◆日本も無関係ではないペルシャ湾の緊張
イラン核開発に対しての経済制裁に端を発したペルシャ湾の緊張はイラン海軍が湾口のホルムズ海峡封鎖を仄めかし、英海軍のミサイル駆逐艦派遣を筆頭に緊張状態が高まっています。
アメリカのパネッタ国防長官は18日に国防総省で行われた記者会見において、この地域に脅威となる行動があればアメリカは軍事行動を取る準備が出来ている、と発言。1日以降イラン海軍は水上戦闘艦による実弾演習を繰り返しており、米海軍は既に空母二隻が展開中です。
イラン海軍はロシア製キロ級潜水艦3隻を筆頭に小型潜水艦を含め11隻を保有、フリゲイト4隻、コルベット2隻、ミサイル艇23隻、哨戒艇65隻を運用しています。海軍規模としては非常に小さく、米空母機動部隊の戦力と比較すれば一撃で全滅する規模で、海上自衛隊の護衛隊群でも制圧できる規模といえるのですが、海上封鎖を行う事を考えれば機雷敷設や小型ボートによるロケット弾攻撃でもタンカーを妨害することはでき、地対艦ミサイルを含む砲兵も脅威に、軍事行動となればイラン海軍の拠点と陸軍拠点の無力化が必要で、軍事行動は一定以上のものとなる可能性があります。
ホルムズ海峡危機、と言うべき今回の事態は、日本としても対岸の火事で済ますにはあまりに厳しい実情があります。ホルムズ海峡は世界の石油流通における最重要海峡であり、福島第一原発事故を契機として全国の原子力発電所を順次停止している日本には、石油流通が滞ることは、今まで以上の経済と社会に危機を及ぼすことになることは確実でしょう。
また、日本はイランにおける石油掘削施設開発に伝統的な関係がありこの良好な関係を元に、イラン革命以降対立を深めてきたアメリカとイランの関係が危機的な状態に陥った場合には、日本がアメリカとイランの仲介を担った歴史があります。しかし現在の民主党政権下においてこうした試みが為されているようには見えず、外相首相ともに発言がありません。
為すべきことをなさず、しかしイランが行おうとするホルムズ海峡封鎖は日本の脱原発政策に大きな影響を及ぼすことになります、何故ならば1973年の第四次中東戦争に伴う石油危機が日本の脱石油原子力推進政策によるエネルギー安定供給を目指した背景にあるからで、何らかの措置、脱原発を掲げるならば具体的な対応と成果が必要なのではないでしょうか。
何故現状の危機となったのでしょうか。イランはエネルギー確保を明示しての核開発を進めていますが、世界有数の産油国であり石油埋蔵量に余裕があるイランの核開発は、イラン革命以降のイスラエル敵視政策や国軍の一部である革命防衛隊が外部組織としてテロ組織ヒズボラを運用していることから、核兵器開発、それも実戦用としての核兵器を開発しているという疑惑があります。
この核開発を止めないことは核戦争の危機を高めるという危惧、としてイラン政府がテロ組織として海外でのテロ活動を行っていることから核テロの危険性も指摘され、アメリカはイランからの石油禁輸と送金禁止という非常に厳しい経済制裁を行う方針を決定しました。イランへの経済制裁の衝撃は大きく、石油輸出に経済を依存するイラン通貨は突如として半値まで暴落しました。
これに反発する形でイラン政府は海軍力等を動員し、イラン沿岸に或るペルシャ湾の湾口、ホルムズ海峡の武力封鎖を示唆したのです。ペルシャ湾には、サウジアラビアのペルシャ湾岸港湾、カタール、アラブ首長国連邦、イラクの石油積み出し港があり、世界の石油流通を大きく左右する重要な海峡で、この海峡の安全は何としても守らねばなりません。
ホルムズ海峡封鎖を阻止せよ、最初の行動は1月8日、イギリス海軍が最新鋭の45型デアリング級ミサイル駆逐艦の派遣を発表、海上自衛隊あきづき型護衛艦と同程度のイギリス海軍としては大型艦を派遣することとなり、続いてアメリカ海軍もインド洋周辺の空母部隊をイラン沖へ展開させることとなったわけです。
ホルムズ海峡をめぐる一連の緊張に対して、アメリカ海軍は強力な空母機動部隊を派遣することで危機の鎮静化を図っています。産経新聞の報道では原子力空母ジョンステニス、原子力空母カールビンソンを派遣し完全な準備が完了しているとしており、時事通信によれば中東方面へカールビンソンに加え原子力空母エイブラハムリンカーンを派遣中、緊張は高まるばかりというところ。
今回の危機に対し、諸外国の対応では中国の温家宝首相の発言として、ホルムズ海峡は需要な国際航路でありどのような状況下でも安全と船舶航行は保障されるべき、と発言したうえで、イランが核兵器を開発製造することは断固として反対だ、と声明を発表しています。他方、ロシアのラブロフ外相は、イランへの制裁強化の反対姿勢を示したうえで、難民増加や宗派間対立に油を注ぐようなものであり終わりのない状態へ陥ることを危惧する意見を表明しました。
解決の糸口について、見通しを探しますと、まずイラン政府としては国際原子力機関による核関連施設への査察を受け入れる姿勢を示しています。この査察がイランの核開発が核戦争へ至らないと明示することが出来、これまでの期間に行われる経済制裁の期間中にホルムズ海峡における武力攻撃を行わなければ、展開する米空母部隊による軍事攻撃は行われないでしょう。
危機は国際原子力機関が査察を完了するまでの期間にイランへの経済制裁が継続され、この期間においてイラン政府が核関連設備の非開示を行えば経済制裁の期間が長引き、通貨暴落による混乱が続くことになるので、その分の不快感がホルムズ海峡での軍事行動として表面化し続け、これに対応する目的での空母部隊による危機封じ込めも継続、ホルムズ海峡危機は続きます。
日本にとってこの緊張の長期化は避けなければなりません。海上自衛隊は、ソマリア沖の海賊対処任務へ護衛艦を派遣していますが、この派遣はソマリア沖海賊事案が日本の経済活動に対し死活的影響を及ぼす、との判断があったからです。しかし、ホルムズ海峡封鎖が現実となれば日本への影響はソマリア海賊の比ではありません、最悪の状況に備えると共に予防外交を軸に緊張緩和と危機回避という方策は、もっと模索されるべきでしょう。
北大路機関:はるな
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