Don't Kill the Earth

地球環境を愛する平凡な一市民が、つれづれなるままに環境問題や日常生活のあれやこれやを綴ったブログです

ファム・ファタル2題

2022年10月31日 06時30分57秒 | Weblog
 さて、本日は、13時から渋谷でK‐Ballet Company の「クレオパトラ」、17時から上野でヒューストン・バレエ団の「白鳥の湖」というダブルヘッダーである。

Tetsuya Kumakawa K-BALLET COMPANY Autumn Tour 2022 『クレオパトラ』
 「シーザーがローマの最高権力者となり、彼との間に子をもうけたクレオパトラは、我が子がやがてローマを治める野望をも抱き、まさに絶頂期を迎える。だが、幸せは長くは続かなかった。腹心ブルータスらによるシーザーの暗殺、シーザー亡き後のローマで実権を握ることとなったアントニウスとの恋、我こそはシーザーの正統後継者であると主張するオクタヴィアヌスとの決戦……。
そして激動の人生を生き抜いたクレオパトラに、最期の時が訪れる――。


 つい先日ジュリオ・チェーザレを観たばかりで、しかも、第1幕はシーザーが事実上の主役ということもあって、序盤からやや混乱に陥る。
 オペラでは、トロメーオ(クレオパトラの弟)を殺害したのはポンペイウスの息子のセストである(したがって仇討ちである)が、バレエでは、どういうわけかクレオパトラが毒盃を飲ませて殺すという展開。
 オペラはここで終わるのだが、バレエでは、その後、シーザーとクレオパトラが子供(カエサリオン)をもうけるところも出て来る。
 そして、第2幕の冒頭では、シーザーが意外にもあっさりと殺される(ということは、熊川ディレクターは殺されるディクタトル(独裁官)役なのだ)。
 オペラの主役が死んだ瞬間、私は大きな喪失感にとらわれる。
 だが待てよ、バレエの主役はシーザーではなく、クレオパトラなのである。
 ラストでは、クレオパトラに関わって死んだ男たちが亡霊の姿となって一堂に会する場面があらわれるが、これは、彼女が”ファム・ファタル”であったことを示しているかのようだ。

ヒューストン・バレエ 「白鳥の湖」
 「プロローグで乙女の姿をしているオデット姫が白鳥に変えられてしまう場面がある『白鳥の湖』はブルメイステル版などがありますが、この版では、昼間は白鳥の姿、夜は乙女の姿に戻るという設定です。この乙女の姿のオデットがいくつかの重要な場面で登場して、物語を引っ張っていきます。王子が一目惚れするのは、儚げな乙女の姿をしているオデット姫で、その姫がロットバルトの魔力で白鳥に姿を変えられ王子の前に登場する場面が鮮烈です。さらにオディールの方も、登場の場面では黒鳥でなく、エレガントな魔性の女として現れます。 主演のバレリーナは、いわば4つの役を演じ分けることになり、その演じ分けの巧みさも見どころの一つです。
 ロングドレスに長い髪を垂らしたファム・ファタル的なオデット姫の姿は、英国のラファエル前派の画家、ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの幻想的な名画「シャロットの女」にインスピレーションを得ています。裏切られたオデットが、許しを乞う王子と踊る深い悲しみのパ・ド・ドゥは、『白鳥の湖』とは思えないような濃密なものです。


 ヒューストン・バレエ団の初来日公演が上野で開催される日に、渋谷でクレオパトラ役を演じる飯島 望未さんは、何と去年までヒューストン・バレエ団でプリンシパルとして活躍していた人なのだった。
 これは奇遇というべきだろう。
 さて、スタントン・ウェルチ版「白鳥の湖」では、オデット/オディールは、白鳥の姿だけでなく、人間としても登場する。
 ロングドレスに長い髪を垂らしたオデット姫は、この世の者ではないかのようだ。
 ラストの展開(ピーター・ライト版と同じ)からも、彼女が”ファム・ファタル”であるという指摘は正鵠を射ている。
 加治屋さんをはじめダンサーたちのパフォーマンスはもちろん素晴らしいが、それにしても、舞台と衣装のなんと豪華なこと!
 もしかすると、トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団の数千倍の予算が投入されているかもしれない。
 「白鳥の湖」は音楽だけで5000円くらいの価値があると思うが(ご参考までに:シチェドリン/カルメン組曲〈シチェドリン生誕90年〉チャイコフスキー/『白鳥の湖』より(プレトニョフによる特別編集))、この舞台・衣装には、1万円くらいの価値がありそうである。
  
コメント
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