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日常よく使われる英語表現を毎日紹介します。毎日日本時間の午前9時までに更新します。英文執筆・翻訳・構成・管理:上杉隼人

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毎日更新! GetUpEnglish Updates Every Day! Since April 1, 2006 (c) 2006-2025 Uesugi Hayato(上杉隼人)

DEFENDANT, COMPROMISE, PARTY

2020-05-05 08:29:28 | D

 英和翻訳の問題のひとつに、「自分の専門以外の内容が書かれたものに対応しなければならないこともある」ということがある。
 自分に専門らしきものがあるとは思えないが、しいて挙げれば、Star Wars, Avengers, Disney, アメリカ文学、アメリカ文化と社会事情あたりになるのかもしれないが、最近は宗教や美術や歴史や経済や政治関係をはじめ、いろんなものに挑戦させていただいている。ただ、美術の本であったはずだが、突然、うわあ、絵の描き方、絵具の使い方といった描写が出てきた、絵は下手だし、ちゃんと描いたことないからわかんないよ、え、英語以外の言語で書かれたこともたくさんあるじゃん、聞いてないよ、おいおい、これって法律関係の専門用語だよね、そっち方面でお世話になったことはありがたいことにまだあんまりないからわからないや、ということもあるだろう。近日刊行の本もまさにそうで、やってみないとというか、訳してみないとわからなかったということがたくさんあった。
 そういう場合はどうするか?
 ひとつには、自分の語学力で、書かれていることを正確に判断するということになる。これはどんな翻訳においても絶対に必要だ。これでほとんどの問題は解消できる
 そのうえで、こうした専門用語は日本語でどのように言うのが普通であるか突き止めるということになるだろう。これはインターネットのおかげでかなり作業が楽になったが、それでも対応できないは「その分野に通じた、信頼できる人に尋ねる」のがいいだろう。
 今日のGetUpEnglishはこの問題を実例で考えてみたい。

A year later, in December 2019, a judge in Monaco’s Court of Appeal threw out Rybolovlev’s case against Bouvier, on the ground that the Monaco authorities investigation of the freeport king had been “conducted in a biased and unfair way without the defendant being in a position to retrospectively redress these serious anomalies that permanently compromised the balance of rights of the parties” by which the court was referring to the close relations between Rybolovlev’s team and Monaco’s police and judiciary. And so it has come to pass that an art market scandal, which was originally about whether a collector had been defrauded by a dealer, has now snowballed into a question of whether an art collector corrupted an entire political system.

 ここで引っかかるのは、defendantcompromisepartiesかもしれない。
 defendantは「被告、被告人」(研究社『英米法律語辞典』)で間違いない。
 compromiseは、他動詞であれば、ふつうは「(ある行為によって)〈名声・信用などを〉危うくする (endanger)」(研究社『リーダーズ』)ということであるし、次のような使い方をする。
 
He compromised his honor as a judge by accepting bribes. (わいろを受け取り裁判官としての名誉を汚した)

 ここでもこれとほぼ同じ意味で使われているはずだし、研究社『英米法律語辞典』の「 <名声・信用などを>傷つける, 汚す; 危険にさらす」の意味で判断すればいいだろう。
 partiesは悩むところだが、ここでは「当事者, 相手方」(リーダーズ)ということになるだろう。
 これを考えれば、次のような訳になると思う。

 一年後の二〇一九年十二月、モナコ控訴裁判所はブーヴィエに対するリボロフレフの申立てを棄却した。理由として、モナコ当局によるブーヴィエの捜査は「不公平で偏ったものであり、被告側(ブーヴィエ側)不在のもとで行われたことで、訴訟当事者の権利の均衡を永続的に損なう異常な状況を最初から是正することができなかった」としている。法廷はこれをもって、リボロフレフとモナコ警察および司法組織との癒着も指摘した。そして最初はひとりの収集家がひとりの商人に搾取されていたかどうかという美術業界のスキャンダルが、今やひとりの美術収集家が政界の体制全体を腐敗させたどうかが問われる問題として雪だるま式に大きく膨れ上がった。

 “conducted in a biased and unfair way without the defendant being in a position to retrospectively redress these serious anomalies that permanently compromised the balance of rights of the parties”は「不公平で偏ったものであり、当事者の権利関係の均衡を永続的に損なう異常な状況を最初から是正する被告不在のもとで行われた」ということであるが、これだと一瞬目が泳ぐというか、わからないので、試訳くらいに処理してよいだろう。

 「不公平で偏ったものであり、被告側(ブーヴィエ側)不在のもとで行われたことで、訴訟当事者の権利の均衡を永続的に損なう異常な状況を最初から是正することができなかった」

といっても同じだし、日本語では自然だと思われる。
 このあたりのことをあたかも自分ですべて結論を出しているように書いているが、そうではなく、冒頭に書いたように、「その分野に通じた、信頼できる人に尋ねた」結果である。ありがたいことに、わたしのまわりには英語話者も日本人もこちらの疑問に答えてくれる人がたくさんいるし、みなさん例外なく実に親切に答えてくれる。
 ただ、英語話者の場合、ひとつ尋ねると、10の答えが返ってくることがあるので、心から感謝しつつも、情報を整理して判断する必要がある。スター・ウォーズやアベンジャーズのトリビア的なことを世界の友人たちにひとつ訊くと結構大変なことになる。
 

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