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陸上自衛隊航空学校(明野駐屯地)創設52周年記念行事 (3)

2008-11-08 15:58:56 | 陸上自衛隊 駐屯地祭

◆明野航空祭2007 訓練展示

 明野航空祭(明野駐屯地祭)特集、三回特集の第三回目は、訓練展示の模様をお伝えしたい。明野はヘリコプター部隊の駐屯地、明野駐屯地祭が、明野航空祭と呼ばれる所以がよくわかる訓練展示の模様を写真にてお伝えしたい。

Img_9288  明野航空祭の訓練展示は、大きく分けて二つ。航空学校の敏腕教官らがヘリコプターの機動飛行を展示する明野レインボーの機動性を展示する妙技、そして航空学校や第5対戦車ヘリ隊、第10飛行隊と第10師団隷下部隊が実施する迫力ある空中機動戦闘の展示、いわゆる訓練展示模擬戦である。

Img_9101_1  明野レインボーの展示が開始された。OH-6D観測ヘリコプターとして単機による機動飛行を実施するAH-1S対戦車ヘリコプターとOH-1観測ヘリコプターの二段構えの展示である。AH-1SやOH-1の機動飛行はほかの駐屯地祭でもみることができるかもしれないが、OH-6D編隊による機動飛行は、航空学校ならではの展示だ。

Img_9117  OH-6Dは、OH-6Jを改良した観測ヘリコプターで、米ヒューズ社が設計、日本においてライセンス生産を行っている機体だ。任務は、特科火砲の射撃に対する着弾観測や索敵任務、また対戦車ヘリコプター隊の索敵支援や軽輸送、連絡任務などなど多種多様な任務に用いられる機体で、小型かつ軽快な運動性能が特徴。

Img_9140  展示飛行を終了して、観閲台正面に飛来する明野レインボー。ちなみに、明野レインボーは、駐屯地祭などで臨時に編成される部隊であるため、ブルーインパルスのような常設飛行隊ではない。ただ、常設部隊化し、陸上自衛隊の象徴として広報に活躍、というのもあっていいのでは、と思ったりもしてしまう。

Img_9164  いよいよ訓練展示模擬戦である。状況想定は、仮設敵が駐屯地の一角を占拠、陣地構築中。これに対して、第33普通科連隊と第10偵察隊がヘリボーンにより攻撃奪取する、という想定。旧迷彩を着た仮設敵のみなさんが、今年こそ負けるものか!と気合いを入れて車上から重機関銃を構えている。

Img_9201  訓練展示状況開始!、号令と共にヘリコプターが仮設敵に向かい突進する。航空学校のUH-60JA多用途ヘリコプターには、ドアガンとして12.7㍉重機関銃が取り付けられている、不安定な機上からの射撃は必ずしも命中精度は高くないものの、強力な重機関銃による火力拠点は、地上の仮設敵にとって大きな脅威だ。

Img_9177  滑走路上に複数のヘリコプターがエンジン音を響かせる。UH-60JAが機関銃により仮設敵を制圧する間に、第10飛行隊のUH-1J多用途ヘリコプターが前進。UH-1Jの任務は、航空偵察により発見した仮設敵の情報を詳細に確認するべく、第10偵察隊のオートバイ斥候を空中機動させることにある。

Img_9196  ヘリボーン展開した、第10偵察隊のオートバイ斥候は、素早く敵情を探るべく、その機動性を活かして前進する。どうしても、航空偵察では、特に秘匿され、動かない目標や陣地など、見落としがちな面もある。実際、1998年のNATO軍によるユーゴ空爆では、偽装秘匿された車両が中々発見できず、ユーゴ軍はあれだけ長期間爆撃されたにもかかわらず、戦車1個中隊程度の損害に収まったとのこと。ハイテク全盛といわれる今日においても、五感に頼った斥候という意義は大きい。

Img_9190  オートバイ斥候とともに、周辺に潜む仮設敵を掃討したUH-60JAから第33普通科連隊の隊員がロープ降下する。ヘリコプターは派手であるものの大きなエンジン音やローター音により接近は容易に探知され、加えて携帯対空火器を含め高射火器に対する脆弱性が高い。山間部や森林地帯では、ヘリボーンを実施できる地形は限られており、事前偵察を察知されたことで、ヘリボーン部隊が待ち伏せされ、大損害をこうむった事例は、ヴェトナム、アフガンに数え切れないほどある。降下地区の掃討や事前情報収集などは、実はヘリボーンにとり極めて重要な任務なのである。

Img_9165  敵機械化部隊発見!前進中!、斥候の偵察オートバイより情報が入り、急ぎ第5対戦車ヘリコプター隊のAH-1S対戦車ヘリコプターが展開する。20㍉機関砲、70㍉ロケット弾、対戦車ミサイルTOWなど様々な武装を施したこのヘリコプターの愛称はコブラ。低空を高速で忍び寄り痛烈な一撃を加える方面航空隊の切り札だ。

Img_9167  AH-1Sの攻撃により、仮設敵の車両部隊は撃破され、仮設敵による攻撃前進は失敗した。特に偽装秘匿された目標よりも、陣地を出て攻撃前進中の部隊は空中からも発見されやすく、先のイラク戦争では、陽動情報に乗ったイラク軍部隊が陣地を出て攻撃前進に移行、千両以上の車両が一気に殲滅されたカルバラ地峡攻防戦は記憶に新しい。

