◆日本周辺の現状
日本周辺海域における安全保障上の動向として、ロシア海軍と中国に関して動きがありました、本日はこの話題を掲載。
23.5.10・・・統合幕僚監部(お知らせ)ロシア海軍艦艇の動向について① 5月5日(木)午前11時頃、海上自衛隊第13護衛隊所属「いそゆき」(佐世保)が、上対馬の東約45kmの海域を南西進するロシア海軍のウダロイⅠ級ミサイル駆逐艦1隻及びバクラザン級救難曳船1隻を確認した。その後、当該艦艇が、対馬海峡を南下したことを確認した。② 5月5日(木)午後11時頃、海上自衛隊第2航空群所属「P-3C」(八戸)が、宗谷岬の西約170kmの海域を北東進するロシア海軍のデルタⅢ級弾道ミサイル原子力潜水艦1隻及びイングル級救難曳船1隻を確認した。その後、当該艦艇が、宗谷海峡を東航したことを確認した。http://www.mod.go.jp/jso/Press/press2011/press_pdf/p20110510.pdf
ウダロイ級は射程50kmのSS-N-14サイレックス対潜誘導弾四連装発射機二基を搭載する対潜戦闘に重点を置いた駆逐艦で1980年から12隻と改良型1隻が建造されたソ連海軍末期の新鋭艦、満載排水量は8700㌧あり、しらね型護衛艦よりも一回り大きな水上戦闘艦。デルタⅢ型は水中排水量13250㌧、1976年から14隻が就役した戦略ミサイル原潜で射程6500kmの100kt~300kt核弾頭三発を収容するSS-N-18-SLBMを16基搭載しています。ロシア海軍の動向ですが、これが平時における運用の一環であるのか、と問われれば難しいところです、昨年は大規模な演習を行い、原子力ミサイル巡洋艦を含むかなりの規模の艦艇が日本近海に展開していますので、これとを比較した場合本年におけるロシア海軍の動向は大きいとはいえないのですけれども、防衛省発表で5月5日という一日の間に、異なる方面にウダロイ級駆逐艦とデルタⅢ型戦略ミサイル原潜が確認された、というのは少し稀有な事例と言えましょう。
中国:沖ノ鳥島海域で海洋調査へ 放射性物質汚染調査名目・・・ 中国政府は、福島第1原発事故で放射性物質で汚染された水が太平洋に放出されたことを受け、海洋環境への影響調査を日本最南端の沖ノ鳥島がある西太平洋で実施する方針を固めたことが分かった。新京報(電子版)が13日報じた。 沖ノ鳥島について中国は「岩」にすぎず、日本が排他的経済水域(EEZ)を設定するのは不当と主張。同島周辺で中国海軍が訓練したり、海洋調査を繰り返してきた。今後、中国が同海域での活動をさらに活発化させる可能性が高い。 中国国家海洋局の劉賜貴局長は9日、丹羽宇一郎駐中国大使と会談し、放射性物質の海洋環境への影響調査や中国と日本の海上警備当局間でホットラインなどの連絡体制の構築などを提案した。 同局幹部は新京報の取材に「西太平洋は、わが国の海域と一衣帯水だ」と強調、11年からの5カ年計画で西太平洋での観測調査に乗り出す方針を示した。 沖ノ鳥島をめぐっては、中国が活動を活発化させていることを受け、日本は本年度から本格的な施設整備に着手。海洋調査船など大型船が係留できるよう岸壁などを建設する計画となっている。(北京・共同)http://mainichi.jp/select/world/news/20110514k0000e030011000c.html
中国の海洋調査ですが、厳重な抗議とともに海上保安庁巡視船による監視行動を行う事、相手が海軍を出すなどの挑発行為を行うのであれば護衛艦による巡視船護衛等を行う事で対応することはできるでしょう。海洋調査という名目ではありますが、日本の排他的経済水域内での行動であれば、中国は認めていないという主張を行ったとしても国家慣行として沖ノ鳥島周辺の排他的経済水域は中国が過去に認めている事、また、沖ノ鳥島は岩礁ではなく島嶼として国際法上の地位を有しているものでありますから、あれは岩だと今さら一方的に主張したところで実は無意味だったりします。さて、中国の西太平洋での行動ですが、今後震災を契機として防衛費が縮減されるような事があれば、日本のシーレーンは日本の国家運営に影響を及ぼす程度までに圧迫される可能性がある事を端的に示しています。小笠原諸島周辺海域への中国海軍の行動恒常化は、言い換えればアクセスする上で重要な位置づけにある沖縄周辺海域における中国海軍の行動の活性化を同時に示すものですので、充分な対応能力を整備しない事は単衣に西太平洋地域全域の不安定要素に繋がりますし、武力紛争を防衛力により抑止することが出来なければ先端産業の集約拠点である日本と世界の工場である中国との深刻な対立は即座に世界経済へも影響を及ぼすという事を忘れてはならないでしょう。
日本周辺海域での中ロの行動ですが、日本の国内情勢とは別にこうした事態は進行することを示してくれました。さて、今回の東日本大震災と今後の防衛費の関係について、識者と称する方の中には関東大震災の復興経費の際に海軍費を縮小したという事例を引き合いに出される方もいらっしゃるのですが、関東大震災は1923年という、1895年の日清戦争、1904年の日露戦争、1914年の第一次世界大戦、これらの戦争を経て日本周辺の安全保障環境が一段落したのちでの発言であり、地震規模では関東大震災を遥かに凌駕している1891年の濃尾大震災、被害は震源の岐阜県を中心に遠く横浜から金沢、大阪まで建物の倒壊が記録されマグニチュード8.0と日本の内陸部において発生した地震では史上最大規模の地震ですが、この際には日本は被害の大きさに衝撃を受けつつも安全保障環境の面から国防費への削減はできませんでした。先月28日には統幕より平成22年度航空自衛隊緊急発進回数が発表されていますが、規模は60年代後期の水準にまで活性化しており、この点も踏まえて認識が必要でしょうね。
HARUNA
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