書店で文庫本新刊の棚を見ていたら、カバーの絵と書店員の推薦の言葉が気になったので、須賀しのぶ著「革命前夜」(文春文庫)を購入して読んでみました。
著者の須賀しのぶさん(1972年生)は、埼玉県出身で上智大学文学部史学科卒業。1994年『惑星童話』で上期コバルト・ノベル大賞読者大賞を受賞しデビュー。2010年『神の棘』で第13回大藪春彦賞候補。2016年『革命前夜』で第18回大藪春彦賞受賞、2017年『また、桜の国で』で第156回直木賞候補、高校野球を素材とした『夏の祈り』など幅広い題材を扱う作家です。
(あらすじ)
バブル期の日本を離れ、東ドイツに音楽留学したピアニストの眞山。個性溢れる才能たちの中、自分の音を求めてあがく眞山は、ある時、教会で啓示のようなバッハに出会う。演奏者は美貌のオルガン奏者。彼女は国家保安省の監視対象だった…。ベルリンの壁崩壊前の東ドイツの監視体制と抵抗運動を背景に、友情、恋愛、西側への脱出、報復といった物語が展開します。
(感 想)
なかなか面白い歴史エンターテイメントで短時間で読了しました。最も印象に残ったのは、ベルリンの壁崩壊前の東ドイツにおける密告社会の姿で、監視、密告と人間不信が描かれています。主人公の目を通して描かれたドレスデンの街の荒廃ぶりにも驚きました。
ピアニストの眞山は、留学生にもかかわらず、出会ったオルガン奏者や父親の友人一家とのかかわりなどを通じて抵抗運動に加担していきますが、切羽詰まった状況にありえるかもしれないと説得力が感じられ、このへんがうまく作ってありました。
音楽も重要な役割を果たしていますが、著者は音楽を言葉でうまく表現しています。例えば、主人公の学内演奏会の場面で『不安が滲む、謎めいた短い序奏から、ショパンのスケルツォ第三番は始まる。調性も謎、三拍子なのに四連符で始まるという序奏は、ショパンしかやらないだろう。あたりを窺うような序奏から一転、両手の力強いオクターヴが連続する。』などと記し、本当に感心しました。
終盤、物語のテンポが早くなり、やや筋がごちゃごちゃした嫌いはありましたが、久しぶりに他の作品も読んでみたいと思わせてくれる小説でした。
(同系統の他の作品)
そうしたら、須賀さん本人が3月17日のツイッターで、次のように発信していました。
もし『革命前夜』読了後、こういう系列のもう少し読んでみたいなーと思われましたら、ポーランドで日本大使館の外務書記官が命懸けで青春している『また、桜の国で』(祥伝社文庫)と、ドイツでSSと教会側に別れた元親友同士が命懸けで殴り愛する『神の棘Ⅰ・Ⅱ』(新潮文庫)をぜひ。
小説に出てくる音楽を聴いてみました。ショパンのスケルツォ第3番を、ルービンシュタインの演奏で。
バッハの平均律クラヴィーア曲集から第4番を、フリードリッヒ・グルダの演奏で。
フランクのヴァイオリン・ソナタをピエール・アモワイヤル(vn)とパスカル・ロジェ(p)の演奏で。