相変わらず川上弘美さんにはまっています。
今回は、いったいこの題名は? 何となく卑猥な印象を与えて(勝手にそう思っただけですが)、「魅惑」的な題名です。ついつい手にとってしまいそうな(って、そんな人いないか)・・・。
この作品は、ラテン語 「aqua」 水 「terra」 大地 「aer」 空 「ignis」 炎 「mundus」 世界 とそれぞれ章題が付せられた連作になっています。
「地・水・火・風・空」。これらは世界(森羅万象)を形作る構成要素とされます。ただ、この作品には、「ventus」 風 がないのは残念です。
総じて、「死」にまつわる話がちりばめられています。あっけないほどの死。・・・えっ、そんなことないでしょ!
性への好奇心、初潮を迎える、あるいは異性に対する、あるいは同性への、少女の複雑な思い。結婚、出産・育児・・・、そうした人生の一コマ一コマを描くことは、死への行路を描くことでもある、そんな思いを語っているような気がします。いよいよ「橋本治」的心境になってきたか。
・・・のようにさまざまな読みを与えてくれます。いつでも、この方はナイーブで少女のような純粋さで事にぶつかっているかもしれません。もちろん、そのような「風」を作品上で装っているのでしょうが。
でも、この方、どちらかというと、題名の付け方が面白い。初期の頃の「蛇を踏む」なんてよかったが、「センセイの鞄」とかなどストレートすぎているものと今回のように「ふわっ」としたような題名と混在していて、そこが彼女の書き手としてのスタンスでしょう。
つい、笙野頼子さんのように猫とか母に特化してインパクトのある題名に比べるてしまいます。彼女は初期の頃からインパクトのある題名でしたが、最近はますます・・・。
また、当代売れっ子の、毎回、今年こそノーベル賞かと騒がれる村上春樹さんの題名に比べると、川上さんのはおとなしくて、けっして書店での売れ筋にはなりにくい感じ。
むろん、映画化されるとかTVドラマ化されると原作も売れるのかもしれませんが。でも、TVドラマは残念ながら脚本家の質も今いちさえないので、ひところの切れがない印象。見ることもありません。
話を戻して。
一昔前は、五木寛之さんがしゃれた題名を付けていました。当時、野坂昭如さんも売れていたが、五木さんの題名から比べると、かなり品がない。本屋さんで買うのもちょっと。それでも、どちらも読みました。青年時代の濫読を思い出します。
そこで今回。内容はしばらく置いて、題名編。
《村上春樹》
「風の歌を聴け」
「羊をめぐる冒険」
「ノルウェイの森」
「ねじまき鳥クロニクル」
「海辺のカフカ」
「1Q84」
「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」
「パン屋襲撃」
「タクシーに乗った吸血鬼」
「チーズ・ケーキのような形をした僕の貧乏」
「めくらやなぎと眠る女」
「BMWの窓ガラスの形をした純粋な意味での消耗についての考察」
「ねじまき鳥と火曜日の女たち」
「飛行機―あるいは彼はいかにして詩を読むようにひとりごとを言ったか 」
「レキシントンの幽霊」
「神の子どもたちはみな踊る」
「東京奇譚集」・・・
長編、短編を問わず、読みたいと思わせるような・・・、さすがです。
が、この方の場合、出版する前からの売りが巧みすぎて、そこが鼻持ちならないので、感情的に好きではない。熱狂的な「ハルキニスト」には怒られますが。「風の歌を聴け」とか「レキシントンの幽霊」くらいかな、せいぜい。
「ノルウェイの森」なんかは上下二巻なので、「『ノルウェイの森下』さん」と芝居の台詞で茶化したくらいですから。
《五木寛之》
「さらばモスクワ愚連隊」
「蒼ざめた馬を見よ」
「海を見ていたジョニー」
「青年は荒野をめざす」
「恋歌」
「ソフィアの秋」
「朱鷺の墓」
「デラシネの旗」
「涙の河をふり返れ」
「狼のブルース」
「こがね虫たちの夜」
