和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

格別な歴史へ

2024-10-21 | 書評欄拝見
9月末に、古本購入した「桑田忠親著作集」全10巻(秋田書店・昭和53年)。
そろそろ一ヶ月になります。今まで私の興味というのは、
そのくらいのパターンで、他へと移ってしまうのでした。
とりあえずは、各巻末の解題だけでも読んでおくことに。

はい。そうして、興味の潮がひいても、また満ちてくる機会を待つことに。
最近は、そんなことを思うようになっております。
そんなことを思っていたら、浮かんできた書評がありました。
それは、書評家向井敏氏が、中野重治著「本とつきあう法」を
とりあげた箇所でした。

「 『本とつきあう法』は昨今しきりに刊行される読書論の
  はしりともなった本だが、・・なかに
  芳賀矢一・杉谷代水の共著になる
 『 作文講話及文範 』 『 書簡文講話及文範 』に触れた章がある。
  文章と手紙の書き方を説いたこの古い二冊の本のために、
  中野重治はその美質を簡潔的確に評したうえ、
  書評史上まれに見るすばらしい言葉を捧げた。・・・・

    ああ、学問と経験とのある人が、
    材料を豊富にあつめ、手間をかけて、
    実用ということで心から親切に書いてくれた
    通俗の本というものは何といいものだろう。     」

      ( p143 向井敏著「本のなかの本」毎日新聞社・1986年 )


ということで、桑田忠親著「戦国武将の手紙」のはしがきの
はじまりを最後に引用しておきたくなります。


「 学生時代から歴史の書物や歴史小説を耽読し、
  特に日本の歴史に深い興味を抱いていた私は、
  大学を卒業して、東京大学の史料編纂所に勤め、
 『大日本史料』や『豊太閤真蹟集』や『古文書時代鑑』の
  編纂に従事するにつれて、日本歴史に対する認識を
  新たにせざるを得なくなってきた。・・・・・・・・

  ・・歴史の材料には、さまざまな種類のものがあるが、
  その中で、古文書と古日記が一番確実な史料だということも理解できた。

  それ以来、学者の評論や作家の時代小説を読んだり、
  物語、伝記、記録などをひもとくよりも、
  古日記を読んだり、
  古文書をあさったりするほうが、
  ずっと楽しくなってきた。

  それによって、歴史の真相に、より以上触れられる
  可能性を見いだしたからだ。たとえば
  麗々しく巻物にして桐の箱に納めた系図よりも、
  襖の下張りにされた古い手紙のほうが、
  史料的価値が遥かに高い、ということを教えられたのである。

  ところで、・・・古文書は、数が多いし、新たに発見される
  可能性にも富んでいる。その点、古文書、即ち、
  歴史上の人物の書いた手紙を、読み解いたり、
  新しいものを発見したり、調査したりする楽しさは、格別である。
  体験した人でないと、その味はわからない。・・   」
     ( p187 桑田忠親著作集第三巻「戦国武将(二)」 )


はい。とりあえず各巻凾入りの古本の真新しいページをひらいて、
各巻の解題だけは読みました。私のはじまりは、ここまで(笑)。

ということで、この全集の第一巻の解題の最後を引用して
おわることに。

「 このようにして、桑田史学の世界は、
  古文書の研究を基盤とした史学研究であり、
  その研究成果を、わかり易い文章として、
  より多くの読者の心を動かそうとするものである。
  
  つまり底辺を広くし、全体の水準を高め、
  以て日本文化の発展に寄与しようと意図したものである。 」

     ( p349 著作集第一巻の解題・米原正義「桑田史学の世界」 )



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