◆オデッセイドーン作戦での戦闘ヘリ少数運用
アメリカの公共放送PBSが昨日報じたところによれば、長期化するリビア空爆オデッセイドーン作戦にイギリス海軍が艦載機による航空攻撃を実施したとのことです。
イギリス海軍が投入したのは陸軍から派遣された三機のWAH-64、陸上自衛隊が運用するAH-64D戦闘ヘリコプターと基本的に同型機です。運用母艦となったのは、インヴィンシブル級軽空母の除籍によりイギリス艦隊旗艦となった強襲揚陸艦オーシャン、イギリスではコマンドー空母の後継として建造され、商船規格構造により建造費を抑えた一方で船体寿命と維持費の問題から早期退役が検討されていた揚陸艦です。
イギリス陸軍によれば、更に二機のWAH-64を派遣可能としていて、最大で五機のWAH-64によりリビア空爆を支える事が可能、とされています。一個飛行隊は米軍では十二機編成なのですが、今回三機の戦闘ヘリコプターによりどの程度の任務が可能であったのかは、WAH-64の投入が始まったばかりですので一概には言えないのですけれども、少数戦闘ヘリコプターの洋上母艦からの運用ということで日本としても関心を持ってみてゆく必要があると考えます。
航空攻撃、といえばトーネードやF/A-18,F-16等による攻撃が想定されるのですが、イタリアのシチリア島トラバニ基地やシゴネラ基地、サルジニア島のデチモマンヌ基地、ギリシャのクレタ島ソーダベイ基地から地中海を超えての任務となっていたのですが、今回は空母艦載機の運用、フランスもラファールを空母艦載機として若干数を投入したのですが、米軍が大部分の兵力を引き上げNATOが作戦主導権を握ったものの、元々NATOの精密誘導爆弾の備蓄は少なく、厳しい状況となっている模様。
イギリスと言えばハリアー、だったのですが最後のハリアーGR-9は昨年に国防費削減の一環として早期退役させられてしまい、飛行隊も今年一月には解体され、海軍には固定翼空母艦載機が無く、空軍でもハリアーの運用が終了したため、WAH-64が投入されたようです。ハリアーがあれば投入されたのでしょうけれども、WAH-64の能力でもリビア軍の防空能力から考えて対応可能、とされたのでしょう。まさかとは思いますが、スマート爆弾が尽きたのでヘルファイア対戦車ミサイルの誘導能力に依存したとは、いやまさかね。
他方でオーシャンにおけるWAH-64運用は導入当初から検討されている事項で、2005年から海上運用を実施しているのですが、2000年にシエラレオネにおいてアフリカ連合PKO部隊救出作戦を実施した際の航空打撃能力不足がこの背景にあるとされています。ちなみにイギリス軍が導入したWAH-64は67機、ウエストランド社によりライセンス生産されているため運用稼働率は高いとのことです。おおすみ型はオーシャンと大きさも運用も違うのではありますが。
現時点で、日本の視点からはこうした危険な地域への国際平和維持活動等に自衛隊を派遣するかは、未知数の状況にあるのですけれども、将来的にアフリカの紛争地域への自衛隊派遣という可能性があるのであれば、おおすみ型輸送艦や、ひゅうが型護衛艦への戦闘ヘリコプター運用は想定もしなくてはならないでしょう。特に情勢が急に悪化した状況に投入する、という可能性はありますから、ヘリコプター野整備隊の自衛艦への急速展開は想定外では済まされない事項。少数分散運用というものの在り方は一つの視点でしょう。
自衛艦へのヘリコプター展開ですが、輸送艦おおすみ、が3月16日に横須賀へ陸上自衛隊と航空自衛隊のヘリコプターを輸送しているのですが、ヘリコプターは17日には横須賀基地内の輸送艦から発進、そのまま被災地への輸送は実施されていません。車両甲板を車両用に空ける必要があったのかもしれませんが、過去のインド洋大津波国際緊急人道支援任務では派遣されている訳でして、即応性の問題なのか、判断できないのですけれども、一考は欲しいです。
もちろん、課題は大きいという事は承知です。おおすみ型輸送艦は満載排水量14000㌧、全通飛行甲板こそ有して入るのですがエアクッション揚陸艇の運用を第一に考えたドック型揚陸艦としての用途ですから、オーシャンの満載排水量21758㌧、航空機運用を第一として、揚陸艇は小型揚陸艇Mk5四隻に依拠して他は航空機の運用による空中機動に特化している設計と同一に考えることはできません。
また、少数運用を行うにしても、危険な紛争地域に孤立部隊への支援、平和執行任務における火力支援を行う、等など一定以上の危険が考えられる状況での運用を想定するのですから、万一不時着、となったような状況で乗員捜索救難をどのようにして行うのか、その為のヘリコプターを搭載する余力はあるのか、等実行するには頭の痛い問題。
ただ三機の戦闘ヘリコプター、この少数分散運用で何処までの任務が可能なのか、特に戦闘行動半径や搭載までの即応性、陸上飛行場からの支援が得られない艦上での稼働率維持はどう行うべきなのか、陸上自衛隊へのAH-64Dは一時終了とも言われたものの巨額の生産施設整備費用を補償金として要求されたことでこれを回避するべく生産継続が決定しましたし、ね。一応イギリスのオデッセイドーン作戦でのWAH-64運用実績を基に考えてみてはどうかな、とも思いました次第です。
HARUNA
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