北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

再考:防衛大綱、戦車定数削減の事業評価が必要ではないか

2012-01-22 23:09:11 | 北大路機関特別企画

◆価格高騰と代替装備は予算縮減に寄与したか?

戦車について、一個連隊戦闘団に配備される戦車は一個中隊、しかし戦車数削減によりそれも難しくなっているのが今日の実情です。

Img_4927こうした中で、戦車は大規模な戦闘に際しては消耗する、という概念が本来は考えられてしかるべきで、正直なところ、損耗予備という概念を考えるならば、師団戦車大隊や旅団戦車隊以外に何らかの予備を備蓄する必要はあると考えるのですが、防衛計画の大綱において戦車定数が削減されている中、教育所要というような抜け道を探さなければ戦車の確保が難しくなっています。イラク戦争や湾岸戦争戦車戦を見れば優位を保った米英軍の戦車損耗は非常に少なかったのですが、第四次中東戦争などのイスラエル軍の記録を見ますと、戦車は消耗するものなのだ、という話を中隊全滅や大隊再編成、という頻繁な出来事と共に教えてくれました。

Img_5315しかし、防衛計画の大綱が改訂されるたびに、戦車部隊の縮小という措置が採られているのですけれども、正直な疑問があります、戦車定数を大きく削減して、どれだけの予算が節減できたのか、という、即ち事業評価が全く行われていないのではないのか、というお話です。ざっと考えて二つの視点から、戦車は減らしたのだけれども戦車調達費以外の防衛費全体ではたして予算は節減できているのか、という疑問があります。二つとは第一に生産数縮減による量産効果低下での価格高騰、そして第二に戦車を置き換える打撃力確保という予算の必要性、これが忘れられているのではないでしょうか。

Img_4261 神話というべきでしょうか日本の兵器は高い、という話。昔は確かに現実問題として自衛隊装備は量産効果が低いため取得費用は諸外国の大量生産されている戦車と比べ高かったのは事実です。しかし、諸外国が冷戦後軒並み戦車生産規模を縮小していまして、結果各国の戦車は価格が高騰、スペイン軍が導入するレオパルド2A6戦車や韓国の最新鋭K-2戦車は、自衛隊の90式戦車や最新鋭の10式戦車の倍以上の取得費用となってしまています。同じ土俵に立ったわけなのですが、戦車生産は防衛産業の協力により成り立っているわけです。

Img_4770 生産数は低下したとしても生産基盤を維持するために、生産ラインに関係する人件費が戦車生産に懸かるすべての企業から必要となるのですし、生産器具や工場の費用も馬鹿にはなりません、単純な話維持費と人件費を年間50億としましょう、戦車生産数を1両にまで削減したとしても50億円+資材費+加工手数料が必要になります。しかし年間生産数を50両としたらば、一両当たりの生産基盤維持費は1億となる計算です、まあ50億というのは何の根拠もない話なのですがね。無論、資材と加工に費用がかかりますので1両よりも10両の方が費用は掛かりますし、50両の生産であれば全体的に更に掛かるのは言うまでもありません、ですが単価を下げることが出来れば、多くを調達することが出来るということ。

Img_5021 ここで先ほど示した二つのうちのもう一つの視点が意味を持ってきます。戦車は削減、しかし戦車の打撃力を補う装備品、防衛計画の大綱では普通科の重視が挙げられているのですが、普通科部隊の装甲戦闘車大量配備といった施策が行われれば必要な費用は戦車部隊で減った分普通科部隊で増大することになります、航空打撃力として戦闘ヘリコプターや支援戦闘機の増勢が必要となった場合にはさらに費用は起きくなります。この背景は、脅威が増大しているため打撃力が必要であり、その手段が戦車か普通科か航空科か、という視点なのですから当然の結論とはいえるでしょう。

Img_5101 そして費用とは別の視点から、冒頭に記しましたが普通科連隊が戦闘団を組んだ場合は配属される戦車は一個中隊、師団普通科連隊は四個中隊と対戦車中隊もしくは五個中隊編成、戦車中隊は三個小隊編成、戦車は一定の数で運用されるのですが、予備戦車が無かったとすれば戦車の運用に躊躇が生じることはないでしょうか、数両が損傷するだけで戦車中隊の小隊編成は再編しなければなりません、予備戦車が潤沢に供給されなければこれも難しくなります。下手に戦車数を削減したことで生じる抑止力の低下や運用への制約、そして量産効果低減と代替打撃力取得による防衛費全体での影響、これら視点から、果たして戦車を削減した政策、防衛計画の大綱での戦車部隊縮減措置は正しかったのか、事業評価が必要になるのではないか、そう考える次第です。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする