◆実現すれば南西諸島での大きな対中抑止力
松島基地の津波により水没したF-2が18機中6機しか再生できないのではないかとの産経新聞報道がありましたが、少々飛ばし記事の気配がしましたので、本日は航空機の話題でも別の話題を掲載。
米軍機訓練地 鹿児島・馬毛島を検討 ・・・2011年5月19日 朝刊 防衛省が米軍厚木基地(神奈川県)から岩国基地(山口県)に移転する米空母艦載機の陸上空母離着陸訓練(FCLP)の候補地として、鹿児島県・馬毛(まげ)島(西之表市)を検討していることが分かった。 FCLPは滑走路を空母の甲板に見立てて離着陸する訓練で、激しい騒音を伴う。馬毛島近くには世界遺産の屋久島などがあり、西之表市をはじめ周辺自治体は既に強く反対、難航も予想される。 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題が行き詰まる中で、六月二十日にも開催される日米外務・防衛閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)を控え、FCLPの訓練地選定を進めることで米国に配慮したとみられる。
馬毛島は種子島の西約十二キロの無人島。同島のほぼ全域を所有する開発会社の社長は昨年十一月、法人税法違反(脱税)の罪で在宅起訴されている。 防衛省は開発会社から土地を買い取り、滑走路などを建設できるかを検討。沖縄の基地負担軽減策として、米軍嘉手納基地の戦闘機訓練を移転することも視野に入れている。 日米は二〇〇六年の在日米軍基地再編のロードマップ(工程表)で米空母艦載機の岩国への移転を一四年までに完了させることで合意。現在、千二百キロ離れた硫黄島で暫定実施しているFCLPも〇九年七月までに新施設を選定するとした。政府は住宅地に近い岩国基地では訓練を実施しないことを明言、米側は岩国に近い西日本で候補地を求めている。 ttp://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2011051902000028.html
南西諸島の米軍巡回地ということはこの方面における中国への非常な抑止力になりそうです。そういうのも米海軍の空母航空団る陸上空母発着訓練の候補地として、鹿児島県の島嶼部が挙げられた訳ですが、ここは現時点で自衛隊の施設が無く、全くの新設という形で飛行場とその支援設備、発着訓練を行うのですから緊急着陸などに備えた施設や、地上の整備や管制などを行う基地隊も必要になるのですから実現性については現段階では何とも言えないのですが、仮に可能ならばこのあたりに米軍が定期的に展開するというだけでも非常に大きな意味があります。この方面に対して中国海軍の動向が激しくなったとしても、常に訓練名目であっても米軍の空母艦載機が巡回するのですから、平時における恫喝に対して、米海軍のプレゼンスを発揮できるのですからね。
米海軍の第五空母航空団は厚木航空基地を前方展開飛行場として長く運用を続けてきたのですが、厚木航空基地周辺は戦時中でこそ周囲には民家もなかったのですけれども、1960年代から徐々に首都圏の住宅不足に合わせて宅地化が進み、今日では基地周辺がかなりの人口密集地域となりました。厚木といえばマッカーサーが降り立った飛行場であると同時に、旧海軍の一大根拠地であり、終戦時には色々とあった飛行場として記憶されているのですが、過去には艦載機の墜落事案もあり、この基地をそのまま空母艦載機の基地として運用し、万一大事故が発生した場合には日米関係にも影響を及ぼす政治的事案になる可能性がある、この観点から90年代より代替地への移転を模索してきました。
2000年代の米軍再編に合わせて、欧州等では基地の戦略拠点への集約等が大胆に行われた一方で日本では在沖米軍海兵隊の一部グアム移転と普天間飛行場移転意外には、この厚木基地の空母航空団移転意外あまり議論にならず、集約を求めて議論すればもう少し整理できたのではないかと思いつつも結果として在日米軍基地は相対的に世界における米軍展開拠点としてのポテンシャルが高まり、今日に至ります。さて、米海軍の第五空母航空団は最終的に山口県の岩国航空基地へ移転する事となり、どう基地は海上自衛隊の拠点であるとともに海兵隊航空部隊の拠点としても機能しており、瀬戸内海に面した基地ということもあって瀬戸内海側に新しい滑走路を建設することで人口密集地域への航空機発着に伴うエンジン音の影響を局限化することで合意を得ました。
