おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

「砂の器」(古きよき映画シリーズその6)

2012-11-26 21:36:53 | 素晴らしき映画
 TVでも何度かドラマ化された有名な松本清張作品。和賀英良の殺人動機。放映されたTVドラマでは、「ハンセン病」に関わるものではなく、大量殺人あるいはえん罪事件などで親子で土地を追われさまようという設定になっています。
 映画は、真っ向から「ハンセン病」を扱っています。松本清張の原作よりも最後の場面を劇的に描いています。
 幼少年期から背負ってきた辛く悲しい自らの生き様を乗り越えようとする思いを表現したかのようなピアノ協奏曲「宿命」を作曲し、初演する晴れやかなコンサート会場シーン。その楽曲に重なるように、捜査会議(事件の犯人を和賀と断定し、逮捕状を請求するため)のシーン、和賀の脳裏に浮かぶ、業病の故に故郷を追われ、行く先々でもむごい仕打ちを受け続けながらの父との流浪の旅。日本の四季を織り交ぜながらとりわけ冬の日本海の荒ぶシーンを背景に歩む二人の姿・・・。映像の妙味とともにその痛切な回想シーンが重なっていく、ラスト40分以上の構成は実に感動的です。終曲近く、刑事が逮捕状を携え、会場に姿を現す・・・。
 ピアノと管弦楽のための組曲・「宿命」は音楽監督の芥川也寸志の協力を得ながら、菅野光亮によって作曲されました。圧巻なラストシーンでした。
 この映画において、ハンセン病の元患者である本浦千代吉と息子の秀夫(和賀英良)が放浪するシーンやハンセン氏病の父親の存在を隠蔽するために殺人を犯すという設定(殺人事件の発端)について、「全国ハンセン氏病患者協議会」(のち「全国ハンセン病療養所入所者協議会」)は、ハンセン病差別を助長する他、“ハンセン氏病患者は現在でも放浪生活を送らざるをえない惨めな存在”と世間に誤解されるとの懸念から、映画の計画段階で製作中止を要請しました。
 最終的には製作者側との話し合いによって『ハンセン氏病は、医学の進歩により特効薬もあり、現在では完全に回復し、社会復帰が続いている。それを拒むものは、まだ根強く残っている非科学的な偏見と差別のみであり、本浦千代吉のような患者はもうどこにもいない』という字幕を映画のラストに流すことを条件に、上映が決まった、とのことです。
 作曲家・演奏家として名声を獲得し始め、さらには有力政治家の娘との結婚間近。そんなとき、暗い過去を知っている人間が目の前に登場する。世話になった大恩人だったその人。過去を抹殺するために犯してしまう殺人。しかし、結局のところ自らの宿命からは逃れることはできない痛切な(悔恨の)思いがひしひしと伝わってきます。
 恩人だった人間を殺める罪を犯す。殺される存在はもとより、我が子を否定する父親の存在(原作とは異なりますが)。そうせざるをえなかった背景にある、根強く残るハンセン病への無理解・偏見・差別(隔離政策による肉親や地域との分断・・・)などの長年の間に許容されてきた社会の「闇」。たんなる謎解き・犯人を追い詰める推理ドラマというよりも、人間ドラマとして見応えがありました。
 もちろん、上映当時の時代背景(現在のような「ハンセン病」に対する大々的な政策転換ができていなかった)を抜きにしてはいけないと思います。その意味で、DVDでも流れる、ラストのテロップは忘れてはならない重要な内容です。

 
和賀 英良:加藤剛
高木 理恵子:島田陽子
本浦 千代吉:加藤嘉
三木 謙一:緒形拳
三木 彰吉:松山省二
田所 佐知子:山口果林
警視庁捜査一課長:内藤武敏
黒崎警視庁捜査一課捜査三係長:稲葉義男
村の巡査:浜村純
毎朝新聞記者・松崎:穂積隆信
国立国語研究所員・桑原:信欣三
伊勢の旅館「扇屋」女中:春川ますみ
桐原 小十郎:笠智衆
通天閣前の商店街の飲食店組合長:殿山泰司
吉村 弘:森田健作
伊勢の映画館「ひかり座」支配人:渥美清(友情出演)
田所 重喜:佐分利信(特別出演)
今西 栄太郎:丹波哲郎
 今思えば、そうそうたる俳優が出ていました。

監督:野村芳太郎
脚本:橋本忍
   山田洋次
 監督も脚本も・・・。
コメント
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