わない」ヤギを入れ,移動を促すのだという。

 著者自身が頻繁に取り上げるメディアへの警告は,この点が常に意識されている。

 そして,メディアの渦中にいる著者だからこそ知りえる事実があるし,この本にも書かれてあるオウムや天皇家のことなど,ごく一般的な報道には載らない情報を知っただけでも価値が高い。

 しかし,それも含めて著者は「視点をずらす」ということをこの本のテーマにおいた。

 「映像の嘘は,ぼくにもほとんど見抜けない」
 「表現とは,嘘の要素が混在する領域」
 「客観性は,幻想だ」

 これほどまでのことをずばりと言い切りながら,絶えず発信続けている著者は,いわば現代を生き抜くたくましい「ヤギ」だ。草を食いつくせば移動するし,風や雨を防ぐための場所も探せる。

 「足元の草を食べつくしたら,その場で立ちつくす」羊と自覚したならば,信頼できるヤギを探すしかないだろう。

 
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