「青春の門」
「わが憎しみのイカロス」
「鳩を撃つ」
「箱舟の去ったあと」
「戒厳令の夜」
「四季・布由子」
「夜明けのタンゴ」・・・
初期の頃から青年受けするような(わくわくさせるような)題名が売れ筋になりました。「さらば・・・」とか「蒼ざめた・・・」なんかは、中身は何だろうと手に取りたくなる雰囲気。「青春の門」はそのものずばりで、続編に次ぐ続編を読んだ(ついつい読まされた)ものです。
ほぼ同じ頃、多彩に活躍していた野坂昭如さん。今はリハビリの最中だそうですが。毎年8月になると、「火垂るの墓」が登場しますが、彼の題名は以下のようなものが主。五木さんに比べると、・・・。
「エロ事師たち」
「アメリカひじき・火垂るの墓」
「軍歌・猥歌」
「真夜中のマリア」
「骨餓身峠死人葛」
「水虫魂」
「インポテンツ」
「てろてろ」
「死屍河原水子草」
「エロトピア」
「俺はNOSAKAだ」
「砂絵呪縛後日怪談」
「卍ともえ」
「マリリン・モンロー・ノー・リターン」
「錬姦作法」
「本朝淫学事始」
「戦争童話集」・・・
でも、ほとんど読んでいます。何冊か初版が本棚のどこかにあるはずですが。
《川上弘美》
この方は、センスが光り、発想が豊かなので「若い」と思っていましたが、そろそろ60代にさしかかりそうなお年(かな? )。教員、結婚、出産、離婚、再婚(これは定かではないですが)と、そうした中で育んできた感性がますます磨かれています。題名にも優しさが。
「蛇を踏む」
「神様」
「センセイの鞄」
「光ってみえるもの、あれは」
「ニシノユキヒコの恋と冒険」
「古道具 中野商店」
「夜の公園」
「ざらざら」
「ハヅキさんのこと」
「真鶴」
「どこから行っても遠い町」
「これでよろしくて?」
「パスタマシーンの幽霊」
「天頂より少し下って」
「神様 2011」
「猫を拾いに」
「水声」・・・
(句集「機嫌のいい犬」)
「光ってみえるもの、あれは」「ざらざら」「どこから行っても遠い町」「これでよろしくて?」「天頂より少し下って」などは、気に入った題名です。
それに比べて、
《笙野頼子》
「なにもしてない」
「居場所もなかった」
「背中の穴」
「硝子生命論」
「レストレス・ドリーム」
「二百回忌」
「タイムスリップ・コンビナート」
「増殖商店街」
「母の発達」
「パラダイス・フラッツ」
「説教師カニバットと百人の危ない美女」
「てんたまおや知らズどっぺるげんげる」
「渋谷色浅川」
「愛別外猫雑記」
「幽界森娘異聞」
「水晶内制度」
「片付けない作家と西の天狗」
「絶叫師タコグルメと百人の「普通」の男」
「だいにっほん、おんたこめいわく史」
「一、二、三、死、今日を生きよう! 成田参拝」
「だいにっほん、ろんちくおげれつ記」
「萌神分魂譜」
「だいにっほん、ろりりべしんでけ録」
「おはよう、水晶――おやすみ、水晶」
「海底八幡宮」
「人の道御三神といろはにブロガーズ」
「猫ダンジョン荒神」
「母の発達、永遠に/猫トイレット荒神」
「母のぴぴぷぺぽぽ 『母の発達』半濁音編」
「未闘病記――膠原病、『混合性結合組織病』の」
「猫キャンパス荒神」・・・
このはったりの、かましの、すごさ。圧倒されます。これらをほとんど読んだ、というのもすごいでしょ!
中でも、強烈なのは、
「説教師カニバットと百人の危ない美女」「てんたまおや知らズどっぺるげんげる」「絶叫師タコグルメと百人の『普通』の男」「だいにっほん、おんたこめいわく史」「だいにっほん、ろんちくおげれつ記」「だいにっほん、ろりりべしんでけ録」「人の道御三神といろはにブロガーズ」「母の発達、永遠に/猫トイレット荒神」など。
(注:思い出すままに題名をと思いましたが、間違ってもいけないので、「Wikipedia」を参考にしました。それでも間違っているのも。)
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