◆イランイラク戦争海峡危機では巡視船派遣を検討
ロイター通信によれば米海軍の原子力空母エイブラハムリンカーンがホルムズ海峡を通峡しペルシャ湾へ展開したとのことです。
イラン政府は今回の通峡について、平時の米海軍の行動であり派遣の拡大に繋がらない、と発表、米i軍への軍事的挑発などは行われずイラン海軍と米海軍の衝突への懸念はひとまず回避されたようです。万一衝突という事態となれば、海上自衛隊もタンカー護衛へ護衛艦などを派遣する必要性に迫られていたでしょう。
日本ですが、過去にもホルムズ海峡危機がありました、1980年代のイランイラク戦争に際してのタンカー攻撃です。これに対して日本はどう対応したのでしょうか。自衛隊派遣という話は検討に終わりましたが、当時の運輸大臣であった橋本龍太郎氏はタンカー被害に対し、日本の生命線を護るために自ら隷下の海上保安庁巡視船部隊を率いてペルシャ湾へ乗り込む、と発言したほど強い判断を行っています。
今回のホルムズ海峡危機において米海軍の航空母艦への動向が注目されたのは、アメリカによるイラン核開発への経済制裁に対し、ホルムズ海峡封鎖による世界石油流通への打撃を試みたイランの軍事行動実施への試金石が、米原子力空母ジョンCステニスがペルシャ湾でのローテーションを終了しホルムズ海峡からアラビア海に出たのち、後続する空母の通峡を妨害する可能性が示されたところに焦点がありました。
イランはホルムズ海峡の封鎖を示唆し、ミサイル艇や潜水艦もしくは航空機によるタンカー攻撃や機雷敷設とロケット弾攻撃という選択肢を持っていたのですが、米海軍の空母部隊による打撃力は凄まじいの一言に尽き、実施されていればイラン海軍は大きな打撃を受けたことでしょう。
航空母艦の打撃力、具体的には空母艦載機には54機から最大72機の空母航空団が展開し、戦闘攻撃機、電子戦機、早期警戒機を有しています。航空自衛隊で言えば九州の西部航空方面隊が要撃飛行隊三個の約60機基幹ですので、九州が動いているようなもの。その周囲を数隻のイージス駆逐艦が警戒し、前方を原潜が哨戒していますので、余程の海軍力と空軍力が無ければ太刀打ちは考えるだけ無駄です。
さて、しかし散発的な攻撃、もとより米海軍の航空母艦が軍事行動を行えば、その規模は大きいと前述したとおり、結果論としてホルムズ海峡は封鎖されることとなります。無論、イランが封鎖する場合と比べ主導権は米海軍にありますので米海軍の軍事行動が終了するまでの間、ということにはなるのですが影響は少なからずあるといわざるを得ません。
イランイラク戦争当時であれば、海上保安庁の巡視船を派遣する、ということが憲法上行える最大の選択肢だったことは確かです。今では信じがたいことですが、マリアナ諸島における日本漁船大量遭難事件に際しての海上自衛隊マリアナ諸島派遣や災害派遣さえも制約があった時代、そんな時代だったわけです。
しかし、1990年代に入り湾岸戦争敷設機雷の掃海任務へ海上自衛隊より掃海艇が派遣され、カンボジアPKOへ陸上自衛隊が派遣されたことを皮切りに自衛隊の海外任務は年々増大、2000年代には国連憲章七章措置PKOへの自衛隊派遣、自衛隊イラク派遣、インド洋対テロ海上阻止行動給油支援が行われ、現在は海賊対処とPKOにより自衛隊は遠くアフリカでの長期的活動を行い、ジブチには航空拠点を創設するに至りました。今ならば、ペルシャ湾でのタンカー護衛を要請された場合、日本関連船舶であれば自衛隊法に基づく海上警備行動を行わなう必要性はあるでしょう。
こうした中で、緊張は一時緩和されたものの、まだ危機は去ってはいません、23日にブリュッセルにおいて行われた欧州連合外相理事会において欧州連合加盟国によるイラン原油の輸入禁止措置を決定しました。決定へは欧州連合加盟国であるギリシャがイランへの依存度が高いことから完全禁輸までに六月末と一定の猶予に当たる時間は盛り込まれましたが。
これによりイランは核開発を停止させたことを世界に納得させない限り、経済危機の危険に曝され、対抗措置としてのホルムズ海峡封鎖を掲げ続けねばならなくなりました、そういう意味では今回の危機は、現段階では空母のペルシャ湾入りという状況が短期間の危機回避でしかないことはを認識するべきでしょう。
一方でもう一つの危険としては、中国とイランの関係です。中国はイラン核開発を批判しつつ、石油輸入は継続させる姿勢を示しています。資源輸入により経済成長を支える中国には、この問題は死活的重要性を有する問題ですが、中国の資源外交は、例えば欧米が人権抑圧国家との資源取引を行わないとしていたスーダンに対し、その石油資源の独占的公益関係を結び批判を集めました。
米中間、今回は視点こそ違いますが、資源外交が対外的に及ぼす影響を軽視した故の米中対立という可能性を残してしまっています。思わぬ方向から我が国へ影響する危険性もあることは認識すべきでしょう。ともあれ、ホルムズ海峡の情勢は予断を許さず、注意深く見守ると共に最悪の状況に陥った場合を想定しての準備が望まれます。
海峡が機雷封鎖されれば、掃海艇派遣が求められるでしょうし先日中東において多国間訓練を行ったばかりです。航空母艦が軍事行動を行うとすれば有志連合へ加わる名目から補給艦派遣を求められるかもしれません。タンカーが危険に曝されればソマリア沖海賊対処任務に加えてペルシャ湾海上警備行動を求める声が海運会社や経団連から求められることでしょう。状況悪化を回避するうえで採りうる選択肢を準備し、同時に影響を最小限化する模索は最大限行われるべきと考えます。
北大路機関:はるな
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