ブラームス:ラプソディ ロ短調 op.79-1
リスト:超絶技巧練習曲集S.139から 第12番「雪あらし」
リスト:巡礼の年第1年「スイス」S.160から「オーベルマンの谷」
バルトーク:ラプソディ op.1 Sz.26
ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ第1番 ニ短調 op.28
ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ第1番 ニ短調 op.28
J.S.バッハ(ブラームス編):シャコンヌ BWV1004
<アンコール曲>
リスト:ワーグナー「イゾルデの愛の死」
リスト:シューベルト「宗教的歌曲」S.562から 連祷
「ピアノを猛獣に変身させる」ことにかけてはおそらく世界一と思われるピアニストの日本公演。
私は、2022年から毎年聴きに行っている(2022年:自演自賛(曲目は、Musik Travelers さんの「アレクサンドル・カントロフ ピアノリサイタル(2022年6月30日)東京オペラシティ」))、(2023年:サウスポー)。
彼は絶対に生演奏を聴かなければならない。
というのも、昨年「火の鳥」のフィナーレを聴いて魂が揺さぶられるほどの感動を覚えてCDを買って聴いたものの、生演奏の10分の1くらいしか感動を与えてくれなかったからである。
ところが、当日は「ウィリアム・テル」が主催者発表より15分ほどオーバーする進行であったこともあり、会場に着いたときは演奏開始から5分ほど経過していた。
サントリー・ホールは、開演中は、曲の終了後であっても原則として入場を認めず、例外的に2階席・階段までの入場を許可する運用のようである。
「雪あらし」終了後、私もそこに案内され、バルトークまでを立ったまま聴いた。
既に2曲目からピアノは「猛獣」と化していたので、これは非常に勿体ないことである。
後半は、ラフマニノフのソナタ1番と、昨年は前半で演奏された左手版の「シャコンヌ」。
ラフマニノフのソナタは、2番もそうだが、半分くらいが「ピーク」の連続で、ピアニストの消耗度は間違いなく高いはずである。
私も、これほどまでに激しい表現に対しては、ちょっと引いてしまうところがある。
芸術家の内面の暴力性を感じるのである。
この曲を、カントロフは、ペダルを踏み壊すのではないかと思われるほど強く踏み込みながら演奏した。
足が山下洋輔氏のひじと化したかのようだ。
演奏終了後、さぞや疲れていることだろうと思っていたら、彼は涼しい顔で「シャコンヌ」を弾き始め、鼻歌まで歌い出した。
そう、彼はもともと「鼻歌派」に属しているのである。
今回のリサイタルの曲目は、「シャコンヌ」以外は鼻歌向きでなかったので、このことに気付かなかっただけなのだ。
もっとも、今回は鼻歌も途切れがちなので、「鼻歌モデラート」という表現が合っていそうである。
いつもどおりの魂のこもった演奏で、終演後、彼はガックリと頭を垂れ、しばらく動かないままだった。
彼が立ち上がると、当然のことながら、私も思わずスタンディング・オベーションをしてしまう。
アンコールはワーグナーとシューベルトで、「イゾルデ愛の死」(暗譜が間に合わなかったようで、タブレットを持って登場)は意外にも抑制された演奏で、緩急の使い分けが上手い。
ラストの「連祷」は”浄福”という言葉がピッタリで、この曲で穏やかに締めくくってくれたのは有難いことであった。
さて、来年は1回だけでなく、2回以上聴きに行くこととしたい。