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この映画。ことさら「古き」ではない作品ですが、個人的には「よき」になるので。
若い頃、「立山」に登ったことがあります。向こうに見えた「剣岳」。峻厳な山容とその神秘的な奥深さに、登山の厳しさとすばらしさを実感しました。遠く展望しただけでも・・・。
北アルプス・南アルプス。縦走や単独で穂高とか槍とか3,000メートル級の山々を登りました(夏山ですが)が、剣岳は槍ヶ岳と同様、ちょっと別格な印象でした。登ってみたくても今となっては叶わぬ、かもしれません。
時折映し出される俯瞰した映像では、登ったことのある山や眺めたことのある山々が浮かび上がり、懐かしく観ました。自然描写は美しく、豊かな剣岳の四季を、とりわけ冬の山容のすばらしさをよく表現していて、感動しました。
今のように登山道が整備され、山小屋も、テント・サイトも豊かな条件での登山とは違って、それらが全くない状態の中、さらに測量のための機器をたくさん持って登る、という当時の、まさに命がけのチャレンジ。
ただ、CG処理などの加工をせずにその場の撮影フィルムを再構成した(もちろん山小屋や登山道などは消してはあるようですが)とのことで、かえって現在の山の風景、さほど切迫感が伴わない場面構成、という印象をところどころに感じました。
特に、劇場映画ではどうだったか知れませんが、最後の頂上アタックの場面がカットされているのは、至極残念でした。また、小島烏水たちの登山姿。穏やか天候の下での低地の山登りのような印象でしかありませんでした。当時の登山の服装・装備など、時代考証をしてのことだとは思いますが、それまでの高揚した気分をこわされる感じ(本当にあんな格好で)。
あらすじ:明治40年(1907年)、測量士・柴崎芳太郎は、陸軍参謀本部から呼び出され、「日本地図最後の空白地点、劔岳の頂点を目指せ」と命じられる。当時、ほとんどの山は陸地測量部によって初登頂されてきたが、未だに登頂されていないのは劔岳だけだった。
柴崎は案内人・宇治長次郎や助手の生田信らと山頂への登り口を探すことから始まる。同じ時期、創立間もない日本山岳会・小島烏水たちも剣岳の登頂を計画していて、双方の先陣争いとなる。
厳しいアタックのすえ、先に山頂に登り着いた柴崎たちは、すでに頂を極めた先人がいた痕跡を発見する。
出演者:浅野忠信(柴崎芳太郎)、香川照之(宇治長次郎・現地のガイド)、松田龍平(生田信・助手)、仲村トオル(小島烏水)、宮崎あおい(柴崎葉津よ)、夏八木勲(行者)、役所広司(古田盛作)
監督、脚本: 木村大作
原作:新田次郎
配役では、香川照之が出色の出来。構成的には「ラスト」が今一つ。
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