和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

外山滋比古『失敗談』

2021-11-25 | 先達たち
ネットの古本を注文するのですが、
この頃は、新刊同様の本を手にすることが多くなりました。

外山滋比古著「失敗談」(東京書籍・2013年)が、
きれいで帯付き200円。はい。外山氏の著作は好きなので、
手元になくって古本で安ければつい買います。

はい。私には好きな落語家の噺を聞いているような、
そんな気分を味わわせてくださる方なのでした。

ああ、これも以前聞いたことがあるなあ。
そんなことを思いながら、パラパラとめくる楽しみ。
同じ話を聞いているのに、またしても頷いてしまう。
はい。今回もありました。そんな箇所を引用します。

「つくづくよく忘れる。
書いたこともすぐ忘れる。
5分前に書いたことも忘れ、
思いつくと、新しい考えのように思ってまた書く。
くりかえすつもりはなくてくりかえしている。

そういう原稿を集めて、本にして出版したことがある。
それを意地の悪い匿名書評家がおもしろがってとり上げて、
ケチョンケチョンにやられた。

酔っ払いがクダをまいているみたい、
くだらぬことをくりかえして、読んでいると、
ハラが立つという痛快な書評である。・・・」

はい。それについて、すこし続けたあとに、
こうありました。

「記憶のいいひとは、年をとると、
頭がいっぱいになって、はたらかなくなる。
すくなくとも新しいことを考える力を失ってしまう。
頭のいい学者は40歳ぐらいで学者バカになることが多いのは、
忘却力が弱いからである。

あまり勉強しないで、しかも、どんどん忘れて頭の掃除をすれば、
40や50で半ボケになったりする心配はない。年をとるにつれて、
もの忘れが多くなるのは、自然が頭の老化を防いでくれている
ようなものだと考えると、人生はいつも新鮮である。」

はい。まったく勉強をしなかった私などは
『あまり勉強しないで』などと語られると、
これをきっかけにして、つい笑いだします。
まだ、つづきますので引用をつづけます。

「忘れっぽい人間は、若いときには、
まわりからバカにされるが、年をとると、
地力を発揮しはじめる。若いときには、
よけいな知識がじゃまして見えなかったことが、
見えてくる。新しい知識なんかいらない。

自分の頭で考えを生みだしたい。
ひとのこしらえたものを借りたり盗んで、
わがもの顔をするのは知的欺瞞ではないか、
とふそぶくことができる。」


はい。そうだそうだと『うそぶく』私がおります。
えい。最後まで引用しちゃいましょう。

「ひとのまねをするのは、記憶がよすぎるのである。
忘れっぽければ、まねるものがないから安心である。
労せずして、オリジナルになれる。

そう考えるのが忘却型人間である。
忘却型人間の強味は、年も忘れることである。

何歳になっても、青年のように溌剌としていることができる。
ひょっとすると、年も忘れ、死ぬことも忘れかねない。」
(p153~156)

うん。寄席など入ることはない私ですが。
ついつい笑って、この箇所を読んだことも忘れてしまう私がいて、
きっとまた、新鮮な気分で読み直すだろうなあと思う読後感あり。


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