和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

鶴見・梅棹。

2010-10-02 | 他生の縁
鶴見俊輔の著作を何冊か持っているので、そこに梅棹忠夫氏がどのように登場しているのかと、ちょっとめくってみました。

鶴見俊輔書評集成3

ここには、「梅棹忠夫著作集5」の月報に掲載された鶴見俊輔の文が掲載されておりました。

「彼と会う時には、理学部に近い進々堂で会うことにした。いっぱいのコーヒーで、何時間か話すということが、私が京大にいた五年ほどによくあった。そのころ彼は酒をのまなかった。彼のとりあげる話題は、当時の学者知識人のとりあげるものとは一風かわっており、それにむかう角度は当時の新聞雑誌の論調に背をむけるものだった。・・・・
彼に原稿をたのむとしめきりの日に進々堂にそれをもってあらわれた。原稿料は百円くらいだった。・・・『思想の科学』の四十三年間に、創刊号の武谷三男『哲学は如何にして有効性を取り戻し得るか』と梅棹忠夫『アマチュア思想家宣言』の二つが、そのさし示すコースからしばしばはずれるこの雑誌について今も未来を指さしており、それは梅棹の退会以後もかわらない。『思想の科学』は草野球とおなじく草学問の一つの場であり、それをテーゼとして書きのこしたのが梅棹忠夫である。・・・」


さて、そうすると、『アマチュア思想家宣言』というのを読みたくなる。
梅棹忠夫著作集第12巻に、それは載っており、1954年に、まず雑誌に掲載されたのでした。著作集で10ページほどの文で、簡単に読めるのがいいですね。
気になった箇所を、ちょいと引用。

「思想はけっしてすべてではない。そのなかで、すべてが処理されてしまうのではない。現実の社会における現実の人間の生活と、いろいろの点でかかわりがある。体系ということをいうならば、思想は、生活というおおきな体系のなかの一要素でした。それは、それぞれの土地のうえに成立した具体的な『文明』のひとつなのであって、どこへでも持ちはこびのできるような宙にういたものではなかったはずでした。思想の研究家で思想史を専攻するひとはあまるほどあるが、思想地理学というものをかんがえたひとはないのだろうか。思想とは、すぐれて地理学的な存在であると、わたしはかんがえているのですが。」


「思想地理学」というのは、いったいどういうものか?
そういえば、「梅棹忠夫語る」(日経プレミアシリーズ)に
こんな語りがありました。

梅棹】 それまでに中国体験があって、インドを通って帰ってきた。それを通して、インドを理解し、アジアを理解した。それで、『日本がアジアやなんて、アホなことがあるか』って書いた。実際、日本に帰ったときに、 「これがアジアか?」と思った。ほんとにちがう。カルカッタの雑踏と東京の空港の清潔さ、簡素さ。それはすごいちがいです。
カルカッタの鉄道の駅の猥雑さといったら、もうびっくりする。その汚い鉄道の駅のプラットホームに、家畜のかごを持った人がいっぱい座っていて、家畜を連れて汽車に乗ってくるんです。自動車道路のわきにも人が寝ている。自動車道路ですよ。わたしには中国での体験があるから、それほど驚きはしなかったけれど。信じられないような話やけど、中国で二年間生活していたとき、朝、研究所への通勤途中、道端でウンチしてる人がいっぱいいた。ほんとうにすさまじい社会やった。道端に男がザーッと並んで、ウンチしてるわけです。
小山】その前に見た牧畜民は非常に簡素で清潔で、さっぱりしてものと。
梅棹】北アジア、西アジアはそうね。その前に、張家口でイスラームを見ているのが伏線になっている。張家口に大きなイスラーム寺院があって、アホンというイスラームの聖職者がいた。何もないが、さっぱりしていた。
小山】アラビアのロレンスもそう言ってましたね。中国ともとがうんですか。
梅棹】ぜんぜんちがう。わたしは二年いたから、中国のことはよく知っている。それから後も、中国30州を全部歩いている。そこまでした人間は、中国人にもほとんどいないと言われたけれど、わたしは全部自分の足で歩いている。向こうで生活していてわかったんやけど、中国というところは日本とはぜんぜんちがう。「なんというウソの社会だ」ということや。いまでもその考えは変わらない。最近の経済事情でもそうでしょう。食品も見事にウソ。ウソと言うと聞こえが悪いけれど、要するに「表面の繕い」です。まことしやかに話をこしらえるけれども、それは本当ではない。
小山】梅棹さんは「中国を信用したらアカン」と言ってましたね。
梅棹】いまでもそう思う。しかし、ある意味で人間の深い心の奥にさわってる。人間の心の奥に、おそろしい巨大な悪があるんやな。中国にはそれがある。 (p30~31)


あと、対談・鼎談でも鶴見・梅棹のとりあわせで、語っているので、そちらも、読んでみたいと思っております。
コメント
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