(4)大詰
① 川連法眼館の場
② 川連法眼館奥庭の場
大詰は「川連館」で、メインは佐藤忠信(こと源九郎)となる。
「この場面で中心となるのは、佐藤忠信という義経の家来です。兄・頼朝との不和によって流浪の身となった義経がかくまわれている吉野へ、忠信が2人現れるという不思議をきっかけに物語は始まります。当然ながら、2人のうち1人は偽者の忠信ということになりますが、ここで大きなポイントとなるのは、「初音」と名がつけられた鼓つづみという楽器です。以前から、この鼓を打つと、どこからともなく忠信が現れ、鼓の音色に聞き惚れているのでした。この忠信の行動を奇妙に思っていた義経の恋人・静御前が、その正体を確かめようと再び鼓を打ち始めると……
この鼓は、千年を超える年を経た狐の夫婦の皮を使って作られたもので、鼓を打つと現れる忠信は、実はその夫婦狐の子である源九郎狐が変身(変化)した姿だったのです。鼓となってしまった親狐を慕い、そのそばにいたい一心で、鼓を持つ静御前を守っていたと語りだす源九郎狐。親を思う心に打たれた義経は、その鼓を源九郎狐に与えます。喜ぶ源九郎狐は、義経を追う敵方の僧兵たちを妖術で退治し、物語は大団円を迎えます。」
イエ(清和源氏)とイエ(桓武平氏)の間で憎み合いと殺し合いに明け暮れる人間たちをしり目に、ひたすら父と母を慕うキツネが登場する。
これが佐藤忠信に化けていた「源九郎狐」で、彼は、両親の皮を使って作られた「初音の鼓」の音を慕ってやって来たのである。
ここで当時の観客は、強烈な既視感を覚えたはず。
というのも、親子の情愛深いことで知られる狐を文楽の世界に導入したのは、おそらく元祖竹田出雲ではないかと思われるところ(「周辺」からの逆襲(6))、その子であり「義経千本桜」の作者の一人である二代目竹田出雲は、「芦屋道満大内鑑」の着想を取り入れた(パクった?)からである。
だが、いかにも木に竹を接いだような印象は否めないし、
「桓武天皇の御代、朝廷で雨乞いの儀式が行われた際、大和の国に棲んでいた千年の劫を経た夫婦の狐が狩り出され、その生皮を用いて作られたのが初音の鼓であり、・・・」(筋書p18)
という設定は、「葛の葉」のような爽やかさとはおよそ対極にあり、グロテスクというほかない。
というわけで、大詰では、桓武天皇(平氏のご先祖)のために、人間たちではなく2匹のキツネが犠牲になったことから、ポトラッチ・ポイントは、10.0:★★★★★★★★★★。
以上を総合すると、「星合世十三團」のポトラッチ・ポイントは、合計で37.0:★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★。