◆UNMISS,資源外交の観点からは重要だが・・・
東日本大震災と重なり時期が余りにも悪いので派遣する事は現実的ではない、無理なのですが、資源外交の観点からは派遣の検討は本来するべきでしたが時期が悪かったという一言に尽きます。
スーダン南部独立へのPKO派遣 国連、日本などに打診へ ・・・2011/5/27 0:25 【ニューヨーク=弟子丸幸子】7月9日のスーダン南部の分離独立に向け、国連の潘基文事務総長が安全保障理事会に提示した平和維持活動(PKO)部隊の派遣案が明らかになった。軍部隊7000人と警察官900人が柱。国連事務局によると、ヘリコプターや工作部隊の需要が高く、日本を含めた数カ国に派遣を打診する方針だ。http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C9381959FE0E4E2E09A8DE0E4E2E7E0E2E3E39494E3E2E2E2;at=ALL
今年7月に南スーダン、人口800万の新しい国家がスーダンから独立することで誕生します。このため、国連は南スーダンの独立を平和裏に行い国家創設を支援するために国連スーダン南部派遣団PKO,UNMISSの派遣を決定しました。このために航空機や施設科部隊の派遣を日本に打診してきているという構図。
スーダンはアフリカ最大の領域を持つ国家であるとともに西部でのダルフール紛争、それに伴う民族浄化問題を抱えていてバシール大統領が国際刑事裁判所に提訴されています。他方で日産40万バレルの石油を算出するアフリカ有数の資源国でもあり、希少金属の鉱床もあります。
民族浄化など人権問題により欧米諸国が経済制裁を科すなどの結果欧米との通商関係が結べない中で一方で、人権問題と通商問題を区別する中国が接近している、という実情があります。この為、中国はスーダンとの石油等の通商関係を維持するためには国益の衝突が起きるので、自衛隊を派遣する場合には一定の覚悟も必要でしょう。
実際問題、ダルフール紛争への欧米の介入姿勢に対してもスーダンは否定的であるのに加えて、中国も紛争への国際社会の介入は内政干渉に当たる、として過去に反対しています。建て前と本音を分けて考えると、利益構造が合致するのですけれども、直接的な介入は無くとも間接的な関係はあり得るでしょう。
石油資源があるため、ロシアからMiG-29戦闘機やMi-24戦闘ヘリコプターの輸出型Mi-35を導入しており、稼働状態にあるほか中国からは最新鋭の99式戦車、中国国内では高度なFCS等を搭載した事で高価格化し調達数が制限されてしまった装備ですがその導入とライセンス生産を行っています。これらが圧力を掛けてくる場合には、こちらも90式戦車等の準備が必要になるかもしれません。
PKOが失敗し安定化の為の平和執行が求められる状況はコソボ等で事例があり、万一、泥沼化するようなことがあるのならば、追加として戦闘機や戦車部隊の派遣も必要になってくる、そして石油資源は南部スーダンにも分布している、これが覚悟が必要としたもう一つの背景です。
しかしながら、日本を含めた欧米先進国は、スーダンの安定化を必要としてきました。そういうのも、スーダンが人道上問題があるからこそ通商関係や資源購入、開発への参加や投資が出来ないのでありまして、言い換えればスーダンが安定化して平和な国家に生まれ変われば、大手を振って投資し購入し友好関係を深めることが出来る訳ですから、ね。
防衛省は既に国連スーダン派遣団本部に隊員2名を派遣していますし、先日、海賊対処航空部隊の拠点をジブチに完成させ、戦後初めて自衛隊は航空部隊の拠点を海外に持った訳なのですけれども、今回は恐らく数百人規模の、しかも施設機材や航空機など重装備を備えた部隊の派遣が求められ、南部スーダンとなりますと更に遠く、しかもスーダンは紅海に面しているものの南部は内陸部、状況の急変に想定すれば相当な準備も必要となるでしょう。
東日本大震災が続く今日では、自衛隊の新たなPKOへの派遣は人員規模からいって不可能です。これは派遣規模が縮小している現時点でも変わりありません。しかしながら、東日本大震災を契機に、特に福島第一原発事故を契機として、今後のエネルギー政策の転換を考えるのならば、日本は好むと好まざるとに関わらず資源外交を展開してゆく必要があり、先進国同士は勿論の事新興工業国との資源争奪戦にも参加する必要がでてきます。
そこまでせずとも、資源を原子力に頼り石油依存を薄めようとしていたのが現与党ですが、東日本大震災を契機にエネルギー政策の大転換を強いられました。安易に太陽エネルギー、という発言もありましたが、太陽電池パネル工場が太陽電池で稼働していない事を見ればわかるように発電効率は技術革新を経ても安易に原子力の代替になり得るものではありません、資源の安定供給とその確保を考えるならば、南スーダンとの関係は、東日本大震災の災害派遣がひと段落した後でも良いので、考えるべき課題でしょう。しかし、冒頭に時期が悪かった、と記載したのですが、参加の意義は原子力からの転換に起因するものですから、大震災と原発事故が無ければ考える事も無かったともいえる事例、この機会にもう一つ踏み込んで資源確保に対する国民の負担の在り方についても、考えるべきかもしれません。
HARUNA
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