気がつけばですが、
磯田道史の新刊は買うようにしています。
ということで、新刊の
磯田道史著「日本史の探偵手帳」(文春文庫)を購入。
文庫の最後に「本書は文春文庫オリジナルです」とありました。
どこからでも面白いので、
パラリとひらいたところを引用。
「『名将言行録』は古今稀にみる名著といっていい。
著者は岡谷繁実(おかやしげざね)。幕末から明治の人である。
引用書目が多すぎて記事に出典がないのが、玉に瑕だけれども、
古典に通暁した明治人が死に絶えた今日、こんな書物はもう作れない。
・・・・・
『名将言行録』には、武田信玄の部将・高坂弾正と曾根内匠(たくみ)
の問答として、こんなことが書いてあって、私は大いに勇気付けられた
のを憶えている。曾根が高坂に問うていった。
良い大将にお行儀の悪い者がいて、
愚かな大将にお行儀の良い者がいる
ということが世間にはある。これはなぜか。
高坂はこう答えたという。良将というのは、
扇・鼻紙のような、どうでもよいことは忘れる。しかし、
刀脇差のような本当に大切なことは忘れない。たとえば、
織田信長は『行儀荒しといえども、人の目利き上手』であって、
『信長、扇・鼻紙をば忘れて刀脇差を忘れぬ心あり』、だから強い。
一方、山口の大内義隆は『行儀善けれど、人の目利き下手』であり、
取り立てた侍は十人中九人までが役に立たず、
家老の陶晴賢(すえはるかた)に国を掠め取られて殺された。
義隆はお行儀は良かったが、
扇・鼻紙のような、どうでもいいことにこだわって、
本当に大切なことが何かわかっていなかったのだ。
学校の図書室でこれを読みながら、私は(鼻紙は忘れてもいいが、
人の観察は忘れず、絶対に、人間の目利きになろう)などと、
大げさなことを考えはじめた。『名将言行録』には
こういう話が山ほどのっていて、私は人生に大切なことは、
この本から教わったように思う。」
(p240~241)
はい。「人間の目利きになろう」と大げさに考えはじめた人の、
その人の本を楽しみしている私は一人です。
うん。ここを読んだだけで私は満腹。
後の頁は、鼻紙に思える不心得(笑)。
磯田道史の新刊は買うようにしています。
ということで、新刊の
磯田道史著「日本史の探偵手帳」(文春文庫)を購入。
文庫の最後に「本書は文春文庫オリジナルです」とありました。
どこからでも面白いので、
パラリとひらいたところを引用。
「『名将言行録』は古今稀にみる名著といっていい。
著者は岡谷繁実(おかやしげざね)。幕末から明治の人である。
引用書目が多すぎて記事に出典がないのが、玉に瑕だけれども、
古典に通暁した明治人が死に絶えた今日、こんな書物はもう作れない。
・・・・・
『名将言行録』には、武田信玄の部将・高坂弾正と曾根内匠(たくみ)
の問答として、こんなことが書いてあって、私は大いに勇気付けられた
のを憶えている。曾根が高坂に問うていった。
良い大将にお行儀の悪い者がいて、
愚かな大将にお行儀の良い者がいる
ということが世間にはある。これはなぜか。
高坂はこう答えたという。良将というのは、
扇・鼻紙のような、どうでもよいことは忘れる。しかし、
刀脇差のような本当に大切なことは忘れない。たとえば、
織田信長は『行儀荒しといえども、人の目利き上手』であって、
『信長、扇・鼻紙をば忘れて刀脇差を忘れぬ心あり』、だから強い。
一方、山口の大内義隆は『行儀善けれど、人の目利き下手』であり、
取り立てた侍は十人中九人までが役に立たず、
家老の陶晴賢(すえはるかた)に国を掠め取られて殺された。
義隆はお行儀は良かったが、
扇・鼻紙のような、どうでもいいことにこだわって、
本当に大切なことが何かわかっていなかったのだ。
学校の図書室でこれを読みながら、私は(鼻紙は忘れてもいいが、
人の観察は忘れず、絶対に、人間の目利きになろう)などと、
大げさなことを考えはじめた。『名将言行録』には
こういう話が山ほどのっていて、私は人生に大切なことは、
この本から教わったように思う。」
(p240~241)
はい。「人間の目利きになろう」と大げさに考えはじめた人の、
その人の本を楽しみしている私は一人です。
うん。ここを読んだだけで私は満腹。
後の頁は、鼻紙に思える不心得(笑)。