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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

房総半島沖イージス艦あたご衝突事故、横浜地裁は当直幹部2名に無罪判決

2011-05-12 22:22:40 | 防衛・安全保障

◆無罪判決とともに根本要因の解決を!

あたご衝突事故、当直幹部2名への無罪判決が出されました。ハワイから帰国するべく横須賀に入港する直前に発生した事故ではありましたが、無罪という判決は出されているものの、正直なところ同様の海難事故と比べ、なんとも後味の悪い事故でした。

Img_3136  イージス艦「あたご」衝突、当直士官2人に無罪・・・  千葉県房総半島沖で2008年2月に起きた海上自衛隊のイージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事故で、業務上過失致死と業務上過失往来危険罪に問われた当直士官2人(起訴休職)の判決が11日、横浜地裁であった。 秋山敬裁判長は「清徳丸は衝突の危険を知りうる状況だったのに、一切回避行動をとらなかった」と、清徳丸側に衝突回避義務があったとして、衝突時の当直士官で元水雷長の長岩友久被告(37)(3佐)と、衝突前の当直士官で元航海長の後瀉(うしろがた)桂太郎被告(38)(同)に、いずれも無罪(求刑・禁錮2年)を言い渡した。 09年1月に出た海難審判の裁決は、事故の主因があたご側にあったと結論づけており、異なる判断を示した。清徳丸の全地球測位システム(GPS)が水没したことから、公判では、清徳丸の航跡の特定が最大の争点となった。検察側は、あたごと清徳丸がそのまま進めば衝突する恐れがある位置関係にあったとする航跡図を作成。海上衝突予防法上、清徳丸を右側に見ていたあたごに回避義務があったと主張していた。

Img_7490  しかし、秋山裁判長は、検察側の航跡図について、「恣意(しい)的に僚船乗組員の供述を用いて作成した。清徳丸が検察側の航跡図上にいたということは信用できない」と全面的に否定。長岩被告らの供述やあたごのGPSのデータをもとに独自の航跡を認定し、清徳丸について「遅くとも4時4分より前に大幅に右転した。(右転せずに)直進した場合、あたごの艦尾より200メートル以上後方を航行していただろう」と述べ、清徳丸側に回避義務があったとする弁護側の主張を認めた。 ただ、あたご側についても、「長岩被告は引き継ぎ後、不完全な情報をうのみにし、周囲の状況を十分注視していなかった」と、問題点を指摘した。(2011年5月11日14時05分  読売新聞) http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110511-OYT1T00299.htm

Img_8017  事故の後、かなりの期間に渡って護衛艦あたご、は母港舞鶴への帰港が許されず、何度か横須賀を散策に行きますと吉倉桟橋に停泊していたままでして、そのうちの意図度などは艦長の交代行事が行われているのを望見、こちらも深く考えさせられるものがあったのを覚えています。この事故の報道はかなりの偏向が掛かっていたものでして、例えばこの直後に海上自衛隊の護衛艦が練習航海の途上、ヴェトナムの寄港先において接岸中を曳船に衝突される事案が生じ、これをあたかも海上自衛隊が回避義務を怠ったように報じたものもありました、係留中に埠頭ごと回避しろとでもいうのでしょうか、と当時思いましたが、他にも四国で自動航行していた漁船が沖留の掃海艇に衝突した事故でも停泊地が悪いという識者の意見が出されたり、アメリカ海軍のイージス艦が横須賀港外でプレジャーボートに衝突した事案は大事故ではなかったにしろ殆ど報道されなかったりで少々違和感を感じたものです。

Img_8480 事故に際しても三隻の漁船が同時に護衛艦あたご、の進路上を横切ったもので、海上衝突防止法に基づく回避義務があったのかが大きな争点になっていました。もっとも、航行の航路図をみていますと、複数の漁船が航行していましたので、仮に回避義務があったとしても衝突により沈没した清徳丸を回避した場合別の漁船に衝突する可能性があり、海上衝突防止法の字義通りに回避行動を行った場合でも別の事故に発展していた事が航路図の検証などで判明しています、つまり衝突するのならば別の漁船に、という論調なのか、と思えば決してそうでもなく、何故漁船側が集団で護衛艦の前を、しかも浦賀水道という回避行動を取るには余りに過密している海域において実施したのかとも感じたのですが、その後の展示訓練等護衛艦に載せていただいた際、艦隊の列に突入しようとするプレジャーボートが海上自衛隊と海上保安庁に追跡されて逃げ回る様子、岸壁に停泊しつつある護衛艦の最も身動きが取れない状況において急接近する家族連れのプレジャーボート等、成程余り声明に執着していないのかな、とも思えるような危険行為を見ていますので、なんだかなあ、と思った事も。

Img_9653  ともあれ、事故であってもその後の教訓は充分活かされているように思います、衝突防止の監視強化は同艦が豊後水道において領海侵犯中の国籍不明潜水艦の潜望鏡を発見してしまうほどのレベルに達していまして、戻れない過去ではあっても、その教訓を活かすことによってのみ前に進む事が出来る、という行動を身を以て行っている事で、なるほど、と。更には書きたい事も多々あるのですけれども、こちらはこうした場所で書くには少々配慮が必要なものですので、一言にまとめますと、無罪判決であっても彼らは決して驕ることなく、謙虚に事故防止を追求してゆく事でしょう。

Img_3464  ただ、今回の事故には根本的な背景、要因がある事を忘れてはいけません、任務増大と脅威増加、対するは予算削減と人員艦艇縮小。護衛艦を見学しますと各部分に管理責任者が明記されています、一つ一つの器具にはそれぞれ対応する要因が割り当てられているのですが、護衛艦を含め自衛艦は365日24時間休むことなく機能させる必要があり三交代制が採られています、しかし、乗員が完全に充足されている艦は非常に稀です。これは希望者が少ないのではなく財務省が乗員の充足を平均して8~9割程度しか認めないためでして、そのため、臨時に他艦の乗員をやりくりするなど練度にも影響するような方策で以て任務を強いられている訳です、事故の背景にある任務増大と脅威増加に対する予算削減と人員艦艇縮小、これが安全に対する影響を及ぼしてしまったといえます。この点、政治は任務を押し付け、脅威増大を外交により制することが出来ないのでしたら、人員と艦艇と予算に関する考えを再考する必要もあるようなのですが、これは裁判ではなく防衛省による政策の問題、根本的解決に向けた防衛計画の大綱の改訂は必要とする結果からは遠いものにはなっていますが、事故を抑制する観点からは一考の余地は必要と考える次第です。

HARUNA

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コメント (18)
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