「田浦」ってどこだか知らなかったわ。熱海の方かしらなんて。熱海なら温泉だから、このところ、あなたがえらくご執心な温泉に性懲りもなく、と思ったけど・・・。
「品川」集合というのがよくわからなかった。どこに連れて行かれるか分からない。まったく予備知識のないままに、ってね。
「横須賀線」か、久々だわ、この線に乗るの。
あなたにそれほどしゃれた計画なんて立てられるわけないしね。どうせなんか魂胆があるんじゃないの、ろくでもない・・・。
この年になって「花粉症」になったのかしら。何だか鼻水が出てきて、・・・。
こんな毛に覆われたものなんか着てきたら、花粉を一手に引き受けるようなものじゃないかって、もっとすべすべしたものを着てこなくっちゃって。余計なお世話よ、ハハ、ハックション!
脱ごうかしら暖かくなってきたし、あら! これも毛糸仕立て。
でも、いい天気に恵まれて良かったわ、明日は荒れ模様になるそうだし、・・・。
「鎌倉」の先なのか、けっこう遠いのね。「逗子」で乗り換えて二つ目。あら、同じくらいの人たちが降りるわね。みんな、梅を見に行くのかしらね。
てな愚にも付かない会話をしているうちに、「田浦」駅に着いた、とさ。
この人たちに付いていけばいいのね。ああ、いいお天気だこと! でも、お店一つないわね、この通り。せめて飲み物くらい、って持ってきておいてよかったわ。
まさか、こんなところに、梅林があるなんて思いもしなかった。
横須賀には父親が縁があったみたい。海軍の経理課なんかで勤めていた、って聞いたことがある。そう、上海にもいたって。あんまり話は聞いたことはなかったけれど。戦争の話はしたがらなかったし。・・・何か不思議なご縁かも。って、別に私たちのことじゃないわよ、誤解しないで。
さてもうじきね。エッ、あの階段を上るの! けっこう急で長そうじゃない。トイレはお済ませですか、この先にトイレはありませんってさ、大丈夫? そんなことないよ、この時期は仮設でもなんでも必ず上にはトイレがあるって、そうね。
なかなか着かないじゃないの、まだまだ先なの。よっこいしょ、よっこいしょ。でも、あのご夫婦、けっこう大変そうじゃない、二人とも杖付いて青息吐息。これが今生の見納めって感じね、あらイヤだ、他人ごとじゃないわよね。
てんでに勝手なことを言いながらあえぎあえぎ上った、とさ。
ふうー、やっと着いた。あらすごい、梅が一面に。
ちょっとそこの四阿で休憩しましょうよ。お茶、飲む? そうそうバウムクーヘンがあるから食べましょう。いいお天気!
この先にも展望台とかあるんだって、そろそろ行ってみようか。この梅林、手入れがずいぶんと行き届いている感じ。梅の実も収穫しているんだ。そういえば、来る途中のお店にも宣伝してたわね。
梅って桜ほど華やかじゃないじゃない、写真に撮ってもあまりぱっとしないし、・・・。でも、枝振りがいいわよね。
そうね、最近の桜はみんな「ソメイヨシノ」、あれは1本、1本に個性というのを感じない。パッと見、あでやかで華やかだけど。河津桜もいいけれど、赤がちょっと濃すぎて好きになれないわ。
桜はなんと言っても「吉野山の千本桜」か、たしかに一目千本というくらい、すごいらしい。一度行ってみたいけれど、シーズン中はなかなか無理そうじゃない、混んでて。
まあ、芝生が広がって、海がきれいに見えてきたわ、青色がいい。ふーん、横浜から木更津まで一気に見渡せる。
と言いながら、その先の「展望台」に上がって行った、とさ。
さて、そろそろお腹もすいてこない? どうする? そう、鎌倉に出てからにしますか? 帰り道ものんびり、のんびり下っていきましょう。
風もそれほど強くなくて助かったわ。えっ、口元に何か付いてるって。ちょっと取ってよ。
甘いにおいがするって、それ、口に入れる人いないでしょ、口に。
何だ、さっきのバームクーヘンか。
ここの梅の木は何年なのかしら、木肌が白くなって・・・。古木の枝振りがやっぱり素敵だわ。人生も枯れれば枯れるほど、素敵にならなくちゃね。と思ってもそうはいかないのも人生だけど。
「老醜」って言葉があるけれど、いやな言葉よね、たしかに美しく老いるって難しい。
お肌の手入れだけじゃないわ、内面からにじみ出てくる何かって何かしら? 衰えたりといえども、華を失ってはだめだわね。
こうやって、また急な階段を下り、住宅街を歩いて、田浦駅に行かなきゃならないのか。
帰り道を間違えて、結局遅くなってしまった食事をとるために、横須賀線で「鎌倉」に向かった、とさ。
あれ、もうとっくに2時過ぎているわ。お腹ペコペコ。
ここでいいじゃない、ここで。お蕎麦屋さんに入って軽く飲みながらお蕎麦を食べれば、最高じゃない。
あれ、見て。飾り雛って言うんじゃない、二つ下がっているわよ。縮緬って縫いにくいのよね、こんな風に作るのって大変そう。でも、かわいらしい。
東北に行った時、新幹線のコンコースにいっぱいあった。どこの駅だったかしら。
こっちも素敵な版画じゃない、地元の方の作品なのか、へぇー。一人ひとりの表情がユニークで面白そう。
さて、これからどうする? 何だかんだで3時半近いけれど・・・。「江の電」に乗って海岸にでも行きますか?
こうして「江ノ電」に乗った、とさ。
「稲村ヶ崎」駅か。ここ、そういえば、前に来たことあったじゃない。何年か前の7月、みんなで。長谷寺で紫陽花見て、それからあそこのお店で食事して、そして江ノ島に行って・・・。覚えているでしょ。
ああ、富士山が向こうに見えているわ。霞んでいるけれど、あんな風に見えるんだ。あれが江ノ島でしょ。
えっ、日の入りを見たいって、夕陽を見るにはまだ時間がかかりそうよ、しょうがないなぁ。あそこに「レストラン」があるから、あそこに入りましょ。
あれ! ほら、隣に「稲村ヶ崎温泉」って看板があるわ。温泉、温泉ってうるさいんだから、ちょうどいいじゃない、せっかくだから入って来たら、ここで待っているから。
お茶しながら、またまた四方山話に花が咲いているうちに、いつしか夕暮れになった、とさ。
江ノ島の向こうに陽が落ちていく。風は冷たいけれど・・・。見る見るうちに山の端に沈んでいくね。感動的だわ!
自然っていいわね。清々しさが違うわ。こっちみたいに俗っぽくなくて。俗もまたよしだけれども・・・。
「鎌倉駅」改札口まできたとたん、
そうそう、鎌倉には素敵なホテルがあるわよ。泊まっていったら? ゆっくり飲んで食事でもして、・・・。
そうして、
今日は一日楽しかったわ、ありがとう、じゃあ、ねぇ! 「湘南新宿ライン」で帰るから、と手を振って帰っていった、とさ。
後ろも振り向かずに。
取り残された人間は、泊まることもせず、一人寂しく、「横須賀線」で品川まで戻ってきた、とさ。
※「写真」は2月19日(金)。「田浦梅の里」(JR横須賀線「田浦」駅下車)と「稲村ヶ崎公園」(江ノ電「稲村ヶ崎」駅下車)で撮影したものです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます