◆南西方面への軍事圧力が前年比倍増
防衛省は今月19日、航空自衛隊が実施する対領空侵犯措置任務でのスクランブル発進の今年度第3四半期までの件数を発表しました。
335回と現時点の数では非常に多く、冷戦後としては異常な規模なのだな、と思うのですがロシア軍機の規模は例年並み、しかし南西諸島への圧が昨年の倍以上となっており、沖縄には一個飛行隊が置かれているのみ、この圧力はなんとか沖縄周辺へ戦闘機部隊を増勢しなければ、と危惧するに十分な内容でした。スクランブル発進は、今年度四月一日から十二月三十一日までの現時点で335回、こののち三月末日までの件数が加えられますので、今後さらに増大します。昨年度の緊急発進件数は386回、ですが昨年度はソ連崩壊後最大の件数でした。
冷戦後の件数を見てみましょう、92年度311回、93年度311回、94年度263回、95年度166回、96年度234回、97年度160回、98年度220回、99年度154回、00年度155回、01年度151回、02年度188回、03年度158回、04年度141回、05年度229回、06年度239回、07年度307回、08年度237回、09年度299回、10年度386回、このように推移しています。最盛期には1984年の944回があり800から900で推移していた時代とを比べれば縮小しているのですが、しかし我われが冷戦終結後、と平和の時代として一括りにしている時代においては異常な数値といえるのではないでしょうか。
こうしたなかで、異常な数値、といえるのは航空方面隊別の緊急発進回数です。航空自衛隊は全国を四つの管区に分けて防空任務にあたっており北海道と東北北部を北部航空方面隊の戦闘機四個飛行隊、本州中央部全域の防空任務を中部航空方面隊の戦闘機四個飛行隊、本州西部と九州の防空を西部航空方面隊の三個飛行隊、南西諸島の防空を南西方面航空混成団の一個飛行隊が担っています。南西諸島はここ十数年までの期間、中国を対岸ににらみつつも冷戦時代には南西諸島付近まで戦闘行動半径を有する戦闘機が非常に少なく、その分一個飛行隊により対応できていました。
冷戦時代、航空自衛隊への最大の脅威は北方のソ連空軍と今日のロシア空軍であり、緊急発進の件数も北部航空方面隊が最大であり、航続距離の大きなロシア軍機による東京急行と呼ばれる太平洋岸に沿っての南下は日本への無言の圧力として機能していたのです。しかし、今年度は緊急発進件数を見る限り、北部航空方面隊は123、たいして南西方面航空混成団は150、数としては南西諸島の方への脅威が増大していることを示しています。昨年度の同時期への南西方面航空混成団の緊急発進回数は65回、すでに倍以上の規模となっているのがわかるでしょう。
このうち、ロシア機は推定を含め175回、たいして中国機は143回。昨年度全体ではロシア機が264回に対し中国は96回ですので、現時点で中国機の動向が昨年の総数を大きく上回っていることがわかります。中部航空方面隊は現在32回で昨年の同時期が69回となっており昨年度全体は80回、西部航空方面隊は現在30回で昨年の同時期が31回という数値で昨年全体では40回、例年並みの規模で推移しているので、これを南西の増援へ、と一瞬は考えるのですが中部航空方面隊は日本海を挟んで北朝鮮を睨むとともに首都東京の防空を担う重要基地、西部航空方面隊は対馬海峡を挟んで韓国と非常に近い距離にあり引き抜くことはできません。
南西方面航空混成団は現在一個飛行隊を基幹としているのですが、数年内に二個飛行隊基幹の編成への増勢が防衛計画の大綱に明記されています。ただし、防衛計画の大綱では戦闘機定数全体は増勢されないため、どこからか引き抜いてくる必要があります。件数からは九州から引き抜くことが考えられるのですが、中国沿岸部から九州の距離は南西諸島に次いで近く、この地域の防空を手薄とすれば、今度は九州南部が危険に曝されることとなるでしょう。北方は今なお件数がおおく、北朝鮮は空軍力こそ限られていますが防空を疎かにできるものではありません、首都防空を手薄にすることは尚出来ないでしょう。
飛行隊定数を縮小して戦闘機定数を変化させず飛行隊を増強する、という荒業もありますが、飛行隊が増えれば機数は同じでも管理要員の増員が必要になるのでこれも難しいところ。加えて遠くない将来に現在公試中である中国海軍の航空母艦が小笠原諸島や本州四国太平洋岸といった、これまで航空自衛隊が想定していなかった地域に航空部隊を進出させ、脅威を及ぼすことが予想されます。南西諸島の防衛強化に一個飛行隊、遠くない将来に小笠原諸島を防空する一個飛行隊、本州四国太平洋岸を防空する一個飛行隊、計三個飛行隊は増勢が必要です。確かに財政難ではあるのですが、防災対策と同じく抑止力というものを防衛費として計上し事態の悪化を阻止する必要はないでしょうか、必要な対策を講ずることなく例えば原子力事故のように後日想定外だった、として苦難と悲劇を国民で共有することは、避ける道を選択すべきではないでしょうか。
北大路機関:はるな
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