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松明を持った白大理石のような男がゆっくりと、ほんとうにゆっくりと舞台の両側に設置された篝(かがり)の薪に火を点けて去る。
{篝火(かがりび)とは書けなくても、漢字そのものは当たりまえのように読めるのだが、篝というのは、火を燃やすための鉄製の籠のことだとか。}
芝生に敷かれたござむしろと木製ベンチにいる観客は50人余り、そのうしろからライトが照らされ、舞台の背景となっている夕焼けが徐々に暗くなっていく。
次に出てきたのが真っ赤なドレスの日傘を持つ女の姿で、これもまたこれ以上ないほどのゆっくりさで顔を隠して舞台を往復した。
長いドレスが前開きなのか、白い足を前に出す度にちらりと見えるのだけれど、裾を踏むようなことにはならず、むしろ裾を踏まないようにことさらゆっくり動いているようにさえ見えた。
能の動きとは、同じゆっくりでも足の運びが全く違い、こちらはこねるように足を前にだす。
上半身も、あちらは水平移動だけれど、こちらは上下動が入るのだ。
そうして舞台の端からビオトープに日傘を落とすと、隠していた顔は白塗りスキンヘッドで、ドレスから抜け出た裸形は鍛えられた肉体。
すると、舞台右(上手)から、初めに松明を点けて回った男が、これもほぼ全裸白塗りで現れ、とんぼを切る。
それもスポーツ的演劇的一回転ではなくて、柔道の技を掛けられ投げ飛ばされたような動きだった。
そうして二人の演技はゴリラのような動きであったり、いきなり何かに転ばされたような動きであったりの激しくゆったりがつづく。
目の前で何が起こっているのかという張り詰めた雰囲気のままに観客は押し黙って、ひたすら見入っていたのでありました。