◆実戦的訓練が優先
本日(現地時間では昨日)、米最高裁は、カリフォルニア沖において米海軍が実施している低周波アクティヴソナーによる海洋生物への影響に対して、海軍の実戦的訓練が優先されるとして、環境団体の訓練中止要求を棄却したとのこと。
今朝のABCニュースによれば、さらに判事の傍論として、ジョージワシントンの言葉を引用、平和を求めるには戦争に備えることが何よりも重要、とした。他方で、海軍演習による環境への影響は無制限に認められているわけではない、ということも付け加えた。判決文などを取り寄せたわけではなく、連邦最高裁か州最高裁かも聞き取れなかったが(Supreme Courtっていうのは聞き取れた)、このように言っていた次第。
科学的事実に基づく要求であったとしても、たとえば、事実誤認の可能性が完全に否定できない場合などは、決して正しくはない知識に基づいて判断が下されることがある。例えば、環境問題ではオゾンレジームなどがこれにあたり、オゾン層破壊の時期と、オゾン層にフロンガスが到達する時期が重ならないにもかかわらず規範制定が進んでしまった事例があるが、科学的根拠が必ずしも明確ではないものに、劣化ウラン弾やこのLFASの問題が挙げられている。
今回の判決で、特に重視したいのは、ミクロとマクロの混同を行ってはいけない、ということだろう。海軍の実戦的な対潜戦闘演習により護られるものと、海洋生物を保護することで得られるものを冷静に判断したもので、例えば瑣末な問題を大きく取り上げることでキャンペーン化し、規範体系に結び付けようとする事案に対する政治の一つの答え、ともいえる。
安全保障の分野の中でも、特に軍事に関する分野は、欧米では、このように冷静に受け取られており、例えば、日本ではマスメディアが度々問題として挙げる、戦車や戦闘機の燃費の悪さや、装備品価格の高さへの批判は、欧米では、CO2排出量に占める割合(戦車の数と一般車の数)や、その特殊性を差し引いて判断、イデオロギー的な要素を排して判断している。
低周波アクティヴソナーの強力な水中放音は、特にクジラやイルカなどの海洋哺乳類の生育や生態系に大きな影響を及ぼし、近年、これら海洋哺乳類の集団座礁や生育数減少など異常行動との関連性が疑われているものの、それ以上に重要なものがある、という、判決のようだ。他方で、それこそ、判決文を取り寄せて読むべきなのかもしれないが、この判決では、低周波アクティヴソナーによる海洋生物への影響を一部認めたのか、と取ることもできるようにみえる。
HARUNA
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