◆東北マグニチュード9.0
あの3月11日から本日で二カ月が経ちました。マグニチュード9.0、というのはSF作家でも避ける規模でして小松左京の日本沈没、あの東京地震の設定が8.5、SFの大御所でも9は避けたのです。
最初に謹んで犠牲になられた方の御冥福をお祈りします。死者14700名、行方不明者10800名、被害額は大まかに見積もって20~30兆、原発事故と計画停電を含む複合的な被害額としたらばこれの倍、数倍に及ぶかもしれない訳でして、日本経済や日本という国に対する原発事故による評価低下を含めれば将来的に日本のGDPを大きく揺るがす可能性を内包しているのが今回の大震災でした。
二カ月を経て被害の全容は辛うじて把握できるのですが、瓦礫除去だけで三年を要する、というのが政府の見積もりでして、行政機構が受けた被害を考えますと果たして地権者の確認だけで思い切った手段でも採らない限り一体何年掛かるのか、東北地方太平洋岸が再度美しい街並みを揃えるには十年単位の時間を要するのではないか、と考えます一方で、被害地域は日本全域からの面積を考えれば何とかなりそうとも言える訳でして、太平洋戦争における空襲被害地域復旧等の知識も掘り出す必要があるのでは、と。
実のところ、福島第一原発の原子炉格納容器が爆散しなかったというのは本当に幸いだと思っています。こういう事を書きますと不快感を持たれる方がいらっしゃるのを承知で、16日に首都圏に行った際当時の日記で恐らく首都東京をみるのはこれが最後なのかも、と思ったりしていたのですが、東京放棄ということは回避されまして原発関係者、自衛隊、消防の文字通り決死の努力により現時点ではまだ漏洩は続いているものの最悪の事態は回避しつつ厳しい状況が推移しています。
基本的に復旧は復興に大きくシフトしようとしているところなのですが、思い切って建築基準法や建築物建設における認可方式の後日承認措置等の構造開発特区指定を行い、とにかく仮設住宅を揃える、というものではなく、被災地に限り現実的な住宅復興の模索を行うべきでしょう。また、現政権が忌避する公共事業ですが、第一に防波堤復旧、第二に瓦礫撤去に関する現地雇用の拡大と継続を提示して、地場産業が復興に至るまでの期間を繋ぐ工夫が必要でしょう。
鉄道の復旧を始め、公共設備の再建には自治体の能力を超えた投資が必要になる訳でして、現実問題として出来ることから行う必要があります。住宅街は高台に再建、というような理想論も復興検討を行う会議などで提示されているのですが、これは住民が総意に基づき決定するべきものですし、この部分では地方分権、という現在の与党が繰り返し提示していた事を有言実行に移してもらう事が重要でしょう、つまり政府は予算面での支援を行うべきで余り計画をいじらないようにする、既存の法律で難しいのならば構造改革特区による指定である程度乗り越える、そういう配慮もあって然るべき、そう考えます。
他方で、今後わが国に被害を及ぼすであろう地震に対する防災というものも、根本的に再検討する必要があるでしょう。東海東南海南海地震はマグニチュード8以上の規模となる事が指摘されているのですが、この巨大地震への警戒は言い換えれば昭和東南海地震の前兆現象を確認できたことを以て次の東海地震も予知できるだろうとの希望的観測に基づき警戒されているのですが、このほかに巨大地震は切迫していない錯覚を持つ一方で、予知できないだけで巨大地震の危険性は常にわが国の脅威となっています。
即ち、来るだろうという一つだけを警戒しているのが現状でして、来るか来ないかさえもわからない、という状況に対しては無防備、そこを突かれた訳です。耐震強度の厳格化、防災道路の充実、沿岸防波堤の強化、そして災害派遣に向かう組織の機動力向上と後方支援能力充実、自治体の耐災害能力の拡充、行うべきことは山ほどあります。他方で、災害に備えるという事は一種の民間防衛を強化する事でもあり、自衛隊の機動力強化と即応性向上に継戦能力充実はそのまま日本の国家的非常事態に対する危機管理能力の向上にも繋がる訳ですから、一義的な側面以外に着目した場合、確かに予算を必要とする難題ですけれども、やって無意味であることだけはないと考えます。
次は何処に地震が襲来するのか、非常用持ち出し袋には三日分の食料を、というのが防災などでよく語られる言葉ではありましたが、地震被害が一定以上の規模に及んだ場合には三日分ではとても足りず、しかし、あまり多くのものを避難用品としてしまえば重量が過大となり避難時の脆弱性を高めてしまいます。個人ではなく社会で対応が必要、ということに。地域防災、スイスの民間防衛ほどではないにしても、地域による防災への備蓄や救急医療、通信、土木業務への準備が、消防団や水防団以上の規模で考えてゆかなければならないでしょう。
