とういうわけで、三日に渡ったショパンコンクールのファイナルステージが水曜日に終わり、深夜に結果が発表されました。
途切れ途切れながら、三日、ショパンのコンチェルトを何度も聴いていると、さすがに素人の耳にも違いが聞こえてきて、最終日の第一演奏者の小林さんの力強い第三楽章が終わり、あと三人を残すのみとなった時、ひょっとすると、反田さん、小林さんで日本人ワンツーになるのかも知れないと思って、そうツイートしました。しかし、その後の演奏者が強力でした。特に優勝者となった最後の中国系カナダ人、Bruce Liuの演奏は圧倒的でした。日本人二人とも私は第二楽章の細やかで情緒纏綿なところが最大の見せ場だと思ったのですけど、Bruce Liuの見せ所はなんといっても正確で粒のそろった打鍵での速いパッセージで、第三楽章の最後のvivaceは非の打ち所がないと素人の私でも感じました。演奏後の観客の多くがスタンディングオベーションで演奏を讃え、その立って拍手している人の数が他のコンテスタントに比べて明らかに多かったのが私の感想を裏付けていると感じました。
彼の一つの勝因は、これも素人考えですが、Fazioliのピアノとの相性ではないかと思います。Fazioliはスタインウェイのきらびやかな派手さは抑えられている一方、音がクリアに響くように感じます。話にきくと、そもそも、スタインウェイの欠点を克服したピアノを作ることを目指して工学的に計算してデザインされたピアノがFazioliなのだそうです。倍音が多く響くと華やかで豊かな響きになる一方、歯切れ良さが犠牲になります。第三楽章の速くて粒の揃った音を奏でるのに、Bruce Liuの正確な指使いとFazioliのクリアな音質はベストのコンビネーションだったのではないでしょうか。
とはいうものの、反田さんはGadjievと同率二位、小林さんはKuszlikとの同率四位、で二人とも入賞しました。日本人で二位は内田光子以来の快挙だと思います。
入賞者八人のうち女性は二人です。演奏を聴いて思ったのですけど、ショパンの技巧的で速い部分の音を歯切れ良く打鍵するのにかなりの手指の筋力とそのコントロールが必要なようで、その点で、そもそもショパンのコンチェルトは女性演奏者に不利なような気がします。
また、入賞者のピアノの選択も興味深いです。一位のLiuはFazioli, 二位のGadijevはカワイ、三位のGarcia-Garcia、五位のArmelliniもFazioli、六位のBuiがカワイ、残りの入賞者3人はスタインウェイを弾いたということで、入賞者に限れば、Fazioli 三人、カワイ二人、スタインウェイ三人とFazioliとカワイの躍進、王者スタインウェイの後退が見られます。6年前の前回はヤマハを選んだ人も多かったようですが、今回は残念ながらファイナリストの誰もヤマハは選びませんでした。
繰り返しのようになりますけど、プロがフェラーリのようなFazioliやベンツのようなSteinwayのピアノを好むのは当然でしょうけど、彼らが初心者だったときはきっとカローラのようなヤマハのアップライトでドレミを覚えたに違いないと思います。というわけでヤマハはやっぱり偉いと思ったショパンコンクールでした。
ファイナルでのBruce Liu, 反田さん、小林さんの演奏。三人とも一番を弾きましたが、下のビデオの第三楽章の一部などを聞きくらべてみるとFazioliのクリアな音が際立っているように思います。
また、この三人の第三楽章の最初から最後のタッチまで演奏時間を比べてみると、Bruce Liu が9’22''、反田さんが9'33''、小林さんが9'48とLiuのテンポが少し速いようです。これも山場の速いパッセージを際立たせた要因になっているでしょう。
Bruce Liu - FAZIOLI
反田さん - Steinway
小林さん - Steinway
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