Img_9209  CH-47輸送ヘリコプターが機械化部隊を空中機動させる。仮設敵は、AH-1Sによる攻撃で攻撃前進を阻まれたということもあり、戦況は我に有利となった。この機を逃さず、わが部隊指揮官は、ヘリボーンによる空中機動を命令、可及的速やかに機械化部隊を仮設敵の正面に展開、反撃に移ることを決心した。

Img_9216  CH-47JAは機外に軽装甲気動車を吊下輸送。現在、約50機の輸送ヘリコプターを保有する陸上自衛隊は、そのうち32機を運用する第1ヘリコプター団を投入すれば人員だけであれば一個普通科連隊を同時に空中機動でき、車両だけでも、機械化された二個中隊を同時に空中機動することが可能だ。

Img_9226  軽装甲機動車を展開させると、続いて機内から第10偵察隊の73式小型トラックを展開させる、いわゆるパジェロ、機銃を搭載しており中々の火力だ。このほか、高機動車のような比較的大きい車両でもCH-47の機内に収容でき、また、緊急時にはFH-70榴弾砲も吊下輸送することが可能だ(砲弾と中砲牽引車は別に空輸する必要がある)。

Img_9234  部隊を展開させ、撤収するCH-47.明野駐屯地祭、つまり明野航空祭は、八尾駐屯地祭の模擬戦と比べ、八尾が面積の関係上、ヘリボーンと普通科部隊、という、どちらかというとヘリは普通科連隊を支援する機甲科特科、そして航空科、というイメージがあるが、明野は、文字通りヘリボーンとは何か?という問いに答える、ヘリコプター中心の模擬戦である。

Img_9233  CH-47より展開したパジェロは、機内では、車高が高くなるため取り外されていた機銃を素早く銃架に取り付け、車上では、油断なく仮設敵陣地に向けて89式小銃を構え警戒している。隊員は、ひとりひとり、88式鉄帽(ヘルメット)に暗視装置を取り付け、パジェロの車上には、少しでも防弾性を高めるべく土嚢が載せられている。

Img_9250  準備万端、前進開始。反撃に加わるパジェロを後方から、最新鋭のAH-64D戦闘ヘリコプターが支援する。虎の子AH-64Dを展開させ、第10偵察隊、第33普通科連隊合同の反撃を支援することで、一気に前進し、敵の遅滞行動を遮断、撤退出来ない状況に追い込むことでr戦況を我に有利とする狙いだ。

Img_9268  AH-64D戦闘ヘリコプターの飛行。機首に搭載された30㍉機関砲は、AH-1Sの機関砲も同様なのだが、射手の視線を感知して連動、目標を射撃する能力を有する。加えて、搭載するAGM-114発展型ヘルファイアーは、重量48kg、いかなる重装甲の戦車も屠ることができる大きな威力を有する。

Img_9244  AH-64Dの支援とともに、一斉に前進。各車両の機銃が連続発砲し、軽装甲機動車からも、ドア越しに普通科隊員が小銃を射撃している。上空からは、アパッチロングボウが睨みを利かせている。こうした空地一体となった反撃を前に、仮設敵は撤退もままならず、今年も降参、状況は終了となった。

Img_9279_1  模擬戦が終了すると、装備品展示となる。模擬戦は正午頃に終了するが、終了とともに、飛行展示や機動飛行などは行われない。これは観閲官や来賓の祝賀会食のためで、この点、航空自衛隊の航空祭のタイムスケジュールと異なる。小生ものんびりと装備品展示を見学。写真は格納庫内で行われたAH-1Sの武装展示。機関砲弾やロケット弾、ミサイルなどが並ぶ。

Img_9295  模擬戦に参加したAH-64Dが整備地区に撤収する。見学者が手を振って見送る。この日、予報は雨、朝はまだ小雨がぱらつくあいにくの天候であり、やや、式典、特に悪天候による飛行展示の縮小を憂慮したが、幸い天候は回復。曇りのち、昼ごろからは、幸い、写真のように晴れ間もさした。

Img_9204_1  回復し、青空が戻った明野の空。写真のAH-64Dは、装備を搭載した状態で地上に展示されていた。ヘルファイア対戦車ミサイル(模擬弾)のほか、スティンガー空対空ミサイル(多分模擬弾)も搭載された状態で、見学者の注目を一手に集めていた印象。このほか、警察、海上保安庁、自治体の防災ヘリなども展示。ちなみにこの五号機、なんと、式典の三日前に明野に配備されたばかりの機体だ。

Img_9291_1  式典終了後、CH-47輸送ヘリコプターによる地上滑走が行われていた。地上滑走の体験は、確か先着順だっただろうか、八尾では抽選であるが、大阪市内から近い八尾よりも三重県の伊勢神宮に近い明野は入場者がやや少なく(八尾15000名、明野10000名)、ゆったりとした行事である。他方で、見どころは満点だ。

Img_9252_1  地上滑走の体験を終えてヘリコプターから降りる人たち。CH-47の後方はすごい風だ。旅客機に乗る機会が多くとも、旅客航空路線にヘリは極端に少なく、チャーター費も高い日本では、ヘリコプターに乗る機会は極端に少ない日本、特に大型の輸送ヘリコプターに乗ることができる機会はさらに少ない。この日も地上滑走には、大勢の人が集まっていた。

Img_9286_1  地上展示では、一部のヘリコプターがコックピットを一般公開していた。こちらも大人気。このころには、陽の暖かさももどってきており、観覧に足を運んだ人たちは、思い思いの明野航空祭を楽しんでいたようだ。ちなみに、今年の明野航空祭は、明日、11月9日に行われる予定だ。

HARUNA

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コメント (3)
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