Don't Kill the Earth

地球環境を愛する平凡な一市民が、つれづれなるままに環境問題や日常生活のあれやこれやを綴ったブログです

権威から fabulous へ

2024年07月16日 06時30分00秒 | Weblog

 「シカゴ」(ポリコレ視点でみる「シカゴ」)もそうだったが、私は「天使にラブソングを」の映画もミュージカルもみたことがないので、今回は先入観なく楽しむことにした。
 まず、「天使にラブソングを」という邦訳が不適切であると感じる。
 原題は ”Sister Act” であるが、”Act” には名詞と動詞の二重の意味が込められている。
 すなわち、「シスター(修道女)のアクト(芝居)」という意味と、「シスター(修道女)をアクトする(演じる)」という意味である。
 これではさすがに翻訳不能なので、「天使にラブソングを」としたのだろうが、これだと原題の意味から大きく外れてしまっている。
 次に、設定が実にアメリカ的であることを痛感する。
 アメリカで暮らしたことがある人なら分かると思うが、アメリカ社会において、(もちろん例外も多いけれど、)カトリック教徒は「厳格で、ちょっと冗談が通じない堅物」、カトリック教会は「権威の象徴」のようにみられることが多い(と思う)。
 なので、マフィアの愛人でクラブ歌手であるデロリスが、こともあろうに修道院の聖歌隊の指導を担当するという設定は、ハナから「権威主義」への反抗という意味を帯びている(と思う)。
 そのことを示すのが、彼女が連発する”fabulous”という単語である。
 これは、主に女性が使う形容詞で、通常は「素敵」、「素晴らしい」などと訳されているが、おそらく日本語には翻訳不能であり、あえて訳すとすれば「サイコー!」くらいが近いだろう。
 「勝手にしやがれ!」が”dégueulasse”(最低!) という形容詞によって駆動されていたのと同様に(唯一の共同作品(1))、「天使にラブソングを」は"fabulous"(サイコー!)という形容詞によって駆動されており、しかもこの形容詞は、権威という壁をぶち壊す役割を担っているのである。
 さて、アメリカ社会においては、無分節的な集団(典型は軍隊)は例外的なものとされているが、修道院は数少ない例外の一つである。
 そのことを示すのが、後半に出てくるデロリスの以下のセリフである(記憶に基づいて再現しているので、不正確かもしれない)。

 「客も名声もいらない、シスターたちという仲間がいればいいの。

 デロリスは、見事に権威という壁をぶち壊した。
 カーティスがロドリスに銃口を向けると、他のシスターたちは次々と、
 
 「私を身代わりに!

と述べてその前に立ちはだかるが、このシーンはカルメル会修道女たちの殉教(カルメル会と四十七士、あるいは殉教と殉死)を彷彿とさせる。
 むむむ、「シスター・アクト」は「カルメル会修道女の対話」のコメディ版だったのか!?

コメント
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