② 伏見稲荷鳥居前の場
いわゆる「鳥居前」で、静御前が主役である。
義経は、正妻:卿の君の存在がありながら、愛人=静御前を囲っていたのである。
「私もついて行く!」と義経との同行を願い出る静御前を、義経の家来:駿河と片岡は鼓の調べ緒で梅の木に括りつけ、放置して鳥居に戻って行く。
後先考えない放置プレーである。
そこに敵方が現れ、静御前を拉致しようとするが、これは当然予測出来た展開。
これまた予測通り、そこに突然佐藤忠信(團十郎)が現れ、静御前を救うと、タイミングよく登場した義経は、忠信に「源九郎義経」という「姓名」と着用の着長(きせなが)を褒美として与える。
このあたりに来ると、既に出て来た「初音の鼓」と、この段で出て来る「源九郎」という2つの贈与対象物が、この物語の鍵を握っていることがうすうす分かる。
注目すべきは、「イエ」制度の中核的構成要素である「名」が、何と贈与の対象とされていることである。
どうやら、共通のゲノムを承継していない者であっても、「イエ」の構成員になることが出来るということのようだ。
もしそうだとすれば、それまでの「ゲノム中心主義」からの変容が生じていることが推測出来そうである。
③ 渡海屋の場
今度は平家のメンバーが登場。
船問屋「渡海屋」に主人:渡海屋銀平は知盛が町民に身をやつしたものだが、ここに義経主従が逗留している。
義経らを匿ったのは、何と銀平こと知盛である。
ここで観客は、
「何でさっさと義経たちを殺しちゃわないんだ?千載一遇のチャンスだろ?」
と思うはずだが、知盛らの真のターゲットは頼朝であり、義経は、頼朝の所在を掴むため、「泳がされていた」ようだ。
「渡海屋」を後にした義経らを、知盛らは怨霊に見せかけるため白装束姿で追っていく。
このあたりも、現在の観客には分かりにくいだろう。
④ 渡海屋奥座敷の場
銀平の子:お安は実は安徳帝、銀平の妻を装っていたのは安徳帝の乳母の典侍の局だった。
そこを入江丹蔵(團十郎)が訪れ、知盛の計略は義経に察知されており、味方は敗北したと告げ、追手の武士を道連れにして海へと身を投げる。
おそらく、この演目の登場人物中、登場してから死ぬまでの時間が一番短いのは彼だろう。
主君を守るため丹蔵が犠牲になったため、ここでポトラッチ・ポイント5.0:★★★★★を計上。
典侍の局も安徳帝を抱いて入水しようとするが、弁慶らに捕らえられる。
⑤ 大物浦の場
満身創痍の知盛の前に、安徳帝らを伴った義経が登場。
知盛は義経に討ちかかろうとするが、安徳帝は、
「長々の介抱はそちが情け、今また我を助けしは、義経が情け。仇に思うな、これ知盛」
と諭し、何と義経側についてしまう。
これを聞いた知盛は、
「恨み晴らさず。昨日の敵は、今日の味方」
と述べて義経らに安徳帝の守護を頼み(!)、身体に碇綱を巻き付けて、壮絶な最期を遂げるところで序幕が終わる。
安徳帝のため必死で戦ってきた知盛の努力は、安徳帝が義経に籠絡されたことにより、水泡に帰したかのようだ。
まるで、社長交代で経営方針が180度変わってしまい、それまでの努力が無駄になってしまったカイシャの営業マンを見ているようだ。
ここで、安徳帝を守るため知盛が命を捧げたことにより、ポトラッチ・ポイント5.0:★★★★★を計上。