「七月大歌舞伎の夜の部は『裏表太閤記』が初演から43年ぶりに上演されている。豊臣秀吉、鈴木喜多頭重成、そして天界の孫悟空の3役を演じる松本幸四郎さんは、早替りあり、宙乗りありの大活躍。歌舞伎の魅力がたっぷり詰まった本作の見どころを語っていただいた。撮り下ろしの舞台写真とともにお届けする(中略)
序幕は明智光秀の父親で極悪人の松永弾正が織田信長軍に包囲され、息子に御家再興を託して、自らが放った火で最期を遂げるところから始まる。復讐心を抱いている光秀は、信長から耐えがたい屈辱を受け、本能寺で信長を討つ。一方で信長の嫡子である織田信忠との間に三法師という男子を設けた光秀の妹・お通の物語が描かれている。」
夜の部は、43年ぶりの上演となる「裏表太閤記」。
役者の顔ぶれから分かるとおり、「松本・市川三世代」を中心に構成されているが、松永弾正役の市川中車(香川照之)も、足利家の白旗を奪って光秀に託すなどの重要な役割を演じる。
序幕で驚くのは、「松永弾正は明智光秀の父だった」という設定になっているところである。
(1)序幕
① 信貴山弾正館の場
「弾正は明智十兵衛光秀が我が子であると明かし、松永家は元々、源氏の嫡流であるため、平家の末流である信長の天下を覆し、三日なりとも威名を轟かせるように伝えてほしいと語る。そして但馬守に白旗を託すと、城に仕掛けた爆薬に火を放って覚悟の死を遂げる。」(筋書p32)
これで、「源氏vs.平氏」というイエ同士の争いが一つのテーマになっていることが分かる。
ちなみに、「白旗」は、足利氏というイエのシンボルである。
ここで、弾正が信長の死者を道連れに自爆死したことから、ポトラッチ・ポイント5.0:★★★★★を計上。
② 本能寺の場
奈河彰輔氏の脚本では、光秀は、勅使饗応役で粗相をしたことや秀吉に従軍するのを渋ったことが原因で、信長から恥辱(パワハラ)を加えられたことになっている。
これに対し、前述の弾正の遺言に従って光秀は信長を斬り、観念した信長は切腹するという筋書きである。
③ 愛宕山登り口の場
舞台転換の間、花道で短いやり取りが演じられるが、時間の使い方としては上手いやり方である。
ちなみに、私は花道すぐ右側の席にいたが、チャンバラも間近で見られるし、こっちの方が「とちり席」より良い。
④ 愛宕山山中の場
信長の嫡子:信忠が、妻:小野のお通とイチャついている。
お通は光秀の妹だが、政略結婚で織田家に嫁ぎ、跡継ぎの三法師をもうけている。
そこに光秀の家臣:軍平が現れ、烏天狗軍団で信忠らを急襲する。
光秀側としては、
「織田家のゲノムを絶やす」
ことが至上命題なので、信忠はもちろん、赤ん坊の三法師も殺害のターゲットとなっている。
そこに森蘭丸が駆けつけ、本能寺の件を伝えると、罪悪感からお通は自害しようとする。
信忠はこれを押しとどめ、跡目である三法師を伴って秀吉のもとへ赴くよう諭すと、自分は軍平を道連れにして討死する。
ここでは、信忠が織田家のゲノム=三法師を守るために犠牲となったことから、ポトラッチ・ポイント5.0:★★★★★を計上。