第二部の1本目は、「一谷嫩軍記」より、熊谷桜の段と熊谷陣屋の段である。
ちなみに、熊谷陣屋の段は、正月の新春浅草歌舞伎で上演されている(「周辺」からの逆襲(3))。
なので、ポトラッチ・ポイントは5.0で確定なのだが、それにしてもストーリーの酷いこと!
「熊谷桜の段」では、藤の局が相模に対し、露骨な échange を持ちかける。
藤の局「なんと相模。以前に御所で職場恋愛の不義が明らかになって、佐竹次郎とお前を牢に入れよとの帝が決定されたな。それを私がなだめて、夜のうちに逃がしてやったのを覚えているか。」
相模「も、もちろん。その時の御恩は、どうして忘れるはずがあるでしょうか。」
藤の局「では、その恩を忘れてないというなら、助太刀してお前の夫の熊谷を私に討たしてくれ。」
藤の局は、相模に対し、「過去の恩を忘れていないなら、助太刀して相模の夫=熊谷を殺させよ」と迫る。
相模は拒絶できる立場にないのだから、これは強要である。
この種の、「恩着せ」と「恩返し」に名を借りた”ゆすり、ゆすられる”関係が、武家の社会には蔓延していたのだろう。
そもそも、「一枝を伐らば、一指を剪るべし」という言葉自体が、レシプロシテ原理の露骨な表現なのだった。
案の定、「熊谷陣屋の段」では、義経までが、弥陀六から受けた「旧恩に報いる」ため、敦盛の首を忍ばせた鎧櫃を与えるのである。