もう一つ、喫緊の課題はエネルギー政策です。政府からの強い要請により中部電力浜岡原子力発電所の原子炉は間もなく停止されるのですが、冷温停止して燃料棒を搬出できる状態とならない限り冷却能力を維持する必要はあり、危険性は福島第一原発と比較した場合根本的に異なるものではありません、電源喪失に備えた原発密集地域100km以内での電源車とこれを空輸する大型輸送ヘリコプターの部隊整備、という必要性はあるでしょうし、原発事故に備える原子力災害特務艦の建造、従来艦船の改修でもいいのですが、急ぐべきです。
しかしながら、原子力を脱原子力に持っていくのはどうするのか、政府は原子力を重視し二酸化炭素排出を抑制する政策を根本的に転換する構想を発表しているのですが、日本が要するエネルギーは膨大で、これを化石燃料により置き換える事となれば日本でさえも安全確保は難しいと発進することになるので他国の原子力政策へも影響が及ぶ可能性があり、資源市場は手がつけられないほどの高騰につながる可能性があります、再生可能エネルギーについては台風災害や高潮などの災害が連続する国情を鑑みた場合、現実的なのか、とも。
また幾度か書いているのですが、第四次中東戦争とそれに伴う石油危機がエネルギー自給自足を促すべく原子力発電を後押ししたわけですから、石油に依存する政策を採った場合、果たして日本は自らエネルギーの安定供給の為に、防衛力の展開を含む地域安定を目指す、ということは、果たして可能なのでしょうか、やはり難しいように思います。いや、国民がやる、と覚悟を決めるならば別なのですが、ちょっと絵空事でしょう。太陽電池、これ普通の家屋で全て自給しようとすると経年劣化と維持費を考えて一世帯当たり太陽電池の維持に年間100万円は見ておかなければならないようなのですが、まあ、これも難しいでしょうね。
ただし、電力が無ければ日本は工業国としての地位を完全に失ってしまいます、海外からの投資も難しいでしょう。途上国の地位に甘んじるのならばともかくとして、日本が資源を生まない国である限り工業生産はその生命線ですから、なんとかすなければならないのです、これはもう、地震に対応することが可能な原子力発電の方式を模索しつつ、火力発電という方式、そして水力発電を軸とした再生可能エネルギーの三分立を維持するほかない、と考えます。
この一点について、浜岡原発の停止が提示されているのですが、浜岡原発は東海地震の可能性が示唆された後に規模を拡大し、全国的に津波対策は進んでいる原子力発電所、老朽化した原子炉は順次新造のものに置き換えられています。浜岡原発が破壊されれば東京が危ない、と言われる割には首都圏の東海第二原発は無防備ですし、今回の地震が東海地震を誘発するのではという声もある一方で、それよりも近い震源域が想定されている宮城県沖地震と前述の原発。
浜岡が危険、といわれているのは理解できるのです、原発内に活断層が走っていますからね。映画でも黒澤監督の“夢”では赤富士の場面で静岡の原発が次々と原子炉連鎖爆発を起こす描写がありましたし、1984年の映画“ゴジラ”でも浜岡原発をモデルにした井浜原発が襲撃されています、ゴジラは来ないでしょうが地震は来るのですからね。映画の世界では原発事故に備えた抗核エネルギーバクテリアとか、原子炉冷却を想定したスーパーX-Ⅲなんかが出てくるのですが、現実世界には予備電源の搬送すらできなかったので、危険は感じるのでしょう、これは同感です。しかし、危険だと分かっていて準備している浜岡原発に対して、危険かどうかわからないので一応の準備しか行っていない原発はどうするのか、ということ。
それだけではなく、日本海には大きな津波は来ないと考えられており覆されたのが1983年の日本海中部地震でしたが、日本海側には特に若狭湾沿岸に多くの原発が集中しており、中には40年以上の老朽原子炉も運行されています。近くには活断層も見つかっており地震に強い原子力、この国で原子力発電を行うのであれば、浜岡原発だけに目を取られるのではなく、特に若狭湾の原発は浜岡原発から東京までの距離180kmで円を描けば大阪京都神戸名古屋が入ってしまうのですが、新しい堅牢な原子炉の建設による老朽原子炉の廃炉を進めてゆかなければなりません。
とにかく課題は多すぎます、聞くところでは神奈川県西部で収穫された新茶から許容量以上のセシウムが検知されたということがあり、被害は広がってはいるのですが、次の災害に備えた防災基盤の構築と自主地域防災体制の拡充を行うとともに今回の原発事案を念頭に全国の原発における対策の強化、何処に次は来るのかがわからないのですから、実施するべきでしょう。日本周辺でマグニチュード9.0が起こった、ということと日本周辺のプレートはエネルギーが解放される爆発の臨界へと今この瞬間もじりじりと動いているのですから、出来ることをすぐに行う、これまでは復旧と復興の両立が求められていましたが、これからは復興と防災の両立を考える、そう感じるのですがどうでしょうか。
北大路機関