しかし、空母艦載機の乗員には困難な空母への発着艦を可能とする高い技量が求められます。空母の全長は300メートpる少々、陸上所の句っ基地はどんなところでも戦闘にの発着を行う基地では2000㍍以上の滑走路を保有しているのですが、空母では大型と称される空母でも330㍍、ここに艦内の格納庫を合わせて50機以上の航空機が運用されるのですから、非常に混雑している甲板上、しかもタイミングを誤れば海上に転落し、現用航空機は重量がありますのでそのまま墜落は水没を意味します。
空母は洋上を航行していますから、一瞬でも着艦時に動揺を読み違えれば艦尾に激突、或いは着艦位置を飛び越してしまいます。空母に着艦した瞬間に数本の甲板上のワイヤーに機体から伸びたフックを叩きつけ絡めて、強制的に減速するのが着艦方法なのですが、少なくない確立でワイヤーとフックが繋がらない事があります、これは艦上要員により即座に確認されるのですが、失敗したらば瞬時にエンジンを最大出力に上げて艦上から空へ発艦しなければならず、この動作への移行が一秒遅れればそのまま海上に激突することになります。空母の甲板は世界でも最も危険な場所のひとつでして、甲板上でコースを離れれば航空燃料を満載した航空機の列に飛び込むことになり、それは死を意味しますし、航空機は日本では津波に覆われた機体の復旧を議論しているのですが、過去の米空母のじこでは甲板上で火災が発生すれば列機への類焼を防ぐために高価な戦闘機や攻撃機であっても迷わず海に投棄するほどです、類焼すれば空母には数千人の乗員が居ますから艦載機を捨てなければより状況が悪化する、という訳なのですね。
このために空母の乗員は陸上に置いても訓練を続ける訳です。そういうのも、航空母艦は長期航海の後には一定期間の定期整備が必要でして、この間飛行甲板は使えなくなります、米海軍に無尽蔵な航空母艦があればその艦乗員は別の空母で訓練を行えば良いのでしょうけれども、満載排水量は10万㌧を超え、ひゅうが型護衛艦の五倍以上もの大きさを誇る空母は米海軍でも10隻程度を維持するのがやっとでして、陸上での訓練が必要になるわけです。ところが、前述の通り、戦闘機のエンジンを最大限に挙げる飛行訓練ですので、その騒音は航空自衛隊の平時における戦闘機部隊の基地が発する音とは比較できないほどでして、宅地化が進む厚木で全ての訓練は実施できないことから、米軍は1991年より硫黄島において陸上空母発着訓練を行うようになりました。硫黄島には海上自衛隊の硫黄島基地隊が置かれ、太平洋における潜水艦脅威に対する哨戒機の中継拠点としての位置付けがあり、この観点から滑走路が維持されている一方で戦後は硫黄島における住民が無く、騒音問題が考えられなかったため、という事が挙げられます。
さて、岩国航空基地に米海軍の空母航空団が移転することになっているのですが、硫黄島航空基地は、厚木航空基地からの距離は比較的遠いものの陸上空母発着訓練を実施する上では最寄りの基地、という位置づけにありました。しかし、岩国航空基地から硫黄島航空基地を見た場合、小笠原諸島にある硫黄島はどうしても距離が大きすぎ、空中給油機の支援を受けたとしても周囲に緊急着陸が可能な滑走路が無い為、どうしても発着訓練の実施には二の足を踏んでしまうという事情がありました。そこで、馬毛島が候補地として挙げられている訳ですね。この馬毛島は普天間飛行場移転候補地にも挙げられていた島です。しかし、普天間飛行場の回転翼航空機は沖縄本島に展開する海兵隊の第31海兵遠征群など地上戦闘部隊と密接な位置に展開する必要があり、加えて海兵隊回転翼機部隊は発着訓練が任務ではなく戦闘訓練が主要な訓練となるのですから、演習場、沖縄の北部演習場へのアクセスも重要となります。結果的に北部演習場と海兵隊地上部隊に近くなければならないという要点を満たしていなかった事で馬毛島は候補から外れたのですが、岩国航空基地に移転する第五空母航空団にとっては、陸上空母発着訓練を実施する拠点としての要件を満たしている、と判断された訳です。
米海軍の空母艦載機が南西諸島近海を頻繁に行き来するようになれば、中国海軍としても南西諸島における一部海域を国際海峡と判断して通航する際に、上空から米海軍空母艦載機による威圧を受ける可能性、この可能性というものが講義の抑止力に当たるのですが、受ける訳です。実現するかは、今後の防衛省が行う努力にかかっているのですが、仮に実現するのならば、南西諸島に対する圧力を軽減するとともに、台湾に対する軍事的冒険に対する重要な障壁となるでしょう。また、ここは拠点といっても発着訓練場という扱いになるのですから、南西諸島の米軍基地がひとしく抱えるリスク、中国本土からの弾道弾脅威に曝されたとしても脆弱性を抱える訳ではなく、米海軍にとってもリスクは低い話です。今後の進捗を見守りたいですね。
HARUNA
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